ホーム > 自主調査一覧 > がん患者の「薬物治療継続」の課題と背景—がん自主調査【第2回】

がん患者の「薬物治療継続」の課題と背景—がん自主調査【第2回】

2024/11/13
メディリード / 自主調査チーム

株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証プライム3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:亀井 晋、以下「当社」)は、がん患者さんの薬物治療継続についての現状、およびその背景となる意識や行動についての自主調査(2024年)を行い、632名からの回答を得ました。

背景

前回(第1回)は、「がんの薬物治療中断者はどのくらいいるか?どのような人たちか?」について取り上げ、主に属性的な側面から、どのような人が治療モチベーションを保てず中断に至ってしまうのかについて見ました。
第2回は、「がん患者さんは薬物治療にどのような不安を抱えているか?」について取り上げます。
第一回記事はこちら

調査概要

調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象:
  • がんで薬物治療中、もしくは薬物治療を経験したことのある患者さん
  • ステージⅠ~Ⅳの方
調査期間: 2024年6月17日(月)~2024年6月21日(金)
有効回答数: 632

※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります

回答者属性

本調査回答者の属性は以下の通りです。

<図1>


第2回レポートサマリー

<図2>


調査結果詳細

がん患者さんは、薬物治療にあたってどのような不安を抱えているか?

がん患者さんが薬物治療中に抱える具体的な不安とはなんでしょうか。
また、治療前に抱える不安と、実際に治療を始めてからの不安(治療中に抱える不安)は違うと考えられますが、どのような変化があるのでしょうか。
中断意向者(薬物治療を中断したいと思ったことはあるが、実際にやめたことはない人)と実際の中断者(薬物治療をやめたことがある人)にはどのような差があるのでしょうか。
両者の差を比較し、中断者が抱えがちな不安、治療モチベーションに強く影響する不安について考えていきます。

治療前と治療中に感じたことのある不安:中断意向者と中断者比較

まずは治療前と治療中に抱える不安について、中断意向者と中断者を比較しました。

<図3>


図の左が治療前に抱えた不安、右が治療中に抱えた不安を表しています(いずれも複数回答が可能)。水色が中断意向者、青色が中断者です。
グレーのチャートはそれぞれ「中断意向者」と「中断者」の差を表しています。右に横棒が伸びている項目は中断意向者の割合が高く、左に伸びている項目は中断者の割合が高いことを示しています。
治療前、治療中ともに、グレーの横棒が右に伸びている項目が多いことが確認できます。つまり、中断者より意向者の方が全体的に不安を抱えがちであるということです。これは、中断者の方が再発者が多かったことと関連が深いと考えられます。中断者は再発者が多めなので「何が起こるかわからない」不安が意向者よりは少ないと推測されます。「漠然とした不安」についても中断者は中断意向者に比べて低く、治療中になると10%未満にまで下がっています。逆に初発者の多い中断意向者は、4割以上が治療前に「漠然とした不安」を抱えています。
中断者で割合が高い傾向にあるのは「再び悪化・再発してしまうのではないかという不安」で、特に治療前で中断意向者との差が大きく、7.1%高いという結果になっています。

中断者が抱える不安は中断意向者より少ない傾向があり、中断意向者と比べると副作用の不安や漠然とした不安は少ないものの、「再び悪化・再発」という未知の状況に対してより不安に感じ、常に拭えない状態でいることがうかがえます。

それぞれが感じたことのある不安:治療前と治療中比較

次に、中断意向者と中断者それぞれについて、治療前と治療中に不安がどのように変化したかを比較しました。<図4>

<図4>


水色が治療前の不安、青が治療中の不安です。
グレーの横棒チャートが右に伸びているものは治療中に増加した不安、左に伸びているものは治療中に減少した不安(治療前の方が不安に思っていたもの)です。

中断意向者は治療中の「再び悪化・再発してしまうのではないか」という不安が、治療前と比べ7.6%増加しています。中断者は41.9%と変わりません。「悪化・再発の不安」は時間の経過とともに徐々に強まっていく傾向があること、特に再発者が多い中断者においては治療が進行していてもその不安が減少していないことがわかります。つまり「悪化・再発の不安」は未解決のままであり、効果的な軽減策が十分に取られていないこともうかがえます。

中断意向者と中断者でグレーの横棒チャート(治療前と治療中変化)の傾向が異なるのは「経済的不安」です。中断意向者の「経済的不安」は治療前⇒治療中で6.3%減少しているのに対し、中断者は治療前⇒治療中でほぼ変化のない3.2%増でした。つまり、中断者において、経済的不安は治療が進行してからも減少はしていないということです。中断者においては、経済的不安の数値自体は意向者より低めではあるものの、治療前から治療中にかけて経済的不安があっても、これといった対策はとられておらず、結果不安が減少しないという状態になっている可能性があります。

では、治療前から治療中に経済的不安が減少しないセグメントはどこでしょうか。同じく治療前から治療中の変化について、性別・年代別で見てみました。<図5>は男性の年代別、<図6>は女性の年代別のデータです。

<図5>


経済的不安に着目してみると、経済的不安が最も高いのは男性では50代で、全体の治療前、治療中と比較して15%程度高く、また、治療前から治療中の変化がなく、39.7%と高いままです。

<図6>


女性の場合は、経済的不安が治療前に最も高いのは40代以下(45.2%)ですが、治療中になると8.1%減少して37.1%です。つまり、経済的不安は「治療前に思っていたほどではなかった」か、不安軽減のために何らかの対策がとられ、減少したことがうかがえます。50代女性については治療前では38.1%であったのに対し、治療中では34.5%で、あまり変化は見られませんが、50代男性の治療中の経済的不安39.7%と比較するとやや少ない傾向があります。全体としては女性の方が経済的不安は大きいものの、50代に関しては男性の方が大きな不安を抱えており、かつ治療中も変化しないことがわかります。費用面の負担感については、次回もう少し詳しくみていきたいと思います。

不安はどれくらい解決できているか?

前項では、不安がどのようなものなのか、そしてそれが治療前と治療中でどう違ってくるのかという観点で見てみましたが、今度は「不安がどれだけ解決できているのか」について見ていきます。

不安の解決度合い

<図7>は、「あなたが感じたことのある不安は現在解決していますか」という設問で、「解決している」~「解決していない」まで、4段階で回答してもらった結果です。治療中の患者さんのみの回答に絞っています。

<図7>


「解決していない」を示す赤色が目立つのは「いつまで治療を続けるのかの不安」という項目で、41.6%にのぼりました。
前項でみた、特に中断者において治療前⇒治療中に変化が見られなかった、つまり解決していないのではないかと思われた「経済的不安」は「解決していない」が31.7%で、これも他の項目に比べ、はっきりと「解決していない」と認識されている割合が高くなっています。

<図8>は、各項目について「解決していない」の選択率を、「中断意向なし者」と「中断意向あり者(サンプルサイズの関係で、中断意向者と中断者を合計しています)」で比較したものです。水色の折れ線が中断意向なし者、ピンクの折れ線が中断意向者あり者を示しており、すべての項目において中断意向あり者の方が「解決していない」の選択率が高いことが一目瞭然です。患者さんの抱える「不安」をなるべく軽減、解決の方向に持っていくことが治療継続のためには重要であることが改めてわかります。

<図8>


まとめ(示唆)

今回は、がん患者さんはどのような不安を抱え、それがどのくらい解決しているのかについて見てきました。前回と同じく、中断者と中断意向者を比較することで、中断に至る人と至らない人を分ける要因はどこにあるのかという点を明らかにすることを目的としました。

全体的に中断者は、中断意向者に比べて抱える不安は少ない傾向がありました。中断者には再発者が多めであることも影響していると考えられます。感じる不安の多さが単純に中断意向に結びついているわけではなさそうです。
一方で、中断者は「再発・悪化の不安」を持ち続けていることがわかりました。
また、中断意向者は「経済的不安」が治療前から治療中にかけて減少していましたが、中断者においては変化がありませんでした。治療法には様々選択肢があり、かかる費用も広範囲ですが、中断者は経済的不安について取れる手段を十分に講じていない可能性もあります。結果として経済不安が解決せず、薬物治療継続のモチベーションも保てなくなっているのかもしれません。
費用負担軽減のための制度の利用状況については、第三回で取り上げます。

「いつまで治療を続けるのか」に対する不安は解決していない割合が高いことがわかりました。治療の先行きが見えないことからくる不安が治療継続モチベーションの低下につながっていることがうかがえます。このような場合、医師による治療計画や目標の情報提供不足も、患者さんの不安増大につながる可能性があります。

「悪化や再発」「いつまで治療を続けるのか」という不安は、「将来が見えない」ことによる不安である点で共通しており、先述した「将来展望」ともつながります。
「先行きが見えない」ということは事実かもしれません。しかしそれをどう捉えてどう動くかは人それぞれです。そのまま見えないものとして不安なままでいるのか、どうなるかはわからないかもしれないけれど、展望や目標をもって過ごすか、アプローチの仕方で薬物治療の継続モチベーションは変わってくると考えられます。
医師や看護師、サバイバーなどとのコミュニケーションを通し、何らかの先例や情報を得ることでポジティブな将来像を描くことができ、治療モチベーションが維持される可能性がうかがえます。

次回は、今回「中断意向」と「実際の中断」の分かれ目にもなっていた、患者さんの費用の負担感について取り上げます。費用負担感の解決状況、費用負担軽減のための制度利用状況についても見ていきたいと思います。

詳細なレポートのダウンロードはこちらから

≪引用・転載時のクレジット表記のお願い≫
本リリースの引用・転載時には、必ずクレジットを明記いただけますようお願い申し上げます。
<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いた自己調査によると・・・」


自主調査レポート
この記事の監修者
メディリード / 自主調査チーム
メディリードは「わたしたちの幸せな生活とヘルスケアの未来のため」という事業理念のもと、自主調査を通じて様々な方々の幸せな未来の生活に役立てたいと思っています。

ご相談やご依頼、および資料請求についてはこちらからお問い合わせください。

お問い合わせ
LOGO

〒163-1424 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー24F

TEL : 03-6859-2295 FAX : 03-6745-1168