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2023.06.07

学びシリーズ

2024年に施行される「医師の働き方改革」とは?その内容と影響について解説

株式会社メディリードは、当社のオンコロジーエキスパートアドバイザーである北郷秀樹氏から日々アドバイスをいただく中で、医療、特にオンコロジー領域における調査において、意識しなければならない課題感を日々アップデートしています。北郷氏のアドバイスから、当社として特に意識していきたいトピックスや学び等をコラムで発信していきます。

改正労働基準法に基づき、2024年4月1日から医師の働き方改革が施行されます。施行が来年に迫る中、医師の働き方改革の概要や問題点などについて、当社にてオンコロジーエキスパートアドバイザーを務める北郷秀樹氏に解説していただきました。

「医師の働き方改革」が施行される背景

一般企業などでは、労働基準法において、時間外労働は原則月45時間未満/年間360時間までと定められています。しかし、医師はこの規制の対象外でした。患者さんが急変したり、要請があったりした場合、その場から離れられないという事情があるためです。

さらに現状として、高齢化などの影響から医療ニーズが非常に高まってきています。これが高まれば高まるほど、医師は、過酷な労働環境に接せざるを得ません。日本には、1人の患者さんを最初から治るまで同じ医師が担当する主治医制度というものがあります。そのため、1人の医師が受け持つ患者さんが増えるほど、医師の負担が大きくなっていきます。

さらに医師不足という現状から、こういった環境になったときに、医師を守らなくてはなりません。以上の背景から、医師にも時間外労働の規制が適用されることになりました。

大学病院や救命救急病院で、年間の時間外労働時間が1,860時間超の病院は、病院全体の半分を占めると言われています。半分は過重労働という現状がある中で、規制を一律に設定すると、医療サービスの維持ができなくなってしまう可能性があります。重症化した方のための救命救急病院や大学病院では、場合によっては時間を気にせず働かなくてはならないからです。

ですので、一般企業のように、一律に共通したガイドをなかなか定められないという現状があります。

「医師の働き方改革」の概要

そこで、医師の働き方改革では、水準をABCの3つに分けています。A水準はすべての医師に適用されるもので、時間外労働は原則年間960時間以下/月100時間未満と定めています。

ただし特例として、救急病院で救急車の受け入れが年間1000台以上ある病院等の地域医療暫定特定水準に適応している病院は、B水準が適用となり、これよりも少し長い、年1,860時間以下/月100時間未満としています。

研修などを行う医療機関等の、集中的技能向上推進に適応する病院はC水準が適用となり、B水準と同じく年1,860時間以下/月100時間未満としています。

医師が患者さんの要望を拒否するわけにはいきませんし、危険な状態のときに、時間外だからという言い訳は当然できません。そういったことを考慮して、このような3つのカテゴリーの水準を定めたという経緯があります。

「医師の働き方改革」の問題点

この医師の働き方改革は2024年に施行される予定ですが、いくつか問題点があると言われています。

・客観的な打刻記録がない
タイムカードがある病院もありますが、病院の敷地内を広範囲に移動する先生が多いかと思います。その場合、その先生がいつ来ていつ帰ったのかを客観的に把握することは非常に難しいという現状があります。そのため、時間をどうやって計算するのかという問題がでてくるのです。

・患者優先の過重労働
また、前述したように、患者優先の過重労働となっており、状況によっては断れないという問題もあります。

・チーム医療が機能していない
今は、主治医制度ではなく、交代制をとりながら複数の医師やスタッフが1人の患者さんを診ていくというチーム医療がどんどん進んできてはいますが、諸事情でやりたくてもできないところもあると言われています。

・労働時間と自己研鑽の区別がつきにくい
医師には診療行為の時間と、自分の技術を高める自己研鑽の時間の両方が必要とされています。ところが、その自己研鑽のカテゴリーが何を示すのかというのは、まだ明確にはなっていないようです。自己研鑽は時間外だと考える先生もいらっしゃれば、自己研鑽も自分の技術を磨き高めるための医療行為の一つに入ると考える先生もいらっしゃいます。

医師の長時間勤務を改善する動き

これらの課題の一つの解決策として、「タスクシフティング」という方法があります。

タスクシフティングとは、一部の業務を医師以外の他職種に分担し、医療安全に留意しつつ、医師の負担を軽減させることを指します。簡単に言うとチーム医療のことで、たとえば、Aという先生がどうしてもだめな場合はBという先生にお願いして、同レベルの医療ができるようなシステムを作っていくことです。

具体例をご紹介します。

熊本大学では、看護師などの医師の代わりに特定行為を行う特定行為研修者(特定行為研修を修了し、適切に役割を遂行できると認められた方)が医師に代わって、同等の医療行為を行っています。このようなチーム医療によって1人の先生の負担が少なくなり、結果的に労働時間の短縮に繋げるという試みをしています。

九州大学では、手術チームと病棟チームを分けた体制を構築しています。外科医は、緊急手術や泊まり込みなどもあり、一番労働時間が長いことに加え、技術の習得のために自己研鑽に費やす時間も長くなります。これが、前述したように時間内労働なのか時間内労働なのかがまだ明確にはなっていないことも一つの原因ではないかと思います。こういった問題も解決していかなくてはなりません。

製薬企業への影響と留意点

この医師の働き方改革が施行された際には、当然、製薬企業は協力をしなければなりません。

訪問できる時間は、たとえば医師が昼食をとっている時間、外来と病棟、手術の合間の時間になるかと思います。場合によっては診療行為が終わった後で、訪問アポイントを取って会うということもありますが、そのような場合、時間外労働にあたってしまうと、なかなか訪問することもできなくなってしまう可能性もあります。

病院によっては、病院訪問規制がさらに厳しくなるかもしれません。たとえば朝9時から12時までなどと時間決められても、先生方は当然外来や病棟にいるわけですから、会えなくなってしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか。まずはアポイントを取るなど、訪問のさらなる工夫をしていくことが必要です。そして、実際に訪問するのではなく、先生方から依頼があった場合に、e-MRやEチャンネルなどを用いて情報提供していくという工夫をしていかなければなりません。

また、認定医の単位を取るための学会の参加が時間外労働として扱われるかということも、まだ不明です。もしこれが時間外労働ということになってしまいますと、先生方も多くの学会で学ぶことがなかなかできなくなってしまうという懸念があります。その代わりにどうするかということは、メーカー側も考えなくてはなりません。

まとめ

このように、医師の働き方改革が施行されるにあたり、様々な変化や課題が生じることが予想されます。たとえば製薬企業は、限られた時間の中でどのようにして効率よく先生方に正しい情報を提供するのかという新たな課題が生まれるでしょう。当社も医療調査会社として、このような変化に対応し、調査においても様々な配慮をしていく必要があります。また、分析、レポーティングの際には、このような医師をとりまく環境や背景を理解し、念頭に置いた上で、調査結果に反映させる必要もでてまいります。より精度の高い分析や確かな情報提供ができるよう、今後も動向を追っていきたいと考えています。

監修:北郷秀樹

北郷 秀樹(Hideki Hongo)  

Medilead Oncology Expert Advisor

外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任
ビジネススクールでマーケティングと経営学を学び、がんの知識を病院研修で習得

得意分野

Oncology launch strategic marketing / Oncology market research planning/application /design solution thinking

Reference

JSCO日本癌治療学会会員、JASCC日本がんサポーティブケア学会会員

語学

英語、スペイン語 (少々)

私生活

犬大好き、趣味はノルディックスキー

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