IBD患者さんが治療を続けるために必要なこととは~看護師とのコミュニケーションが与える影響~
2024/07/12株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証プライム3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:亀井 晋、以下「当社」)は、炎症性腸疾患(IBD)患者の治療の満足度及びその背景となる医療従事者とのコミュニケーションなどについての自主調査(2023年)を行い、426名からの回答を得ました。
本記事では、近年患者数が急増し、社会的影響も大きい炎症性腸疾患(IBD)の患者さんについて焦点を当てています。
前回は主治医とのコミュニケーションについて取り上げましたが、今回は看護師とのコミュニケーション及び看護師がIBD患者さんの治療に果たしている役割に焦点を当てたいと思います。IBD患者さんの治療において、看護師はどのような役割を担っているのでしょうか。また、患者さんにとって看護師とのコミュニケーションの程度や内容は、治療継続の意欲に影響はあるのでしょうか。
目次
調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象: 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人
調査期間: 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木)
有効回答数: 426
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります
今回の調査におけるIBD患者さん426名の属性は以下のようになっています。
<図1>
<図2>
当社は今回の調査において、下記のような仮説を立てました。
治療において看護師などコメディカルとのコミュニケーションが十分にされ、サポートを受けている人の方が、中断意向が低い
実際のところ、看護師からのサポートやコミュニケーション自体はどの程度行われているのでしょうか。
前回の調査では、主治医とは治療以外のコミュニケーションがあまり行われていないことがわかりました。
では医師以外のコメディカルとのコミュニケーションはどうなのでしょうか。今回は、主に看護師との関わり方や看護師の果たしている役割にフォーカスし、中断意向の有無に加え年代別での違いを見ていきます。
まずは中断意向あり者となし者の違いに焦点を当てて見てみます。
まずは看護師に受けているサポートの内容についてです。<図3>は「【罹患疾患】について、今までに看護師さんから受けたことのあるサポートとして、あてはまるものをお知らせください。」と尋ねた結果です。
<図3>
まず目立つのは、「看護師によるサポートは受けていない」が全体で6割を超えていることです。
治療中断意向あり・なし者間でも差はなく、看護師からサポートを受けているか否かは患者さんの治療継続モチベーション維持にはあまり影響がないということがわかります。
受けているサポートも「治療や薬についての説明」など治療に関するものが中心で、治療や説明を超えた「相談」レベルのサポートは少なくなっています。特に、「仕事・学校・生活についての相談」は4%程度です。
看護師とのコミュニケーションについて、内容別に満足度を調査しました。
「【罹患疾患】について、看護師とのコミュニケーションに際し以下のそれぞれの項目について、現在の満足度を10点満点でお知らせください。」とし、各項目について尋ねました。以下、各項目についての結果をご紹介します。
まずは、中断意向ありなしで比較する前に、回答者全体の結果を項目別に並べてみました。
<図4>
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まず目立つのは全体としての赤色部分の大きさです。提示したすべての事柄で、4点以下(不満度高め)が3割程度、8-10点(満足度高め)は2割かそれ未満になっています。どの項目も2-4点よりも0-1点のほうが高いので、はっきりと「不満」が感じられていることがうかがえます。コミュニケーションの内容が不満というより、最初に見たようにサポートそのものを受けていないので「0-1点」という評価になった人が多いのかもしれません。
主治医では病気や治療・薬に関するコア内容の説明とそれ以外(日常生活の説明や相談など)では満足度の値に差がありましたが、看護師の場合はあまり差がなく、病気や治療・薬に関しての内容でもそれ以外の内容でも全体的に不満度が高い(0-1点が15%以上)という結果になっています。
主治医の場合の結果と比較してみると、看護師とのコミュニケーションとの違いが良くわかります。主治医とのコミュニケーションでは、病気や治療・薬についての説明といったコア内容とそれ以外では満足度に差があり、看護師よりも8点以上の割合が高くなっています<図5>。
<図5>
項目別の満足度が低い(0-1点)人について、中断意向あり者となし者で割合を比較しました<図6>。
コミュニケーションに不満を感じている人が多いほど、そして中断意向あり・なし者の間での差が大きいほど、患者さんの治療継続モチベーションに影響している可能性が高いと言えます。主治医とのコミュニケーションについても同様の比較を行いましたが、今回は看護師とのコミュニケーションの場合を見てみます。
<図6>
折れ線は0-1点を付けた人の割合を示しており、赤線が中断意向あり者、青線が中断意向なし者を表しています。
全体的に中断意向あり者のほうが数値が高く、中断意向なし者よりも不満度が高いことがわかります。ただし、特定の項目で顕著な差が見られるわけではありません。
しかし、特に「心配や不安についての相談」では、両者の差が大きく(7.1%)、中断意向有者は「看護師とは心配や不安の相談は全然できていない(足りていない)」と感じている人が多いことがうかがえます。
次に、コミュニケーションの「深さ」について尋ねました。「【罹患疾患】の治療における看護師さんの関わりについて、あなたご自身のお考えとしてあてはまるものをお知らせください。」とし、各項目について「非常にそう思う」を10点、「まったくそう思わない」を0点として評価してもらいました。
まずは、コミュニケーションそのものが十分取れているのかについてです。前述したように、「看護師からのサポートは受けていない」という回答が6割に上りました。では、そもそも看護師とコミュニケーションが取れているかどうかについて、患者さんはどう認識しているのでしょうか。
<図7>は「看護師とは、十分なコミュニケーションが取れている」に対しての同意度を示したものです。
<図7>
治療中断意向あり者は10点、9点の割合がともに4.8%で、中断意向なし者に比べかなり低くなっています。逆に4点以下の割合は中断意向なし者では17.6%であるのに対し、中断意向あり者は35.5%で20%近い差があります。つまり、中断意向者は看護師とのコミュニケーションが十分でないと認識しており、この不足が中断意向に影響している可能性が高いと考えられます。
コミュニケーションの深さについて、段階的に尋ねました。<図8>は基本的な内容についての同意度を示しています。具体的には、「看護師からの説明はわかりやすく、理解しやすい」、「看護師には、症状や辛さについてきちんと伝えることができている」という記述に対する患者さんの同意度を示したものです。
<図8>
「看護師の説明はわかりやすく、理解しやすい」は8-10点の高得点は中断意向あり者で低め(22.6%)です。一方で中断意向なし者は43.5%で、20%以上の開きがあります。また、中断意向あり者は5-7点の割合がなし者に比べて10%以上高く(56.5%と45.4%)中断意向あり者は看護師からの説明について、はっきり不満とまではなくとも、わかりやすいとは言えないと感じている人が多いことがうかがえます。
<図9>は、さらに進んだ内容のコミュニケーションについての同意度を示しています。「看護師とは、治療の目標を共有できている」及び「看護師には、仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」という記述についての患者さんの同意度を示したものです。
<図9>
どちらの項目についても中断意向あり者において8-10点の割合が低く、4点以下の割合が高い傾向が見られます。「治療の目標が共有できている」は中断意向あり者で2-4点の割合が高く(21%)、「仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」については0-1点の割合が高い(19.4%)という結果でした。後者の結果は、そもそもしていないゆえに0-1点という可能性が高いです前回の調査でも、主治医とは治療以外の相談ができていないことが示されましたが、看護師とも同様にできておらず、これが治療中断意向に影響していることがわかります。
これまで見てきたコミュニケーションの深さについての項目で低得点(0-1点)を付けた人の割合を、中断意向あり者となし者で比較しました<図10>。
<図10>
では次に、これまで見てきた項目について、年代別ではどのような違いがあるのかについて見ていきたいと思います。
質問内容は、中断意向有無の違いで見たものと同じです。
<図11>は看護師から受けたことのあるサポートについて尋ねたものですが、年代間ではわずかに差がみられます。
<図11>
看護師からのサポートを受けていると回答した割合がわずかに高いのは40代です。「サポートを受けていない」という40代は51.5%で全体より5%ほど低く、平均回答個数(選んだ選択肢の数)も1.18個と最も高くなっています。
ただし、40代も治療関連以外の相談をしている割合は低く、治療関連の説明や医師の説明補足を受けるにとどまっているようです。
対して最もサポートの平均個数が低いのは60代以上で0.71個です。「サポートを受けていない」という率は62.2%で全体と比較して差はありませんが、受けているサポートは「食事や日常生活についての説明」は2割を超えているものの、それ以外は全体より低く、60代以上は治療や薬、病気などの医学的な説明は主治医に頼っている部分が大きいことがうかがえます。
コミュニケーションの項目別の満足度についても、年代別で見てみます。
<図12>は病気、治療や薬に関して、<図13>は生活について、<図14>は心配や不安についての相談に関しての満足度です。
<図12>
<図13>
<図14>
全体として、50代での満足度が低いことが目立ちます。病気、治療や薬、食事や日常生活についての説明については50代では8-10点の高得点の割合が低く、「満足度が高くない」状態です。一方で、「仕事・学校、生活についての相談」や「心配や不安についての相談」といった治療外の相談事については4点以下の低得点の割合が高く、「不満が高い」状態です。こちらも治療外の相談ごとについては看護師とコミュニケーションそのものを行っていないため、低得点の割合が高くなっていると考えられますが、50代では特にその不満が強く認識されているとも考えられます。
次に、コミュニケーションの「深さ」について年代別に見てみます。(こちらも質問内容などは中断意向有無別で見た場合と同じです。)
<図15>は十分なコミュニケーションが取れているか否か、<図16>は看護師からの説明のわかりやすさや患者さん自身の情報が伝達できているか、<図17>は治療の目標共有や治療以外のことの相談ができているかについての同意度を示したものです。
<図15>
<図16>
<図17>
すべての項目において、50代で9-10点の高得点者の割合が全体と比較して低いことが目立ちます。
特に、<図17>で示されているように、50代では「仕事や生活のことなど、治療以外のことについても相談できる」という項目において0-1点の低得点者の割合が全体と比べて高くなっています(全体12.4%に対し、50代では20.4%)。働き盛りの50代ですが、看護師に治療以外の相談はできていない状況が見受けられます。一方、同じく働き盛りの40代では0-1点の低得点者の割合は50代ほど高くなく、12.2%です。この傾向は、前回の主治医とのコミュニケーションにおける満足度や同意度の特徴と似ています。
IBD患者さんは、治療に関することのみならず、日常生活や仕事との両立にも悩みを抱えていることが多いと考えられます。では患者さんたちは、悩みや困りごとがあるとき、誰に相談したいと思っているのでしょうか。また、看護師はどのような位置を占めているのでしょうか。病気や治療についてと、生活全般の悩みについて聞いてみました。
さらに、患者さんは疾患の情報をどこから得て、看護師はその中でどの位置づけになっているのでしょうか。
<図18>は「病気や治療について知りたいことがあるとき、誰に相談したいと思いますか。」と尋ねたものです。あてはまるものをすべて選んでもらいました。
<図18>
全体の数値を見ると、「病気や治療について相談したい先」は主治医が全体で92.5%と圧倒的です。主治医なので当然ですが、主治医以外は相談先としてあまり選択されておらず、病気や治療についての相談先は「主治医頼み」の状況がうかがえます。
医療的な事柄であるにもかかわらず、次に多いのは家族です(15.3%)。看護師は外来で7.3%、入院病棟で6.1%と、家族の半分以下です。「病気や治療について」といった医療的な内容でも看護師は相談先としての選択肢に含まれていないことがわかります。
中断意向有無で比較しても、看護師の選択率は6-7%で差がありません。看護師は相談相手として選択されていないので、治療継続モチベーションに影響するほどではないということなのかもしれません。
年代別ではわずかに40代で他の年代より高いですが、それでも外来看護師で11.9%にとどまっています。
<図19>は「学業や仕事など、生活全般について悩みがあるとき、誰に相談したいと思いますか。」と尋ねたものです。こちらもあてはまるものをすべて選んでもらいました。
<図19>
こちらは主治医と家族が同程度でトップになりましたが、看護師は全体で5%に満たない数字であり、患者さんからは生活全般の悩みについてもあまり相談先とはみなされていないことがわかります。年代別では40代で、「看護師」の割合は他年代と同様高くない(4%以下)にもかかわらず、「ソーシャルワーカー」が14.9%、「臨床心理士」が10.9%となっており、他年代より高くなっています。
40代は前回まで見てきたように、治療と仕事の両立などの悩みを抱えがちな年代です。しかしその際に悩みをどこに相談したいのかというと、ソーシャルワーカーや臨床心理士などの看護師以外の専門家であり、つまり看護師を相談先とは思っていないということがわかります。
<図20>は「【罹患疾患】の病気や治療に関する情報の入手先として、あてはまるものをすべてお知らせください。」と尋ねたものです。
<図20>
こちらも主治医が圧倒的です。二位以降は全体でも25%に満たず、疾患についての情報を得るのは主治医からのみという人が多いことがわかります。
看護師は全体でも11.3%で、Webサイトやブログなどのネット経由よりも低くなっています。
中断意向有無でもあまり差はなく、看護師から情報を得られているかどうかは治療モチベーションの維持にはあまり影響はないようです。
今回はIBD患者さんと看護師とのかかわり方、看護師の果たしている役割に焦点をあてて見てきました。
看護師はIBD患者さんと密接に関わることができる位置におり、治療以外の総合的なケアが必要なIBD患者さんの治療において、大きな役割を果たせると考えられます。
しかしながら調査結果では、そもそも「看護師のサポートは受けていない」という人が6割に上りました。また、サポートを受けている人も主に治療に関する内容が中心で、仕事や生活など治療外の相談のサポート率は1割未満という結果でした。
看護師とのコミュニケーションもそもそも十分でなく、全体として「満足していない」とはっきり認識されているという結果になりました。十分なコミュニケーションができていないことは、中断意向にも影響していました。
また、治療以外の相談ができていないことも、中断意向に影響していました。
主治医の場合も「治療以外の相談」はできていないと認識されているという結果でしたが(前回参照)、医師には相談しづらくても看護師がカバーしているということもないようです。
50代では特に「治療以外のことも相談できる」において不満が感じており、看護師にもっと役割を果たしてほしいと感じていることがうかがえます。裏を返せば看護師に対する期待が高いのかもしれません。
一方で40代は、仕事や生活など治療以外の悩みが多い年代であるにもかかわらず、50代より「満足度の低さ」「不満の強さ」の度合いは低めでした。40代は悩みがあってもそもそも看護師を頼ろうとせず、ソーシャルワーカーや臨床心理士などへの相談意向が他年代より高いことから、看護師に対する期待も不満も少ないのかもしれません。
看護師は、IBDの患者さんの総合的ケアにおいて重要な役割を果たすポテンシャルがありますが、現状は限定的な役割を果たすにとどまっていることがわかりました。また、看護師のポテンシャルが十分に発揮できていないことは、IBD患者さんの治療継続モチベーションにも大きく影響していることが示唆されました。
全五回にわたり「IBD患者さんがなぜ治療を中断したくなってしまうのか」、「特に課題のありそうな年代はどこなのか」について見てきました。
次回の総括では、これまでの内容を振り返りながら、患者さんが治療継続のモチベーションを維持するには何が必要かについて改めて考えていきたいと思います。
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