高齢世代の寝たきり・予備軍の現状と予防法について解説
2024/05/30株式会社メディリードでは、当社が保有している国内最大規模の疾患に関するデータベースであるMedilead Healthcare Panel(以下MHP)のデータを活用し、コラム記事としてお届けしています。
高齢者の健康問題は、社会が直面する重要な課題の一つです。特に寝たきりやその予備軍となる人々の増加は、個人やその家族の生活の質だけでなく、医療負担の増加や介護問題など、社会的にも様々な影響を及ぼします。この記事では、高齢者の寝たきりや予備軍の現状に焦点を当て、その背景や影響について解説します。さらに、この問題に対する予防法や対策についても探求していきます。高齢者の健康とQOLを向上させるために、何ができるのかを考えていきましょう。
目次
そもそも、寝たきりとはどのような状態を指すのでしょうか。
「寝たきり」は学術用語ではなく、明確な定義はないものの、厚生労働省では「おおむね 6 カ月以上病床で過ごす者」と定義しています。この状態では、日常生活の基本的な活動である食事、入浴、衣類の着脱、トイレの使用、移動などを自立して行うことが困難です。
寝たきりかどうかを判断するための基準として、厚生労働省が定めた「日常生活自立度(寝たきり度)」があります。これは、個々の人が日常生活の基本的な活動を自立して行う能力を評価する指標です。
〈図1〉
出典: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf
この基準によると、寝たきりは、ランクB(屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体である)とランクC(1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する)に相当します。ランクA(屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない)は、準寝たきりに相当します。
似た基準に、要介護度があります。こちらは日常生活自立度が低下していることを示す一方で、具体的な介護や支援の必要性や程度を示すための指標として使用され、自立、要支援1~2、要介護1~5の8段階に分けられます。一般的に寝たきりの状態は、一番重い要介護5に相当するとされています。
寝たきりに至る原因は様々です。ここでは、その主な原因を解説します。
〈図2〉
※https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.htmlを元に作成
厚生労働省の資料によると、寝たきりとされる要介護5になった原因として一番多いのが脳血管疾患(脳卒中)で、全体の33.8%を占めています。脳卒中は、脳の血管に異常が生じることで血流が遮断されたり、血液が脳内に漏れたりすることによって引き起こされる病気で、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血なども脳卒中の一種として分類されます。
介護が必要となる理由のおよそ2割が脳卒中で、特に要介護4、5の重度の人に、脳卒中から要介護状態になった人が多いことがわかります。
寝たきりになった原因として次に多いのが、認知症です。認知症から寝たきりになる原因は様々考えられます。
まず認知機能の低下が挙げられます。認知症によって脳の機能が低下し、物事を理解する能力や判断力が著しく損なわれた結果、日常生活の動作を適切に実行することが難しくなり、自己の身体を動かすことが難しくなる場合があります。また、運動機能の低下も要因として考えられます。認知症によって筋力や運動機能が低下することがあり、これが体を動かす能力を制限し、寝たきりにつながるということです。
さらに、安全の確保の観点からも寝たきりが選択されることがあります。認知症の人は、自己の安全を確保することが難しくなり、転倒や事故のリスクが高まります。そのため、介護者や医療スタッフが安全を確保するために、やむを得ず寝たきり状態にすることがあるのです。
高齢に伴う筋力の低下、骨密度の低下、関節の柔軟性の低下、およびバランス能力の低下などから、日常生活の動作に支障をきたし、寝たきりに至ることがあります。先ほどの厚生労働省の資料によると、要介護5になった原因として、高齢による衰弱は15.0%、骨折・転倒は7.5%、関節疾患は2.3%です。特に女性は、転倒、骨折をして寝たきりになるパターンが多いと言われています。
WHOが発表した「World health statistics 2022: monitoring health for the SDGs, sustainable development goals」によると、日本の平均寿命は、男性が81.5歳、女性が86.9歳であり、世界一の長寿国となっています。今後さらに延びていくと予想されています。
平均寿命とは別に、人々が健康で自立した生活を送ることができる期間を指す健康寿命という概念があります。2019年のデータでみると、平均寿命が男性81.41歳、女性87.45歳であるのに対し、健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。つまり、日常生活に制限のある「不健康な期間」が男性8.73年、女性12.06年あるということです。
徐々に縮まりつつあるものの、この差を縮小していくことが、個人のQOL向上のためにも、社会全体のためにも不可欠です。
では寝たきりの方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
当社で行っているMHPの調査において、寝たきりの状態に相当する要介護5の割合は全体の7.4%でした。
〈図3〉
正確な年齢はわかりませんが、高齢世代と思われる方(被介護者がおじいさま、おばあさま、お父さま、お母さま、お義父さま、お義母さまと回答した方)の要介護度は以下のとおりでした。
〈図4〉
寝たきりの状態に相当する要介護5の割合は、6.1%でした。
内閣府の調査 によると、2019年時点で65歳以上の人口は3589万人となっています。この割合をあてはめると、約248万人の高齢者が寝たきりということとなります。実際には、要介護4でも寝たきり状態の人がいることを考えると、これより多いことが予想されます。
現在寝たきりではなくても、寝たきりになる要因を抱えている人はどのくらいいるのでしょうか。
寝たきりの原因として一番多いのが脳卒中ですが、その発症リスクを高める要因としてメタボリックシンドロームがあります。メタボリックシンドロームは、高血圧、高血糖、高脂血症、および肥満などの要因が組み合わさった状態を指しますが、特に高血圧や高血糖が血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させ、脳卒中の発症リスクを増加させることが考えられます。
そこで、ここではメタボリックシンドロームの危険性がある人の割合をみていきます。
高齢世代(65歳以上)の方に、この1年以内に入通院した症状をお聞きし、メタボリックシンドロームの診断基準である高血圧症、脂質異常症、高血糖(2型糖尿病とする)で入通院した人の割合を示したものが〈図5〉です。高血圧症は22.8%、脂質異常症は11.3%、2型糖尿病は8.6%でした。
〈図5〉
これは、その下の世代と比べて高い割合となっており、メタボリックシンドロームのリスクは高齢世代では高くなることがうかがえます〈図6〉。
〈図6〉
メタボリックシンドロームは肥満とも密接に関係しています。肥満は主にボディマスインデックス(BMI)を使用して判定され、一般的にはBMIが25以上であれば肥満とされ、30以上であれば高度肥満と判定されます。
高齢世代のBMIの分布は以下のとおりでした。
〈図7〉
BMIが25以上(肥満1度~4度)の肥満とされる人の割合は約20%で、高齢世代の5人に1人が肥満という結果でした。
寝たきりの原因として上位に見られる関節疾患 についても見ていきましょう。
高齢世代で、1年以内に関節系の疾患で入通院した人の数は以下の通りとなりました 。
合計すると、全体の約2.29%となります。多くないようにはみえますが、入通院まではしない人もいることを鑑みると、実際にはさらに多いことが予想されます。
【65歳以上】1年以内に関節系の疾患で入通院した人数(n=57882)
ひざの痛み | 455 |
関節の痛み | 400 |
変形性関節症 | 169 |
関節リウマチ | 133 |
変形性関節炎 | 117 |
関節炎 | 39 |
脊髄性関節炎 | 9 |
関節症性乾癬(乾癬性関節炎) | 4 |
悪性関節リウマチ | 1 |
一度寝たきりになると、その状態が継続する場合、身体機能の低下や筋肉の萎縮、骨密度の低下などが進行する可能性があります。また、寝たきりの状態が長期間続くと、体の各部位に圧迫性潰瘍や褥瘡(じょくそう)などの合併症が生じるリスクが高まります。心理的な側面では、自立した生活ができないことによるストレスや抑うつ、孤独感などが増大する可能性もあります。
寝たきりにならないためには、まずはこれまで挙げた病気やメタボリックシンドロームにかからないように予防することが大切です。定期的に健康診断を受け、血圧や血糖値などの健康状態を確認し、早期に異常があれば、医師の指示に従い適切な対策を行いましょう。
ここでは、寝たきりの一歩前であるフレイルを予防するヒントについて解説します。フレイル(Frailty)とは、高齢者に多く見られる、加齢に伴う全身の機能低下を指す概念です。体重減少や筋力の低下がみられ、身体的な脆弱性が増し、ストレスに対する抵抗力が低下する状態を示します。これにより、病気や怪我、その他の健康問題が発生しやすくなり、日常生活の自立性が低下することがあります。
フレイルを予防するためには、バランスの取れた栄養豊富な食事が重要です。特にフレイル予防に役立つ栄養素とその食品例について詳しく説明します。
タンパク質は筋肉の維持と修復に欠かせない栄養素です。高齢者は筋肉量が減少しやすいため、十分なタンパク質摂取が必要です。魚、鶏肉、牛肉、卵、豆類、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)、大豆製品(豆腐、納豆)などを積極的に摂るようにしましょう。
ビタミンの中でもビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨の健康を保つために重要です。不足すると骨粗鬆症のリスクが高まります。ビタミンDを多く含む食品には、サケ、マグロ、イワシなどの脂肪の多い魚、強化乳製品、卵黄、きのこなどがあります。
また、ビタミンB群はエネルギー代謝を助け、神経機能の維持に重要です。全粒穀物、肉類(特にレバー)、卵、乳製品、豆類、緑葉野菜などがビタミンB群を多く含んでいます。
カルシウムも骨の強度を保つために必要であり、高齢者は特に十分なカルシウム摂取が求められます。乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)、小魚(ししゃも、煮干し)、緑黄色野菜(ブロッコリー、ほうれん草)などに多く含まれています。
オメガ-3脂肪酸は炎症を抑え、心血管系の健康を保つのに役立ちます。サーモン、マグロ、サバ、アマニ油、チアシード、クルミなどがオメガ-3脂肪酸を豊富に含む食品です。
抗酸化物質は細胞の損傷を防ぎ、老化の進行を遅らせる役割があります。ベリー類(ブルーベリー、ラズベリー)、ナッツ(アーモンド、くるみ)、緑茶、ダークチョコレート、カラフルな野菜(トマト、ニンジン、ピーマン)などが抗酸化物質を豊富に含む食品です。
さらに十分な水分摂取も重要です。高齢者は喉の渇きを感じにくくなることがあるため、意識的に水やハーブティー、スープなどを摂るようにしましょう。
食事から摂るのが難しい場合は、サプリメントを利用することも有効です。その際は、医師や栄養士の指導を受け、バランスの取れた食事と併用するようにしましょう。
フレイル予防には適度な運動が重要です。筋力トレーニング、有酸素運動、バランス運動、柔軟性運動を組み合わせることで、筋力や体力を維持し、全体的な健康を向上させることができます。具体的には、週に3-4回の筋力トレーニング、週に3-5回の有酸素運動(ウォーキングなど)、毎日のバランス運動と柔軟性運動が推奨されます。
運動を始める際には、無理のないペースで始め、楽しみながら続けることが大切です。
たとえばラジオ体操は全身の筋肉をバランスよく動かすように設計されており、筋力向上に効果的です。特に、足腰や腕、腹筋などの主要な筋肉群を鍛えることができます。今はYouTubeなどで様々な運動が紹介されていますので、参考にするのも良いでしょう。
専門家のアドバイスを受け、定期的に運動プランを見直すことで、効果的にフレイルを予防できます。
フレイル予防には社会的交流の維持も大切です。精神的健康、認知機能の向上、身体的健康の促進、そして支援ネットワークの形成といった多くの面でプラスの効果があります。地域活動への参加、家族や友人との交流、趣味や学習活動、オンラインコミュニティの活用、グループ運動など、さまざまな方法で社会的なつながりを保つことが重要です。これらの活動を通じて、充実した日常生活を送り、フレイル、そして寝たきりの予防に努めましょう。
日本は世界一の長寿国ですが、健康寿命との間には大きな差があります。特に寝たきり高齢者の増加は、個人のQOLや社会に多くの影響を及ぼしています。寝たきりを予防するためには、メタボリックシンドロームやフレイルの予防が特に重要です。高齢者になってからではなく、若いうちから健康的な生活習慣を意識して構築していきましょう。今後も平均寿命が延びると予想される中、社会全体としても、寝たきりを防ぎ、健康寿命を延ばすための対策や仕組みが求められます。
高齢世代のヘルスケア実態を深堀したレポートは、以下の記事よりダウンロードいただけます。
■ Medilead Healthcare Panel(MHP)について
MHPは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。
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