IBD患者さんにおける治療中断意向者の特徴【メディリード自主調査】
2024/04/02株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証一部3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区 代表取締役 亀井 晋、以下「メディリード」)は、炎症性腸疾患(IBD)患者の治療の満足度及びその背景となる医療従事者とのコミュニケーションなどについての自主調査(2023年)を行い、426名からの回答を得ました。
目次
腸を中心とする消化管粘膜に原因不明の慢性炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)には主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」があります。日本ではいずれも1970年代に国の特定疾患(現在の指定難病)に指定されました。
日本では1990年ごろから患者数が顕著に増加し、2020の推定患者数は、潰瘍性大腸炎が約22万人、クローン病が約7万人とされています。
IBDは一度治ったように見えても再発する病気で、長期にわたる治療が必要です。したがって、患者さんが治療のモチベーションをいかに保っていくか、が重要になります。
近年はIBD患者さんにとっての治療選択肢が増加していますが、医師側には「患者さんに薬剤や治療の選択肢などの情報が伝わらず、患者さんが自分の判断で治療から脱落してしまう。」という悩みがあります。一方で患者さん側にも、医師に自身の辛さを理解してもらえない、と悩み、通院が苦痛になっているという状況があります。
近年は治療目標を決めるにあたって、主治医と患者が相互的に話し合い合意のもとに決定する「Shared Decision Making(SDM)」が提唱・推進されています。
しかし実際のところ、医師やコメディカルといった医療従事者とのコミュニケーションやSDMの程度、それがどの程度患者さんの治療継続のモチベーションに関連しているのか、についてはまだ理解が進んでいない状況があります。
そこで私たちは、このように社会的影響も大きいながらも、理解が進んでいないと思われるIBD患者さんの意識および医師、看護師との関係性について、調査を実施いたしました。
調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象: 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人
調査期間: 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木)
有効回答数: 426
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります
私たちは今回の調査で下記を明らかにすることを試みました。
・なぜ患者さんは、治療を中断したくなってしまうのか?
・特に課題のありそうなセグメントはどこなのか(課題がありそうなのは誰なのか)?
具体的には下記のような「調査課題」を設定しました。<図1>
〈図1〉
次に、本課題を考えるにあたって、次のような仮説を置きました。<図2>
〈図2〉
本レポートでは、調査課題にもとづき、上記の仮説を検証していく、という形ですすめていきます。
本レポートでは5回にわたり、次のようなテーマをとりあげます。<図3>
現状を把握しつつ、起こっている現象の背景にはどのようなものがあると考えられるのか、を考察していきたいと思います。
〈図3〉
第一回は、「治療中断意向者はどのような人たちか」についてとりあげます。
今回の調査におけるIBD患者さん426名の属性は以下のようになっています。
〈図4〉
〈図5〉
〈図6〉
今までに、罹患疾患の治療をやめたい気持ちになったことがあるか、を聞いたところ、「現在治療をやめたいと感じている」人は12.2%、「過去に治療をやめたくなったことがある」という人は24.4%でした。3分の1以上がこれまでに治療をやめたいと思った経験がある、ということになります。IBDは長期にわたり治療を継続しなければなりませんが、多くの患者さんが治療継続のモチベーションを保つのに苦労している/した経験があることがわかります。
では、治療継続のモチベーションにつながる要素は何なのでしょうか。治療をやめたくなったことがある人は3分の1以上いますが、やめたくなったことのない人との違いは何なのでしょうか。
治療をやめたくなったことがある人とそうでない人の違いを見ることで、「どんな人が、なぜ治療をやめたいと思ってしまうのか」ということについて、引き続きみていきたいと思います。
まずは属性面での特徴をみてみます。
〈図7〉
年齢をみてみると、中断意向あり者(「現在、治療をやめたいと感じている」人と「過去に治療をやめたくなったことがある」人の合計)は中断意向なし者と比較して年齢は若めでした。30代以下では半数近く(44.6%)が中断意向あり者となりました。
「過去に治療をやめたくなった経験」も聞いているので、年齢を重ねると「やめたくなった経験」が増えても良いはずですが、今回の調査ではやめたくなった経験(「過去に治療をやめたくなったことがある」)も年齢が上なほど低い(60代以上は22.8%、対して30代以下では29.2%)、という結果になりました。
これはすなわち、「治療中断意向」には年齢ではなく「世代」的な考え方の違い、つまり「ジェネレーションギャップ」が生じている、ということを示唆しています。若い世代のニーズが反映されていない、もしくは若い世代が求めることが提供されていないため、若い人程治療継続のモチベーションが低くなっている、と考えられます。
〈図8〉
性別では治療中断意向あり者の方がなし者と比べ女性が多めでした(中断意向あり者は42.9%、なし者は30.0%)。
これも世代間ギャップと同じく、治療において女性が求めがちなことが反映されていないため、治療継続のモチベーションが低くなっている可能性があります。
就労状況では、中断意向あり者よりなし者の方が「就学・就労していない」率が高めでした(中断意向あり者は24.4%、なし者は30.4%)。
中断意向なし者は60歳以上の比率が高いということとも関連していますが、中断意向あり者はなし者と比べ、より学業や仕事との両立への悩みが生じやすい状況にあり、それが治療継続モチベーションにも関わっている、と考えられます。学業や仕事といった社会生活との両立については、後の回で詳しく取り上げます。
IBDの症状や治療まわりについてみてみます。
〈図9〉
〈図10〉
〈図11〉
〈図12〉
中断意向あり者はなし者と比べ、以下のような特徴がありました。
・「急性期/活動期」の割合が高め(中断意向あり者は14.1%、なし者は10.0%)<図9>
・「最もつらい症状」において「特にない」を選択した率が低め(中断意向あり者は20.5%、なし者は39.6%)<図10>
・通院頻度が高め:中断意向なし者に比べ「3-4週間に1回程度」が高め(中断意向あり者24.4%、なし者18.9%)で「3か月に1回程度」が低め(中断意向あり者は26.3%、なし者は32.2%)<図11>
・入院回数が多め(中断意向あり者の平均入院回数は1.84回、なし者は1.67回)<図12>
つまり、中断意向あり者はなし者と比べ、症状が出ている/症状が重めの傾向がある、という結果になりました。
治療に際しての患者さんのアドヒアランス、つまり、通院頻度や服薬についてどのくらい医師の指示を守っているか、についてみてみます。
〈図13〉
中断意向あり者はなし者と比べ、通院頻度、自己注射や薬のアドヒアランスともに低めの傾向がみられました。
通院頻度が「守れている」とTOP BOXの回答をしているのは中断意向あり者では56.4%と半数程度ですが、なし者は75.6%と、20%近い差がありました。自己注射や薬についてのアドヒアランスも、TOP BOX回答で中断意向あり者となし者で10%近くの差がありました。
症状が重めの人の割合が高めにもかかわらず、中断意向あり者の方が治療に際してのアドヒアランスがやや低い、ということは、「症状が重い」からといって「医師の言うことを(忠実に)守る」という行動にはつながりにくいことを示唆しています。それはなぜなのでしょうか。
図14は、「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できる」についての同意度を示したものです。「強くそう思う」を10点、「全くそう思わない」を0点として、選んでもらいました。
〈図14〉
中断意向あり者は症状が重めとすると、現状は苦しいはずですが、なし者と比べ、全体的に同意度が低くなっています。例えば、中断意向なし者は「10点(強くそう思う)」と答えた人は28.5%でしたが、あり者は17.3%にとどまりました。逆に、中断意向あり者では、4点未満の低い得点を付けた人が17.9%いました(対してなし者では4.4%でした)。
中断意向あり者がなし者に比べ、「主治医の指示を守る」ことに対しての重視度が低めなのか、「長期の寛解が達成できる」ことに関しての理解が浅いのかは定かではありません。しかし、中断意向あり者には以下のような悪循環が起こっている可能性があります。
「主治医の指示を守ることで、(将来的には)長期の寛解が達成できる」ということに同意していない(理解が浅い)
→現段階で辛い症状に直面すると、すぐに良くならないことで治療が嫌になってしまう
→医師の指示に従うモチベーションがさらに下がる
→長期の寛解が達成しづらくなる
→(医師の指示を守ることで長期の寛解が達成できる、と感じられない)
→更に治療継続のモチベーションが下がる
〈図15〉
IBDは長期にわたる治療が必要となる病気であり、途中で治療をやめてしまうと、長期的にQOLを保つことが難しくなりますが、現状はなかなか治療継続のモチベーションを保つことは難しいようです。
今回は患者さんの3分の1以上に及ぶ、「治療をやめたくなったことがある(現在やめたいと感じている人を含む)」について、どんな人が、なぜやめたくなるのか、人口学的な属性面、行動(アドヒアランス)、意識面の特徴についてみてみました。
治療中断意向ありの患者さんは、なしの患者さんに比べて症状がやや重めであるにもかかわらず、「主治医の指示に従う」傾向がやや低いことがわかりました。背景には、「主治医の指示に従うこと」により「長期の寛解が達成できる」ということの理解があまり進んでいない、ということがありました。
年齢では若い人の方が、性別では女性の方が、治療中断意向あり者が多い、という結果になりました。これらの属性の方々は、主治医が指示した、というだけでは、とにかく従おう、治療を継続しよう、という意識や行動には至らない、ということがうかがえます。
また、治療中断意向者は就学・就労者の割合が高かったことも特徴です。つまり、中断意向なし者に比べ学業や仕事との両立についての悩みが深いと思われます。
つまり、治療継続のモチベーションを保つには、「この先生は(学業、仕事との両立などの治療面以外を含め)自分の悩みを分かってくれている」と患者さんが思うことが重要だと考えられます。結果、「だからこの先生は信頼できる」となり、アドヒアランスを保つことにつながる、ひいては長期寛解が達成できる…のだと考えられます。
患者さんの悩みや、それについて実際どのくらい医師や看護師に相談しているか、については次回以降に詳しくみていきたいと思います。
最後に、本調査にご協力いただき、貴重なご意見を共有してくださったIBD患者の皆様に、心より感謝申し上げます。
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