IBD患者さんの治療継続のモチベーションと治療満足度の関係【メディリード自主調査】
2024/04/26株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証一部3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区 代表取締役 亀井 晋、以下「メディリード」)は、炎症性腸疾患(IBD)患者の治療の満足度及びその背景となる医療従事者とのコミュニケーションなどについての自主調査(2023年)を行い、426名からの回答を得ました。
本記事では、近年患者数が急増し、社会的影響も大きい炎症性腸疾患(IBD)の患者さんについて焦点を当てています。
前回(第一回)では、「(IBDの)治療中断意向者はどのような人たちか」について取り上げました。
第二回は、IBD患者さんの「治療の満足度はどうなっているか」及び、「(患者さんは)その結果どのような状態になっているか」について取り上げます。
今回は、中断意向者の特徴に加え、年代別での特徴もみていきます。
目次
調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象: 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人
調査期間: 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木)
有効回答数: 426
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります
今回の調査におけるIBD患者さん426名の属性は以下のようになっています。
〈図1〉
〈図2〉
IBD患者さんは現状の治療にどのくらい満足しているのでしょうか。
また、中断意向あり者(「現在、治療をやめたいと感じている」人と「過去に治療をやめたくなったことがある」人の合計)と中断意向なし者ではどのような差があるのでしょうか。
全体的な満足度と、それをもう少し詳細化した内容についてみてみます。
また、IBDは若年から発症することが多く、日常生活や社会生活にも大きな影響を及ぼします。社会的立場や生活スタイルは年代で大きく違ってきますので、年代別でどのような違いがあるのかについてもみていきたいと思います。
まずは中断意向あり者となし者の違いに焦点を当て、満足度の違いをみていきます。
<図3>は現在の治療の総合的満足度について聞いたものです。「【罹患疾患】で受けられている治療について、現在の満足度を10点満点でお知らせください」とし、「非常に満足している」を10点、「まったく満足していない」を0点として、選んでもらいました。
〈図3〉
治療中断意向あり者は、8-10点の満足度の高い人が中断意向なし者と比べ36.5%と、中断意向なし者(54.4%)より18%ほど低く、逆に4点以下の満足度の低い人が16%と、中断意向なし者(4.4%)に比べ12%程度高いという結果でした。16%ということは、およそ6人に1人は満足度が低い(不満寄り)ということになりますので、結構な割合で不満が表明されていると言えるのではないでしょうか。
では、具体的にはどんな内容について満足、不満なのでしょうか。「満足度」の内容についてもう少し詳細にみていきましょう。
<図4>は、「薬剤の効果」と「薬剤の費用」に関しての満足度を聞いたものです。
〈図4〉
どちらも中断意向あり者の方がなし者より満足度は低めです。特に「薬剤の費用」に関しては、中断意向あり者で0-1点と答えた人が25%にのぼっています。つまり中断意向あり者は、薬剤の費用に対し、「何となく不満」「何となく満足ではない」といった曖昧なものではなく、かなり強めに「不満」を抱いていることがうかがえます。
次に、社会生活についてみてみます。具体的には、「仕事、学校生活」に関しての現状の満足度を聞いた結果が<図5>です。
〈図5〉
中断意向あり者は0-1点の低得点者が1割を超えています。こちらも、強めに「不満」を抱いている様子がうかがえます。一方で中断意向なし者は、仕事・学校生活に不満を抱えている人は少なめです。これは60歳以上の割合が高いことも関連すると考えられます。
次に、その他の社会生活として、「家族・友人とのつきあい」「趣味との関わり」についての満足度も聞いてみました。
〈図6〉
中断意向あり者はなし者に比べて全体的に満足度は低めですが、仕事・学校生活ほどの差はみられず、また、「0-1点」のようにはっきりと不満を抱いている人の割合は少なめでした。これらの点に関しては仕事・学校生活ほどはっきりとした不満は意識されていないようです。
これまで見てきた詳細部分の満足度について、10点を付けた人(はっきり「満足」と認識していると思われる人)、及び0-1点を付けた人(「不満」が強いと思われる人)の割合を比較し、差を出したのが<図7>です。
〈図7〉
まず10点を付けた人について、中断意向あり者となし者の差がもっとも大きかったのが「仕事・学校生活」についてで、差は13.2%でした。つまり、中断意向あり者は「仕事・学校生活について積極的に満足とは感じていない」割合がなし者より13.2%高かったということになります。
一方、0-1点を付けた人について、差が最も大きかったのが「薬剤の費用」についてでした。
中断意向あり者はなし者と比べ、薬剤の費用について「不満である」、と認識している人が15.4%高かったということになります。
ここから読み取れることは、中断意向者には下記のようなことが起こっている可能性が高いということです。
つまり、費用がネックになって治療を中断したいと思うが、その裏には病気により仕事・学校生活へ支障が生じ、それが解決されていないことがある(よって治療が嫌になってしまう)ということが考えられます。
同じく治療の総合的な満足度と詳細部分の満足度について、今度は年代別での違いをみてみます。
〈図8〉
総合的な満足度では、全体で47.9%と、半数近くが8点以上と答えています。8点以上の割合が最も高いのは60代以上(53.5%)です。よって8点以上の割合だけを見ると60代以上において満足度がもっとも高いということもできますが、内実を見ると、60代以上は8点及び9点の割合が高めです。対して30代以下は8点以上の割合は46.2%で60代より低いのですが、10点が23.1%と他年代より高くなっています。
つまり、満足度の温度感としては、下記のような状態であることがうかがえます。
・60代以上は8点、9点の割合が高め→「まあ満足かな」「こんなもんだ」「特に不満でもない」という、やや現状維持のような消極的な満足
・30代以下は10点の割合が高い→他年代より積極的な満足
薬剤に関して、「薬剤の効果」「薬剤の費用」の年代別の満足度は<図9>のようになりました。
〈図9〉
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注目すべきは、治療中断意向にも影響が大きかった「薬剤の費用」についてです。最も満足度が低いのは40代でした(8点以上が低く、4点以下が高い)。0-1点の割合も19.8%と他年代より高くなっています。4点以下の割合でみると46.5%にのぼっており、40代で特に費用に関する不満が高いことがわかります。40代は子どもの教育費などプライベート面の出費がかさみがちな年代です。ただでさえ出費が多いのに自身の薬にまで費用をかけたくない、かける余裕がない…という苦しい状況がうかがえます。
「仕事・学校生活」に関してみてみます<図10>。
〈図10〉
仕事・学校生活に関しても40代の満足度が低くなっています。0-1点の割合が11.9%で、はっきりと「不満」を感じている人の割合が高くなっています。
40代は働き盛り、かつ仕事でも役割が大きくプレッシャーを感じやすい年代です。また、将来を思い悩む「中年の危機」が訪れる時期でもあります。そういった中で、IBD患者であることの苦労、悩みは大きいと思われますが、現状のIBDの治療は仕事との両立についてのケアまでは不十分である、と特に40代が感じていることがうかがえます。
その他社会生活に関して、「家族・友人とのつきあい」「趣味との関わり」の満足度は<図11>のようになりました。
〈図11〉
やはり40代で満足度が低め(8点以上の割合が低く、4点以下の割合が高い)です。ただし、0-1点の割合が他年代と比較して特に高いわけではないので、「仕事・学校生活」で示していたほどはっきりとした不満を抱えているというわけではないようです。
これまで、治療についての総合的な満足度と、詳細な内容別の満足度についてみてきました。
では、治療をした「結果」としてどのような状態になっている(と認識されている)のでしょうか。より正確には治療を「しながら」ではありますが、治療は何らかの結果(望む状態)を得るためにするものですので、患者さんが、治療をしながらどのような状態になっていると認識しているのかについてみてみたいと思います。
引き続き、中断意向あり者となし者での違い、年代別での違いをみていきます。
現在の状態に対して「【罹患疾患】を治療しながらの生活について、どのようにお考えですか。それぞれの項目について、お気持ちにあてはまるものをお選びください。」と質問しました。
こちらも、「強くそう思う」を10点、「全くそう思わない」を0点として選んでもらいました。
〈図12〉
「自分は治療に前向きに取り組めている」「うまく折り合いをつけ、病気とうまくつきあえている」について、どちらも中断意向あり者はなし者に比べ「8点以上の割合が低く、4点以下の割合が高い」結果でした。特に10点の割合は2倍近くの開きがあり、中断意向あり者となし者では認識の違いが大きいことがわかります。
「無理することなく学業や仕事を両立ができている」と思うかについても聞きました<図13>。
〈図13〉
中断意向あり者はなし者に比べて0-1点の低得点の割合が高いのが目立ちます。これまでも中断意向あり者において仕事や学業(学校生活)についての満足度は低い結果が出ていましたが、やはり「仕事や学業との両立」に困難を感じている人が多いことがわかります。
今度は同じ内容を年代別でみてみます。
〈図14〉
「自分は治療に前向きに取り組めている」「うまく折り合いをつけ、病気とうまく付き合えている」の両方とも、40代で4点以下の割合がやや高くなっています。治療の満足度については40代で低めの傾向がありましたが、治療の結果の「状態」においても、40代では不満気味の人がやや多いことがうかがえます。ただし、0-1点の割合がさほど高いわけではないので、他年代と比べてはっきりとネガティブなわけではなく、なんとなくネガティブ寄りといった感じかもしれません。
仕事・学校生活に関しては<図15>のようになりました。
〈図15〉
満足度のときと同じく、40代で4点以下が高めです。40代は特に仕事との両立に困難を抱えている様子がうかがえます。
今回はIBD患者さんの治療の満足度及びその結果の状態に焦点を当てました。
10段階で回答してもらっていますが、例えば満足度において0-1点の低得点をつけている人は、はっきりと「不満」を認識していると考えてよいでしょう。そして、治療中断意向あり者において特に0-1点を付けた人の多い項目は中断意向に直接的につながっていると考えられます。
今回聞いた中で、治療においては特に「薬剤の費用」に関して0-1点の低得点者の割合が高い(中断意向なし者との差が大きい)という結果になりました。つまり中断意向者あり者は直接的には費用の問題で治療をやめたくなっている可能性が高いと考えられます。
一方、はっきり不満とは認識されていないものの(0-1点が多いわけではない)、「仕事・学校生活」の満足度は中断意向あり者で高得点者が少ないことから、間接的に中断意向に影響している可能性が高いと考えられます。
つまり、仕事・学校生活について満足できていない状況がある。しかし、だから「治療はもうやめたい」と直接的に思う…というよりは、「(治療を続けると)費用がかさんでしまうのがネックだからもう治療をやめたい」…と思う人の背景には仕事・学校生活の悩みもあるというような状況です。
このことから、薬剤についてだけではなく、「仕事や学校生活を充足させることにまで配慮すること」が治療継続のモチベーションには重要であると考えられます。
今回は特に、治療においても状態においても40代での満足度が低いということがわかりました。40代は仕事や家庭での役割が他年代に比べ大きく、出費もかさみがちです。そのため、治療費用がネックになるとともに、仕事との両立についての悩みも深く、この面についてケアが少ないと不満につながりやすいと考えられます。
前回取り上げた結果にも通じますが、治療継続のモチベーションを保つには、「この先生は(学業、仕事との両立などの治療面以外を含め)自分の悩みを分かってくれている」と患者さんが思うことが重要だと考えられます。結果、「だからこの先生は信頼できる」となり、治療の満足度も上がり、アドヒアランスを保ち、ひいては長期寛解が達成できる…のだと考えられます。
今回の調査では、特に40代において仕事との両立についての配慮が必要とされているということが明らかになりました。
次回の記事では、患者さん自身が病状などについてどのくらい理解をし、情報収集をするなど、積極的に治療に関わろうとしているのかについて取り上げます。治療や薬剤の選択において、医師主体ではなく、患者さん自身が理解し、関わることが重要という考え方が近年広まりつつありますが、実際はどうなっているのでしょうか。また、それが治療継続のモチベーションにどのように関わっているのかについてみていきたいと思います。
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