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2023.09.07

MHPコラム(介護シリーズ)

データから見えてくる、家族の認知症介護の現状と負担とは

株式会社メディリードでは、当社が保有している国内最大規模の疾患に関するデータベースであるMedilead Healthcare Panel(以下MHP)のデータを活用し、ニュース等で取り上げられている事象をコラム記事としてお届けいたします。今回のテーマは「介護」です。

超高齢化社会が進む日本では、介護問題、とりわけ認知症の介護の問題は、年々深刻になってきています。この記事では、家族の認知症介護の実態と介護者の負担について、当社で毎年行っているMHPの調査結果をもとに解説いたします。

認知症とは

認知症とは、脳の機能障害により、認識、思考、判断、記憶、言語などの能力が徐々に低下していく症状のことを指します。主に高齢者に多くみられますが、若年者でも発症することがあります。

認知症の症状

認知症の種類によって若干異なりますが、認知症では様々な症状があらわれます。症状には、脳の機能が壊れることにより起こる中核症状と、中核症状を原因として二次的に起こる周辺症状に分けられます。中核症状には、以下のようなものがあります。

・記憶障害(もの忘れ)
・見当識障害(時間・場所・人物を記憶、認識する能力の障害)
・判断力の障害
・認知機能障害(失語、失行、失認)
・実行機能障害

周辺症状は、様々な要因が絡み合って起こるため、あらわれ方は人によって違います。周囲の人の対応によって減らすことも可能です。周辺症状には以下のようなものがあります。

・徘徊
・人格変化
・暴力、暴言
・せん妄、幻覚、妄想
・不安、抑うつ
・介護拒否
・失禁

認知症の種類

認知症には、大きく分けて、アルツハイマー型認知症(AD)、血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変型症(FTLD)の4つがあります。なお、アルツハイマー型以外は、非アルツハイマー型と分類されることもあります。それぞれの特徴は以下の通りです。

アルツハイマー型認知症

非アルツハイマー型認知症

血管性認知症

レビー小体型認知症

前頭側頭葉変型症

原因・症状の特徴など

認知症の中では最も多く、いわゆる脳の老化現象のため、歳をとるほど発症しやすくなります。アミノロイドβ、タウタンパク質の異常により、記憶に関わる「海馬」から委縮していくとされています。

記憶障害から始まることが多く、病気の進行によって、判断力の低下、失語、見当識障害、性格の変化や徘徊などが見られることもあります。

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で起こります。40~50代での発症もあります。

症状は障害を受けた部位によって異なりますが、記憶障害や麻痺などの症状がみられます。

認知症の中では2番目に多く、脳内にレビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積されることによって起こります。

記憶障害の他、幻視、歩行困難などのパーキンソン症状がみられることもあります。

前頭葉と側頭葉前部の萎縮や血流の低下などによって起こります。

行動や性格の変化、感情の変化(無気力、抑うつ、情緒のコントロールが激しくなるなど)、言語傷害など、人格や性格が極端に変わってしまったような症状がみられます。

認知症には含まれませんが、認知症の一歩手前の段階を、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼びます。正常な状態と認知症の中間であり、記憶力などの認知機能の低下が認められることがありますが、それが認知症の診断基準を満たすほど進行していない状態です。年間10~30%が認知症に進行するとされていますが、MCIのすべての人が認知症になるわけではありません。

家族の認知症介護の現状

認知症を発症している方の数は年々増加していると言われていますが、実際はどのような現状なのでしょうか。

認知症患者と介護者の人数

厚生労働省の資料によると、平成22年(2010年)の認知症有病者数の推計は、約439万人となっています。軽度認知障害(MCI)の有病者数の推計は約380万人です。

出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kaiken_shiryou/2013/dl/130607-01.pdf

なお、同じく厚生労働省の令和元年(2019年)の資料によると、長期で認知症の有病率の調査を行っている久山町研究のデータから、新たに推計した認知症の有病率を、平成25年筑波大学の研究報告による2012年における認知症有病者数462万人に当てはめた場合、2025年の認知症有病者数の推計は、約700万人となるとしています。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/001061139.pdf

10000人以上を対象にしたMHPの介護に関する調査においても、被介護者が1年以内に入通院した病名を聞いたところ、アルツハイマー型認知症は約336人で全体の約3%、非アルツハイマー型認知症は約89人で、全体の約0.8%、合わせて約4%でした。

では、介護者の数はどうでしょうか。
認知症イノベーションアライアンスワーキンググループ事務局の調査(※)によると、約90%の方が、認知症の方を家族3人までで介護をしていることがわかりました。
在宅介護を全体の7割と仮定し(図3.4を参照)、一番多い割合である「2人」で計算すると、先ほどの2010年の有病者数439万人をあてはめた場合、615万人の介護者がいる計算となります。2025年の推計700万人をあてはめると、在宅介護を7割とした場合、980万人となり、約10人に1人の割合という計算になります。

(※)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ninchisho_wg/pdf/002_05_00.pdf

要介護度

認知症患者の要介護度はどうなっているでしょうか。MHPの調査では、以下のようになりました。

・<図1>アルツハイマー型認知症

要介護1が最も多く、全体の約3割を占めています。続いて要介護2、要介護3の順に多く、要介護1~3で全体の約8割となっています(図1)。

・<図2>非アルツハイマー型認知症

要介護2が一番多く、要介護3、要介護1と続きます。アルツハイマー型と同じく、要介護1~3で約8割を占めています。(図2)

施設介護か在宅介護か

被介護者である認知症の方がどこにお住まいかを聞いた結果がこちらになります。

・<図3>アルツハイマー型認知症

・<図4>非アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症の方は約7割、非アルツハイマー型の方は約6割が在宅介護ということがわかりました。非アルツハイマー型の方は施設に入居しているケースが多く、約2割を占めています。アルツハイマー型の方は、グループホームに入居している割合がやや多いという結果となりました(図3、4)。

認知症介護の負担

認知症の方を介護している方は、どのくらい負担に感じているのでしょうか。介護者に「全体を通してみると、介護をするということはどれくらいあなたご自身の負担になっていると思いますか。」という質問をしたところ、以下のような結果となりました。

<図5>

「全く負担ではない」と回答した方は、他の疾患の介護も含む全体では9.4%だったのに対し、アルツハイマー型認知症、非アルツハイマー型認知症の介護者は、それぞれ2.3%、4.5%となっています。また、「非常に大きな負担だと思う」と回答した方は、全体では10.1%ですが、アルツハイマー型認知症、非アルツハイマー型認知症の方は約15%となっており、認知症患者の介護者は、負担を抱えやすい傾向があることがわかります(図5)。

具体的には、「患者さんの行動に対し、困ってしまうと思うことがありますか」という質問に対し、「思わない」と回答した方は、全体では17.1%であったのに対し、アルツハイマー型認知症では7.4%、非アルツハイマー型認知症では4.5%にとどまっています。また、「よく思う」「いつも思う」と回答した方を合わせると、全体では27.6%にとどまっていることに対し、アルツハイマー型認知症では49.5%、非アルツハイマー型認知症では52.3%となっています(図6)。

<図6>

また、「患者さんのそばにいると、気が休まらないと思いますか」という質問に対し、「思わない」と回答した方は、全体では29.3%と3割程度であったのに対し、アルツハイマー型認知症では18.5%、非アルツハイマー型認知症では23.9%にとどまっています。一方で、「よく思う」「いつも思う」と回答した方を合わせると、全体では22.8%であるのに対し、アルツハイマー型認知症では33.4%、非アルツハイマー型認知症では37.5%に及んでいます(図7)。

<図7>

このように、認知症の方の介護者は、他の疾患の介護に比べて比較的悩みや負担を抱えやすい傾向にあることがうかがえます。

認知症の介護で大変なこと

認知症の介護は、寝たきりなど、他の病気や疾患の場合の介護とは異なる難しさや大変さがあります。主な点をまとめてみました。

コミュニケーションの困難さ

認知症の症状の中で、最も基本的で、すべての方に起こることが、記憶障害です。それにより、新しいことが覚えられない、経験そのものを忘れる、過去の記憶の中で生きる、などの症状が現れます。そのため、介護者の言ったことを理解してくれない、何度も何度も同じことを聞いてくる、食事をしたのにしていないと言い張る、といったことが起こるのです。何度も同じことを聞かれたり、支離滅裂なことを言われたりすることで、困り果ててしまう介護者も多いでしょう。
また、認知症の症状は、「身近な人であればあるほど強く出る」という特徴もみられます。これは“子ども返り”をするためとも言われていますが、介護をしている介護者に対して、感謝をしてくれるどころか、わがままを言って困らせたり、いじわるともとれる行動をしてくることもあります。信頼しているからこそ症状を強く出すのだと考えらますが、介護者にとっては報われない気持ちになり、疲れ果ててしまったり、鬱状態になってしまうこともあるでしょう。
これらはほんの一例ですが、認知症の介護には、このように様々なコミュニケーション上の大変さがあるのです。

徘徊などの異常行動

認知症の方の周辺症状として、徘徊などの問題行動がみられることがあります。たとえば、短期記憶障害により、出かけた理由や目的がわからなくなってしまって徘徊にいたってしまうケースや、記憶の逆行性喪失によって、夕方になるとそわそわして落ち着かなくなり、荷物をまとめて昔住んでいた自分の家に帰ろうとするケース(夕暮れ症候群)など、原因や理由は様々です。
また、記憶が抜け落ちることから、「物盗られ妄想」が起こることもあります。さらに、思うように伝えられないもどかしさ、不安、苛立ちが、暴力や暴言となって現れるケースもあります。
このような人が変わってしまったかのような変化に、介護者はとまどい、大きなストレスを感じてしまいます。

身体のケア

認知症の末期になると、排せつの障害(失禁)が起こるようになります。また、場所の見当識障害により、トイレの場所を間違えてしまうことも。認知症の介護の中でも、排せつの問題は最も苦労することの一つでしょう。おむつ替えのために夜間も起きて24時間体制で介護しなければならないケースもあります。また、着替えや入浴の介助が必要になる場合、ただでさえ入浴の介助は重労働ですが、認知症の方は入浴を嫌がるケースも多く、苦労している介護者も多いようです。

認知症のご家族への接し方のポイント

このように、認知症の介護には様々な困難がつきまといますが、認知症のことを理解し、接し方のポイントを知ることで、負担が軽くなることもあります。ここでは、認知症のご家族への接し方のポイントの一例をご紹介します。

介護全般の負担の軽減法についてはこちらの記事もご覧ください。

見えづらい介護者の負担の実態とは?疲れや負担を軽減する方法も解説

穏やかな態度をとる

認知症の家族の介護をしていると、強いストレスを感じたり、疲れ果ててしまってついイライラしてしまうことも多いでしょう。ただ、だからといって認知症の方に強い態度で接してしまうと、相手からの反応も激しく返ってくるという傾向がみられます。認知症の方は、記憶力が低下し、自分が話したことや聞いたこと、行動したことはすぐに忘れてしまいますが、感情は長期間残ると言われています。理性ではなく、感情が支配する世界に住んでいると考えればわかりやすいのではないでしょうか。そのため、否定をしたり、説得したりしようとするよりも、介護者が、認知症の方のことを理解し、認め、優しく接することで、穏やかな状態になっていくことがあります。ほめる、感謝する言葉をかけるなど、認知症の方によい感情を残すように温かく穏やかに接することがポイントです。

同意と共感

認知症の方が、記憶障害などから事実と違うことを言っていると、ついつい正そうと、訂正や否定をしてしまいがちです。しかし、記憶がないのですから、本人にとっては嘘をついている、間違っているという自覚はありません。先ほど述べたとおり、理性ではなく感情の世界で生きている本人にとっては、「否定された」という嫌な感情だけが残ってしまいます。否定せず、まず相手の気持ちになって、同意し、共感してあげることが大切です。たとえば、認知症の周辺症状に「物盗られ妄想」がありますが、その際に、否定するのではなく、時には演技をしながら「それは大変ですね」といったん受け入れて同情してあげます。このように相手の世界に合わせてあげることで、安心感をおぼえ、症状が落ち着いていくということもみられます。

シンプルな表現を心掛ける

認知症の方は、理解力や判断力が低下しているため、一度にたくさんの情報を処理することができません。そのため、わかりやすい言葉でゆっくり話してあげることが大切です。短い言葉で、シンプルな表現を心掛けましょう。また、「あなたと話している」ことが伝わるように、しっかりと目を見て話すこともポイントです。認知症が進み、「失語」の症状がでると、会話がどんどん不自由になってしまいます。ですが、言葉をうまく使えなくなっても、笑ったり、不安そうにするなど、感じる心は残っています。手をにぎってあげる、寄り添って微笑んであげるなど、非言語コミュニケーションでも、充分心を通わせることができます。

まとめ

超高齢化社会が進む中、認知症の有病者数は年々増加する傾向にあり、2025年には700万人に達すると言われています。介護の中でも、認知症の方の介護は、介護者にとって大きな負担が伴うことが当社のMHPの調査からもわかりました。介護疲れや、介護うつも深刻な問題となっています。在宅で介護をしている介護者は、定期的にショートステイやデイサービス、訪問介護などを積極的に利用して、息抜きや休息をとることが何よりも大切です。その上で、認知症に対する理解を深め、適切な接し方を心掛けることで、負担が軽くなる可能性があります。介護は、いつか必ず終わりがくるものです。決して無理をせず、周囲にうまく頼るようにしてください。

■ Medileed Healthcare Panel(MHP)について

 

MHPは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。

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<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いたコラムによると・・・」

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