「治療をやめたい」と思う理由は何か?がん患者の治療中断を決断させる要因を調査—がん自主調査【第1回】
2024/10/08株式会社クロス・マーケティンググループ(本社:東京都新宿区、代表取締役社長兼CEO:五十嵐 幹、東証プライム3675)のグループ会社である株式会社メディリード(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:亀井 晋、以下「当社」)は、がん患者さんの薬物治療継続についての現状、およびその背景となる意識や行動についての自主調査(2024年)を行い、632名からの回答を得ました。
目次
がん薬物療法は近年大きく進歩し、多くの薬物治療が使用できるようになったことで、生存率の改善が見られています。
しかし、がん患者さんは治療において多くの悩みや不安を抱えており、これに対応するためがん相談支援センターなどのサポート体制も整備されてきています。
一方で、がんの薬物治療においては、他の疾患と同様に一定の割合で治療を継続できていない患者さんがいることが報告されており、すべての患者さんが治療の恩恵を享受できていない現状があります。
薬物治療の充実やサポート体制の整備が進んでいるにもかかわらず、治療を中止・中断してしまう患者さんの特徴や心理的背景などはまだあまり明らかになっていません。
そこで当社は、がん患者さんの薬物治療継続の状況、および治療を続ける中で抱える不安やそれに対する解決のための行動などについての調査を実施しました。
本記事では、その調査結果の中から特に注目すべき点を中心にご紹介します。
調査手法: | インターネット調査 |
調査地域: | 全国 |
調査対象: |
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調査期間: | 2024年6月17日(月)~2024年6月21日(金) |
有効回答数: | 632 |
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります
当社では、今回の調査で以下の点を明らかにすることを目的としました。
この調査課題をさらに具体化すると下記のようになります。
本課題を考えるにあたり、次のような仮説を立てました。
本レポートでは、調査課題・仮説を6回にわたって検証していきます。
6回のテーマを以下のように設定しました。第六回では興味深かったトピックとして、「がん相談支援センター利用者はどんな人か」を番外編として取り上げています。<図1>
〈図1〉
第一回は、「薬物治療中断者はどのくらいいるか?どのような人たちか?」について取り上げます。主に属性的な側面から見ていきたいと思います。
本調査回答者の属性は以下の通りです。
〈図2〉
〈図3〉
〈図4〉
患者さんに自分の意思で薬物治療を中止・中断したいと思ったことはあるか、またその結果として実際に中止・中断したか(治療をやめたか、またはその後再開したか)を尋ねました。「中止・中断したいと思ったことがあるが、しなかった」患者さんは全体の25.0%おり、「実際に中止・中断した」経験のある患者さんは(その後再開した人も含め)9.8%と、約1割は薬物治療を実際に中止・中断していることがわかりました(約3%は再開しています)。これらを合わせると、3分の1以上の患者さんが一度は薬物治療をやめたいと思った経験があり、多くの患者さんが薬物治療を続けるためのモチベーション維持に苦労していることがわかります。
では、実際に薬物治療を中止・中断してしまう患者さんと、やめずに思いとどまる患者さんの違いは何でしょうか。また、さらに「中止・中断したいと思ったことがない」患者さんとは何が異なるのでしょうか。これらの違いを見ることで、「どのような患者さんが、なぜ治療をやめたいと思ってしまうのか」「どのような患者さんが実際にやめてしまうのか」ということについて、引き続き考察していきます。
まずは属性面での特徴です。
〈図5〉
性年代別でみてみると、男女ともに40代以下で特に「中止・中断したいと思ったことがあるが、しなかった」割合が高く、「中断意向あり計」(実際に中止した患者さんと、中止したいと思ったがやめなかった患者さんの合計)も高めであることがわかります。特に男性の40代以下では実際に治療を中止した「中断経験あり計」の割合が40.6%と、他の年代に比べて高い値を示しています。「薬物治療をやめたい」と思う患者さんは比較的若い年代に多い傾向があることがわかります。
一方で、男性の70代以上では「中止・中断したいと思うことはなかった」が76.9%と、他の年代に比べて顕著に高い結果となりました。
この年代差および性差は、ジェンダー規範や世代の価値観を反映している可能性があります。たとえば、年代の高い男性ほど「男は我慢すべき」と考える傾向があるかもしれません。また、若い世代では仕事や家庭環境の違い(仕事と治療の両立や将来への不安など)が影響していることも考えられます。
いずれにしても、若年層の患者さんほど「やめたい」と思う傾向があることがうかがえます。ただし、中断意向は年齢を重ねるにつれて低下するのかのか、それとも「世代特有の傾向」として現れているのか(現在40代以下の世代が50代、60代となっても同様の価値基準を持ち続け、中断意向は低下しないのかのか)は、今回の調査では明らかになっていません。
次に、ステージと再発状況です。<図6>
〈図6〉
がんのステージ別に分析すると、「中断意向ありだが実際にはやめなかった(以下、中断意向者)」患者さんでステージⅡの割合がわずかに高いことが確認されました。しかし、「中止・中断経験あり(以下、中断者)」の患者さんについてはステージごとの分布に大きな差はありませんでした。つまり、中断してしまうかどうかはがんのステージとは直接的な関係はなく、他の要因が大きく影響している可能性がうかがえます。
一方、再発状況では、中断者において「再発があった」患者さんの割合は33.9%と、全体(21.4%)より高めでした。これにより、再発患者の方が薬物治療を中断してしまう傾向にあることがわかります。薬物が体に合わないケースがあるだけではなく、ステージに関係なく再発による様々な不調や不安などが、薬物治療継続のモチベーションを低下させてしまう状況があることが推測されます。
副作用のつらさと中断意向にはどのような関係があるのでしょうか。<図7>
〈図7〉
「中断者」の35.5%が、副作用が「とてもつらい」と回答しており、「中断意向者」の26.6%と比べるとかなり高く、治療中断には副作用のつらさが関係している可能性が示唆されます。
一方で、中断者の24.4%は、副作用が「あまりつらくない」~「全くつらくない」と回答しており、「中断意向者」(12.7%)よりも高いことがわかりました。つまり、副作用のつらさ以外に薬物治療を中断してしまう要因があることが推測されます。
副作用のつらさについて、性年代別で見てみます<図8>
〈図8〉
副作用のつらさについて、特に男性では年代が若いほど「とてもつらい」~「ややつらい」の割合が高く、年代が上がるにつれて「あまりつらくない」~「まったくつらくない」と感じる割合が増える傾向が見られました。
女性では60代で「ややつらい」の割合が低くなるものの、全体的には年代が若いほど「つらい」と感じる割合が高くなる点で男性と同じ傾向が見られました。
「薬物治療をやめたい(もしくは実際にやめてしまう)」という意向と同じく、年代が上がるにつれて副作用のつらさが軽減するのか、あるいは年代が上がるほど我慢強さが増すのか、または年代によって罹患するがん種が異なるためなのかは、この調査結果だけでは明らかになっていません。しかし、年代と副作用のつらさには関連性があることがうかがえます。
<図9>は、副作用のつらさ別での中断意向を見たものです。
〈図9〉
副作用がつらい患者さんほど「中断意向なし」の割合が低く、「中断意向あり」や「中断者」の割合が高いことがわかります。
具体的には、副作用が「とてもつらい」と感じる患者さんの約4人に3人(73.6%)が「薬物治療をやめたい」と思ったことがあり、約4人に1人(25.3%)は実際に中断してしまうという結果でした。副作用がつらいと「治療をやめたい」と思うのは自然なことと思われるかもしれませんが、一方で、副作用が「とてもつらい」と回答した患者さんのうち、およそ4人に1人(26.4%)は「中断したいと思ったことがない」と回答しています。つまり、副作用のつらさが治療中断につながるわけではなく、他の要因が関係している可能性がうかがえます。
がん患者さんはどのような気持ちで薬物治療に取り組んでいるのでしょうか。当社は「将来展望」が薬物治療継続のモチベーションに大きく影響しているのではないかという仮説を立てました。すなわち、単に「薬物治療を受ける」と捉えるのと、「必ず良くなる」「なるべく今の状況を長く維持できる」ための手段として捉えるのでは、目の前の治療を乗り越えるモチベーションに違いが出るのではないかと考えました。
<図10>は早期がん患者さんに「薬物治療をきちんと続ければ、将来必ず良くなると思いますか」と尋ねた結果、<図11>は進行がん患者さんに「薬物治療をきちんと続けることで、今の生活を維持できると思いますか」と尋ねた結果です。進行がん患者さんのサンプル数が少ないため、「中断意向者」と「中断者」をまとめて「中断意向ありの人」として扱い、「中断意向なし」との比較を行いました。
〈図10〉
〈図11〉
結果として、早期がん患者さん、進行がん患者さんともに、「中断意向者」「中断者」が「中断意向なし」よりも「あまりそう思わない」~「そう思わない」の割合が高い結果になりました。特に進行がん患者さんは、同じステージでも「中断意向なし」と「中断意向あり」(中断意向者+中断者)との間で、将来展望に対する考え方に明らかな差が見られました。つまり、「薬物治療を受ける」先に自分がどうなっているか、すなわち「良くなっている」もしくは「今の生活が維持できている」といった未来を想像できるかどうかが、治療継続のモチベーションに大きく影響することがうかがえます。
中断者は中断意向者や中断意向なし者と比べて副作用がつらく、将来展望も悲観的になりやすいことがわかりました。
患者さんが「副作用がつらい」と感じるほど、「このまま必ずよくなる」と思えず、治療継続モチベーションも上がりにくいことが考えられますが、実際のところはどうなのでしょうか。
<図12>では早期がん患者さんの副作用のつらさ別に、将来展望をどう捉えているかをみたものです。
〈図12〉
興味深いことに、副作用が「とてもつらい」と感じている患者さんは、「将来必ず良くなる」に対して「非常にそう思う」の割合が2割を超えており、「まったくつらくない」と感じる患者さんの割合(25.0%)と似た傾向が見られました(対して全体では13.7%)。つまり、副作用がつらい患者さんほど将来展望が悲観的になるという単純な図式ではなく、副作用が「とてもつらい」患者さんは「強くポジティブな将来展望を持っている」傾向があることがわかりました。
今回は「なぜがん患者さんは薬物治療を中断してしまうのか」について、実際に中断してしまった「中断者」、中断したいとは思ったがやめなかった「中断意向者」、中断したいと思ったことのない「中断意向なし者」の間の違いを、属性や副作用のつらさ、将来展望の観点から見ていきました。
まず、副作用がつらいほどに中断意向者、中断者の割合が上がっており、副作用のつらさが中断意向との関係が大きいことが確認できました。このことから、薬剤の効果がみられない場合は除き「副作用のつらさ」をどれだけ軽減できるかが直接的に中断率を下げることにつながると考えられます。
また、薬物治療を続けることで「必ず良くなる」「今の状態が維持できる」というポジティブな「将来展望」を持てるかどうかが中断意向に関わっていることも明らかになりました。
しかし、副作用がつらいからといって必ずしも将来展望が悲観的になるわけではなく、副作用が「とてもつらい」患者さんでも「将来必ず良くなる」と強く思っている割合が高い傾向が見られました。
ここから読み取れることは、副作用が「とてもつらい」患者さんは単純につらさに負けてしまうとは限らないということです。副作用がつらくても「必ず良くなる」という希望を強く持ち、頑張ろうとしているということなのではないでしょうか。患者さんなりの強さを持って治療を続けようとしている状況があると考えられます。
このように、単純に「副作用がつらいなら治療をやめさせる」だけではなく、薬物の効果があるのであれば「副作用のつらさ」に寄り添いつつ、「将来必ず良くなる」という希望が持てるようにサポートをすることも重要だと考えられます。こういったサポートがあれば、副作用がつらいという状況があっても、治療をやめずに続けることができる患者さんがもっと増えていくかもしれません。
次回以降は、患者さんが薬物治療にどのような不安を抱えているのか、その不安はどう解決されているのかについて分析していきたいと思います。
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