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IBD患者さんの治療継続のモチベーション~治療への関与度と病状理解の自主性~【メディリード自主調査】

2024/05/14
メディリード / マーケティング&コミュニケーション部

株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証一部3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区 代表取締役 亀井 晋、以下「メディリード」)は、炎症性腸疾患(IBD)患者の治療の満足度及びその背景となる医療従事者とのコミュニケーションなどについての自主調査(2023年)を行い、426名からの回答を得ました。

本記事では、近年患者数が急増し、社会的影響も大きい炎症性腸疾患(IBD)の患者さんについて焦点を当てています。
前回(第二回)は、IBD患者さんの「治療の満足度はどうなっているか」及び、「(患者さんは)その結果どのような状態になっているか」について取り上げました。
第三回は、IBD患者さんの「治療へのかかわり度、病状理解への自主性はどのくらいあるか?」について取り上げます。

IBDは慢性的な疾患であり、治療選択には多様性があります。
患者さんの症状や生活への影響は個々に異なるため、医師だけではなく患者さん自身が主体性を持って治療選択に関わるSDM(Shared Decision Making)が有益であると考えられており、特に欧米で推進されています。
では実際のところ、日本のIBD治療においてSDMはどのくらい浸透しているのでしょうか。それに関連して、患者さん自身はどのくらい積極的に病状についての理解をしようとしているのでしょうか。そしてSDMの浸透度や患者さんの自主性は、治療継続のモチベーションに関連するのでしょうか。

※第一回記事はこちら
※第二回記事はこちら

調査概要

調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象: 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人
調査期間: 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木)
有効回答数: 426
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります

回答者属性

今回の調査におけるIBD患者さん426名の属性は以下の通りです。

〈図1〉


第三回レポートサマリー

〈図2〉


調査結果詳細

治療へのかかわり度、病状理解への自主性はどのくらいあるか?

私たちは今回の調査において、下記のような仮説を立てました。

  • 治療において「医師主体」ではなく、自主性が高い人の方が、中断意向は低い
    つまり、SDMが進んでいる(治療や薬剤の選択を医師とともに行っている)場合の方が中断意向は低い
  • 治療や薬剤の情報についての理解が深く、情報獲得への積極性も高い方が、中断意向は低い
    つまり、薬剤や治療の選択肢などを認知している、情報を積極的に知りたいという意欲がある人の方が、中断意向は低い

実際のところはどうなのでしょうか。
中断意向の有無に加え、今回も年代別での違いを見ていきたいと思います。

中断意向有無でみた特徴

まずは中断意向あり者となし者の違いに焦点を当ててみました。

治療決定へのかかわり度

<図3>は「現在の治療を決めるにあたり、あなたご自身はどのくらい関わりましたか。」と質問した結果です。

〈図3〉


全体で64.3%が「主治医がすべて決めた」と回答しており、未だ6割超の人が、治療はすべて医師任せであるという結果になりました。
中断意向あり者となし者で数値に差はありませんでした。つまり、治療決定にあたって自身が関われるかどうかで、治療継続のモチベーションが変わってくるというわけではないようです。

最新情報獲得への積極性

次に、情報収集の積極性について聞いてみました。
<図4>は、「【罹患疾患】を治療しながらの生活について、どのようにお考えですか」という設問において、「病気や治療についての最新情報は、積極的に知りたい」という記述についての同意度を示したものです。「強くそう思う」を10点、「全くそう思わない」を0点として、選んでもらいました。

〈図4〉


中断意向なし者の方があり者より高得点者が多いという結果になりました。これは仮説どおりでした。
治療継続モチベーションが高めの人(中断意向なし者)は、病気や治療についてもっと知っておきたいという意欲があり、それが治療継続モチベーションとも関連していることがうかがえます。

病態や治療についての認知

治療継続モチベーションの高い人(中断意向なし者)は「病気や治療についての最新情報を積極的に知りたい」というように、情報への関心は中断意向なし者より高いということがわかりました。では、患者さんは治療内容や薬剤の効果についてどのようなことを知っているのでしょうか。知っている内容について、中断意向あり者となし者でどのような違いがあるのでしょうか。
「【罹患疾患】の病態や治療について、ご存知のことや聞いたことがあるものをすべてお知らせください。」と尋ねた結果が<図5>です。

〈図5〉


私たちは、「治療継続モチベーションの高い人(中断意向なし者)の方が、病態や治療についての理解度が深い」という仮説を立てていました。つまり、病態や治療について、認知している事柄が多いのではないかと考えていました。
しかし、今回提示した病態や治療についての特徴事項において、「中断意向あり者」の認知個数は3.43個であるのに対し、なし者では3.27個と、「中断意向あり者」の方が多くなっていました。つまり、「中断意向あり者」の方が、病態や治療、薬の効果などについてよく知っているという結果になりました。

前項では、「最新情報を積極的に知りたい」と思っている度合いは、治療継続モチベーションが高い人の方が高いという結果が出ていたにも関わらず、病態や治療上の特徴についてより多くの知識を持っているのは、治療継続モチベーションが低い人達である…
それはなぜなのでしょうか?病態や治療についての理解度は高めであるにもかかわらず、なぜ治療継続モチベーションにつながっていないのでしょうか?

提示した選択肢をよくご覧ください。どれも一見ネガティブな内容に見えませんか?
特に、「免疫の病気であり、不摂生や生活習慣によるものではない」「現在の医学では、どの薬が誰に効くか、事前にわからない」「薬は、初めに効果があっても、いつか効かなくなることがある」においては、中断意向あり者ではなし者と比べ5%以上高くなっています。
つまり、「病態や治療についての情報」自体はネガティブな意味合いを含むことが多く、患者さんがそれらを知っていても、治療継続モチベーションアップにはつながらず、却ってやる気を減少させる結果になっているのかもしれないと考えられます。

「不摂生や生活習慣によるものではない」と言われたら…
「では、自分のせいではないということ?努力しても(生活習慣改善などに努めても)報われないということだろうか?」
「現在の医学では、どの薬が誰に効くか、事前にわからない」「薬は、初めに効果があっても、いつか効かなくなることがある」と言われたら…
「では、薬を飲んでいても意味がないのでは?」
と思ってしまうのではないでしょうか。

そこで、「病態や治療の特徴について知っても却って治療モチベーションが削がれることがあるのなら、むしろ、知らせないほうが良いのだろうか?」
…と考えてしまう方がいらっしゃるかもしれません。
しかしそれは早計かもしれません。<図6>をご覧ください。

〈図6〉


第一回でも触れましたが、治療継続モチベーションの低い人(中断意向あり者)はなし者よりも、「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できると思う」度合いが低いのです。

つまり、病態や治療について、機能的に知っていればそれでよいわけではないということです。
患者さんが治療を行うのは、当然ながら「治療した結果、良くなった状態」を目指しているためです。病態や治療そのものの特徴を知ることは最終目的ではなく、目指す状態があり、そのための背景や手段として「病態や治療の特徴を知っておくこと」が重要になるのです。

つまり、ネガティブに思える特徴があるが、「主治医の指示を守って治療を続ければ、長期的に寛解できる」ところまでをセットで理解しているかどうか。言い換えれば、未来に希望が持てるかどうかが、治療継続モチベーション維持のためには重要であるということです。

年代別でみた特徴

これまでみてきた項目について、今度は年代別での違いをみていきます。

治療決定へのかかわり度

<図7>は治療決定への自身の関与について年代別でみたものです。

〈図7〉


年代が上がるごとに「主治医がすべて決めた」の割合が高くなり、60代以上は7割を超えています。
逆に、30代以下では「主治医がすべて決めた」が55.4%と半数程度になっており、年齢が若くなるほどSDMが浸透してきているとも言えます。

最新情報獲得への積極性

情報収集の積極性について年代別で見てみたのが<図8>です。「病気や治療についての最新情報は、積極的に知りたい」という記述についての同意度を示しています。

〈図8〉


60代以上が一番高いという結果になりました。8点以上の高得点者の割合が7割超となり、50代以下までと比べると20%程度高くなっています。10点も32.3%と全体の3分の1近くになりました。
前項目で見たように、治療選択については自身の意見を入れるよりも、主治医任せ傾向が高かったのが60代以上でした。それを考えると、「最新情報を知りたい」というのは治療について自分の意見を反映させるためではなく、好奇心として知っておきたい、背景情報を知って納得したいということなのかもしれません。

病態や治療についての認知

病態や治療についての認知事項、および認知している数は年代別でどのような違いがあるのでしょうか。

〈図9〉


認知事項の数は40代が最も多いという結果になりました。第二回で取り上げた治療の満足度や現状の満足度において一番低かったのが40代であることを考えると、一番現状に満足できていない40代において病気や治療についての理解度が高めであるということになります。これも、中断意向有無で見た場合と同じく「病態や治療の機能的な特徴について知っていることが多い」からといって治療や現状の満足度にはつながらないことが示唆されています。

治療の結果としての「長期寛解達成」への理解度を見てみます。

〈図10〉


年代別でみても、40代において「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できる」についての同意度が低めでした。ここでも、「病態や治療について知っていることが多くても、結果として望ましい状態が得られると思っていない」状況が特に40代で起こっているということがわかります。それが40代の満足度の低さとも関連している可能性があります。

なお、「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できる」ことについて同意度が低いというのは、主治医の指示を守れば長期寛解が達成できるということ自体を知らないのか、主治医の指示を守ることに重きを置いていない(指示を守ったところで長期の寛解達成はできないだろうと思っている)のかは、定かではありません。

まとめ(示唆)

今回はIBD患者さん自身の治療への関わり度や病状理解へ自主性について焦点を当てました。

患者さん自身が治療選択にどれだけ関わっているか(SDMの度合い)は、仮説に反し中断意向には影響していませんでした。
日本での現状はまだ「医師主体ではなく、患者が医師と一緒に決めていい」「患者も自主性を持ち治療に取り組むことが重要」であることへの理解が進んでいるとは言えず、治療継続モチベーションに影響するまでには至っていないようです。

治療に関することは「主治医がすべて決めた」は60代以上で7割を超えていました。この年代はむしろ、治療や現状の満足度が高く、中断意向も低い年代です。つまり、満足度が高めである人の方がむしろ「SDMが進んでいない」=治療に対して受け身であるという結果になりました。
正確には「満足度がとても高くなるわけでもないが、不満とも思っていない」状態ですが、
年代が高いほど、「主治医がすべて決める」ことに対して疑問は抱かず、そんなものだと思っている、むしろ望ましいと思っているためと考えられます。
欧米では推進されているSDMですが、日本では徐々に浸透している(年代が若くなるほどSDMが進んでいる)とはいえ、まだ発展途上のようです。患者さん側も受け入れ姿勢を整えるステップが必要なのかもしれません。

病態や治療、薬の効き方について知っていることに関しては、中断意向あり者や、治療満足度が低めの40代の方が多いという結果でした。仮説に反し、知っていることが多いからといって特に満足度アップや治療継続のモチベーションにはつながっていないことがわかりました。

つまり、「薬が効くとは限らない」などの事実そのものを知っただけでは治療継続のモチベーションにはならず、むしろ「治療をしても薬は効かないのなら治療をしても意味がない」という考えにつながってしまっている可能性があります。
医療従事者は患者さんに病状や薬の効き方の特徴そのものを伝えるだけでは不十分で、望ましい結果を達成する、つまり患者さんのQOLを上げる(長期寛解を達成する)にはどうしたらよいか(=主治医の指示を守って治療に取り組む)というところまでをセットで伝えることが重要だと考えられます。

次回の記事では、主治医とのコミュニケーションについて取り上げます。医師とのコミュニケーションは重要であることはなんとなく認識されていると思いますが、実際はどのような内容でどのくらいなされているのでしょうか。中断意向有無、年代別ではどのような認識の差があるのかについても見ていきたいと思います。

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<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いたコラムによると・・・」


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この記事の監修者
メディリード / マーケティング&コミュニケーション部
メディリードは、「私たちの幸せな生活とヘルスケアの未来のため」という事業理念のもと、医療領域の調査を通じて患者さんのアウトカム改善を目指しています。ヘルスケアの解像度を高めることで、多くの方々の幸せな未来の生活に貢献したいと考えています。革新的な医療ソリューションを提供し、患者さんのQOL(生活の質)向上を実現していくことを目指しています。

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