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IBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)の患者さんが治療を続けるために必要なこととは~主治医とのコミュニケーションが与える影響~

2024/06/10
メディリード / マーケティング&コミュニケーション部

株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証プライム3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:亀井 晋、以下「当社」)は、炎症性腸疾患(IBD)患者の治療の満足度及びその背景となる医療従事者とのコミュニケーションなどについての自主調査(2023年)を行い、426名からの回答を得ました。

本レポートでは、近年患者数が急増し、社会的影響も大きい炎症性腸疾患(IBD)の患者さんについて焦点を当てています。

前回は、IBD患者さんの「治療へのかかわり度、病状理解への自主性はどのくらいあるか?」について取り上げました。今回は、IBD患者さんの「主治医とのコミュニケーションはどのようになっているか?」について取り上げます。

IBDは慢性的な疾患で、治療が長期にわたります。また、第三回で取り上げたように、患者さんごとに症状や重症度が異なり、治療選択にも多様性があります。このように治療が長期で複雑な疾患であるため、患者さんと主治医とのコミュニケーションは非常に重要であると考えられます。

では実際のところ、IBD患者さんと主治医とのコミュニケーションはどのようになっているのでしょうか。
また、主治医とのコミュニケーションの程度や内容は、治療継続のモチベーションには関連するのでしょうか。

調査概要

調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象: 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人
調査期間: 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木)
有効回答数: 426
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります

回答者属性

今回の調査におけるIBD患者さん426名の属性は以下のようになっています。

<図1>


第四回レポートサマリー

<図2>


調査結果詳細

IBD患者さんの主治医とのコミュニケーションはどのようになっているか?

当社は今回の調査において、下記のような仮説を立てました。

治療において医師とのコミュニケーションが進んでいる人の方が中断意向が低い。

「コミュニケーションが進んでいる」とは、ここでは「自身の日常生活の辛さまでを理解してもらっていると患者さんが思えている状態」と定義しています。
つまり、治療継続モチベーションには、医師とのコミュニケーションが取れているか(治療や病気に関することを超える範囲で)が大きく関わってくるのではないかということです。
実際のところ、主治医とのコミュニケーション自体はどの程度されているのでしょうか。また、治療以外に関することまでのコミュニケーションはされているのでしょうか。

中断意向の有無に加え今回も年代別での違いを見ていきたいと思います。

中断意向有無でみた特徴

まずは中断意向あり者となし者の違いに焦点を当ててみてみます。

コミュニケーションそのものは取れているか?

コミュニケーションそのものが取れているかどうかについて見てみます。<図3>は「現在の主治医と、十分なコミュニケーションが取れていますか。ご自身のお考えを10点満点でお知らせください」と尋ねたものです。まずは「コミュニケーション全体としての評価」を聞いている設問だとお考えください(コミュニケーションの内容別の満足度は後で取り上げます)。

<図3>


中断意向あり者は2-4点の割合が高い(全体7.3%に対し13.5%)という結果になりました。「全くコミュニケーションが取れていない」とは言わないまでも、コミュニケーションの内容には不満がある状態と考えられます。やはり中断意向あり者のほうが主治医とのコミュニケーションに不満を感じていることがわかります。

コミュニケーションの内容:主治医とのコミュニケーションの項目別満足度

主治医とのコミュニケーションについての総合的な評価を「【罹患疾患】について、主治医とのコミュニケーションに際し以下のそれぞれの項目について、現在の満足度を10点満点でお知らせください。」とし、て尋ねました。以下、その結果をご紹介します。

病気や治療に関して

まずは、コアになる内容について尋ねました。<図4>は、「病気についての説明」「治療や薬についての説明」についての満足度を示したものです。

<図4>


点数の分布については、中断意向あり者・なし者ともに同じ傾向でした。中断意向あり者はなし者よりも満足度は全体的に低い傾向はありますが、両者の乖離はそれほど大きくないようです。コア的な内容についてのコミュニケーションの満足度は、中断意向に比較的影響が少ないことがうかがえます。

生活や仕事などに関して

次に「食事や日常生活についての説明」「仕事・学校・生活についての相談」について尋ねたものが<図5><図6>です。これらは、病気や治療に関する内容から一歩進んだものと言えるかもしれません。

<図5>


全体として、「食事や日常生活についての説明」は、後述の仕事・学校・生活についての説明と比べるとわずかに満足度が高い傾向にあります。治療に関する説明の延長で、食事などの説明が若干されていることがうかがえます。ただし2-4点の割合は10%前後と高く、十分な説明を受けていないと感じている人が多いようです。特に中断意向あり者では4点以下が2割を超えており、不満度が高いことがわかります。

<図6>


「仕事・学校・生活についての相談」は、病気や治療などのコア内容と比べると全体的にやや満足度は低く、0-1点の割合も高くなっています。つまり、はっきりと「不満」と認識されており、仕事・学校・生活についての相談は主治医とはほとんどできていない人が多いと考えられます。
特に中断意向あり者は「0-4点」の割合が2割を超えており、主治医には仕事・学校・生活についての相談ができていない、もしくは相談はしても満足できる内容ではないのかもしれません。

心配や不安についての相談

少し抽象度が上がりますが、「心配や不安についての相談」について尋ねた結果が<図7>です。病気や治療などの直接的な側面だけではなく、それに伴って生じる心配や悩みについて、どの程度コミュニケーションが取られているのでしょうか。また、その満足度はどのくらいなのでしょうか。
今回はコミュニケーション有無も満足度に含めて評価されているとお考えください。

<図7>


4点以下の割合が全体でも17%を超えており、今までの相談内容よりも不満度が比較的高い状態です。
中断意向あり者は0-1点が1割を超えており、はっきりと「不満」を感じている人もいらっしゃるようです。相談自体はできているが満足度が低いというよりも、そもそも医師と心配や不安などについて話されていない状況が多いのかもしれません

満足度が低い人の割合の差

これまで見てきた項目別の満足度に低得点(0-1点)を付けた人について、中断意向あり者となし者の割合を比較しました(<図8>)。
低得点をつけている人、つまり不満と認識している人が多いほど、また中断意向あり・なし者の間での差が大きいほど、患者さんの治療継続モチベーションに影響している可能性が高いと言えます。

<図8>


折れ線は0-1点を付けた人の割合を示しています。赤線が中断意向あり者、青線が中断意向なし者です。
特に中断意向あり者(赤線)において高い割合を示しているのは「心配や不安についての相談」です。中断意向なし者(青線)との差も5ポイント以上あります。中断意向あり者はなし者と比べ、はっきりと「心配や不安についての相談ができていない」と認識し、不満を抱えていることがうかがえます。
ただし、「心配や不安」は様々なことに当てはまる(病状、治療のみならず治療以外のことも含む)ため、他の具体的な他の項目よりも選びやすく、その結果値が高くなっている可能性も考えられます。

「仕事・学校・生活についての相談」は、中断意向あり者・なし者ともに割合が高めで、中断意向あり者のみならず意向なし者も不満を感じている人が多いことがうかがえます。

コミュニケーションの深度

次に、コミュニケーションの「深さ」について尋ねました。「(提示した)それぞれの項目について、ご自身のお考えに最も近いものをお選びください。」とし、「非常にそう思う」を10点、「まったくそう思わない」を0点として選んでもらいました。

治療や病状に関して

まずは、コアになる内容について尋ねました。<図9>は、「主治医からの説明は、しっかり理解できている」、「主治医に、症状や辛さについてきちんと伝えることができている」という記述についての同意度を示しています。<図10>は「主治医とは、治療の目標を共有できている」という記述についての同意度を示したものです。

<図9>


主治医からの説明の理解度や症状・辛さについての伝達度は、中断意向あり者で2-4点の割合が高めです。つまり、「全くできていないわけではないが、ほとんどできていない」と認識していることがうかがえます。医師からの説明もきちんと理解できていないし、自身も症状や辛さについて伝えきれていないというわけです。中断意向あり者はなし者と比べ、基本的ともいえるコミュニケーションの段階で既に不満度が高いことがわかります。

<図10>


「治療の目標を共有できているか」についても、中断意向あり者で4点以下が2割を超えています。<図9>で示したような基本的な内容でも満足度が低いので、その延長として治療の目標共有までもできていないのかもしれません。

治療以外のことについての相談

<図11>は「主治医には、仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」という記述についての同意度を示したものです。

<図11>


治療や症状に関することと比べて、全体として満足度が低く、治療以外の話はあまりされていないことがうかがえます。中断意向あり者は0-1点が2割近くにのぼり、4割近くが4点未満です。長期にわたる治療および医師との付き合いが必要となるIBDにおいても、医師とのコミュニケーションは治療に関することにとどまっているケースがまだまだ主流のようです。

満足度が低い人の割合の差

これまで見てきたコミュニケーションの深さに関する項目で低得点(0-1点)を付けた人について、中断意向あり者・なし者の割合を比較しました(<図12>)。

<図12>


折れ線は0-1点を付けた人の割合を示したものです。赤線が中断意向あり者、青線が中断意向なし者です。
特に中断意向あり者(赤線)において高い(つまり「そう思わない」と思っている人が多い)のは「主治医には、仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」という項目です。中断意向あり者は「治療以外のことについては相談ができていない」と認識して入る方が比較的多く、これが中断意向に影響していることがうかがえます。

同じ項目を年代別でみた特徴

では次に、これまで見てきた項目について、年代別ではどのような違いがあるのか見ていきたいと思います。
質問内容は、中断意向有無の違いで見たものと同じです。

IBD患者さんの主治医とのコミュニケーションそのものは取れているか?

<図13>


40代は点数が低めで、2-4点の割合が他の年代よりも高いことが目立ちます。「全くコミュニケーションが取れていないとは言わないが、内容的には不満である」と認識しているのかもしれません。

コミュニケーションの内容:主治医とのコミュニケーションの項目別満足度

コミュニケーションの項目別の満足度についても、年代別で見てみます。

病気や治療に関して

<図14>


40代の満足度が比較的低いことがわかります。特に30代以下に多い「まあ満足」ともいえる「8点」の割合が低く、「5-7点」の割合が高くなっています。強い不満はないものの、満足はしていない、もっとやってほしいと感じているのかもしれません。

生活や仕事などに関して

<図15>


「食事や日常生活に関しての説明」でも40代の満足度が比較的低いことがわかります。8点の「まあ満足」の割合が低く、「何となく満足している(「こんなもんだ」と思っている)」と感じている人が少ないため、「満足していない」状態の人が多いと考えられます。

<図16>


「仕事・学校・生活についての相談」についてのコミュニケーションの満足度は、働き盛りの40-50代で低めの結果となりました。ただし、40代と50代では少し温度感が異なっています。40代は8点の「まあ満足」の割合が低く「満足ではない」状態(「まあこんなもんだ」とは思えていない状態)の人が多いようです。50代は0-4点の割合が高く、「不満」を感じている人が多い傾向にあります。いずれにせよ、仕事や生活に関しての悩みが深い年代ですが、医師とそれに関するコミュニケーションは満足いくの内容では行われていないのかもしれません。

心配や不安についての相談

<図17>


「心配や不安についての相談」のコミュニケーションの満足度は、「仕事・学校・生活についての相談」の傾向と似ています。40代が高得点の割合が低く「満足ではない」と感じていることがうかがえます。一方、50代は低得点の割合が高く、「不満である」と感じている人が多いことがうかがえます。

コミュニケーションの深度

コミュニケーションの深度についても、同じように年代別で見てみます。

治療や病状に関して

<図18>


「主治医からの説明は、しっかり理解できている」「主治医に、症状や辛さについてきちんと伝えることができている」の満足度は、双方ともに40代で低めです。
特に、症状や辛さについての伝達度(「主治医に、症状や辛さについてきちんと伝えることができている」)については、40代で8-10点の割合が低く(全体54.5%のところ37.6%)、0-4点の割合が高く(全体12.2%のところ18.8%)、「自身の状況の伝達は不十分」だと感じている人が多いようです。

<図19>


「主治医とは、治療の目標を共有できている」の同意度についても、40代は前項目と同じく、7点以下の割合が高めで、4点以下が2割近くにのぼり、不満度が高いことがうかがえます。

治療以外のことについての相談

<図20>


「主治医には、仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」という満足度も40代では低くなっています。この年代では第二回で見たように、治療しながらの生活に対する意識として、「無理することなく学業や仕事を両立ができている」という同意度も低くなっていました。つまり、現実問題として仕事との両立に苦労している人が多いと考えられますが、それを主治医に相談はできていないことがうかがえます。

まとめ(示唆)

今回の調査レポートでは、IBD患者さんと医師とのコミュニケーションの度合いや内容、満足度について焦点を当てました。

仕事や学校、生活などの治療以外の相談は、中断意向あり者のみならず、中断意向なし者においても満足度は低めでした。つまり、治療以外についてのコミュニケーションが全体として不足している状況であると思われます。そして中断意向者は、その点により「不満」を感じ、治療継続のモチベーションにも影響を及ぼしているのかもしれません。

年代別では40代が全体的な満足度が低く、項目別に見ても他の年代よりも満遍なく低い結果でした。特に「仕事や日常生活」など治療以外の部分の相談に関する満足度が低く出ていました。

前述のように、40代は仕事や生活での悩みが多い年代ですが、辛さを感じながらも、医師には自身の状況を十分に伝えられていないと感じている人が多いことがうかがえました。
ただし、同じく仕事や生活の悩みが多い年代である50代よりも「はっきりとした不満」を感じている人が40代では少なめでした。
悩みを抱え、不満が大きいものの、医師には相談できていない(医師への相談に期待をしていない)40代は、どのような行動をしているのでしょうか。悩みを医師以外に相談しているのでしょうか。そこについてはまた次回のレポートの中で見ていきたいと思います。

次回は「看護師はどのような役割を果たしているか?」について取り上げます。同時に、患者さんが相談したい先や情報収集経路についても見ていきたいと思います。

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<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いたコラムによると・・・」


自主調査レポート
この記事の監修者
メディリード / マーケティング&コミュニケーション部
メディリードは、「私たちの幸せな生活とヘルスケアの未来のため」という事業理念のもと、医療領域の調査を通じて患者さんのアウトカム改善を目指しています。ヘルスケアの解像度を高めることで、多くの方々の幸せな未来の生活に貢献したいと考えています。革新的な医療ソリューションを提供し、患者さんのQOL(生活の質)向上を実現していくことを目指しています。

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