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2023.10.05

MHPコラム(メンタルシリーズ)

セルフネグレクトとは?特徴や要因、可能性のある人の割合も解説

株式会社メディリードでは、当社が保有している国内最大規模の疾患に関するデータベースであるMedilead Healthcare Panel(以下MHP)のデータを活用し、ニュース等で取り上げられている事象をコラム記事としてお届けいたします。

セルフネグレクトという言葉をご存知でしょうか。「自己放任」「自己放棄」などと訳され、なんらかの理由によって、生きていくために必要な衛生や健康、安全を維持するためのケアを怠り、損なってしまうこと、またはそこに至るまでの行為のことを指します。この記事では、セルフネグレクトの特徴や要因、当社の疾患情報パネルであるMHPをもとに算出した、可能性のある人の割合について解説いたします。

セルフネグレクトとは

セルフネグレクトは、疾患名や症候群ではなく、状態あるいは一部の行為を指します。
現在の日本においては、セルフネグレクトの法的な定義や共通認識された定義はありません。様々な研究者が定義や概念を提唱しており、たとえば、以下のような定義があります。

セルフ・ネグレクトとは、不可欠な食物、衣類、住居や医療を供給すること;身体の健康、精神保健、情緒の健康と一般的な安全性を維持するために必要な品物およびサービスを得ること;財政上の問題を処理することを含む、不可欠なセルフケアの課題を成すことについて、身体と精 神又はそのどちらかの障害、あるいは衰えた能力のための成人の無能力の結果である -NAAPSA(1991)

高齢者自身による、自分の健康や安全を損なう行動. この場合、精神的に健全で正常な判断力を有する者が自由意思にもとづいて、自らの行為の結果を承知のうえで続ける行為は、たとえそれが高齢者自身の健康や安全を脅かすことがあっても、セルフ・ネグレクトとはいわない. -多々良研究班(2004)

高齢者が通常一人の人として、生活において当然行うべき行為を行わない、あるいは行う能力がないことから、自己の心身の安全や健康が脅かされる状態に陥ること.-津村ら(2006)

セルフ・ネグレクトとは、健康、生命および社会生活の維持に必要な、 個人衛生、住環境の衛生もしくは整備又は健康行動を放任・放棄していること。 -野村・岸ら(2014)

多々良研究班(2004)のように、意図的な放棄はセルフネグレクトに含まないとする定義もありますが、野村・岸ら(2014)などでは、意図的なセルフネグレクトも含まれるとしており、研究者によって見解が分かれるところです。また、高齢者と定義しているものもあれば、特に定義していないものもあります。近年では、年齢に関係なくセルフネグレクトに陥る例があるとされています。この記事では、野村・岸ら(2014)の定義を前提に、解説していきます。

セルフネグレクトの特徴

セルフネグレクトに陥った場合、あらわれる特徴は個々によって異なりますが、たとえば以下のような特徴があります。

・身体的なケアの怠り

たとえば、入浴や洗顔を長期間していない、爪を切っていない、髪やひげが伸び放題など、通常の人が行う身だしなみを整えていない状態がみられます。悪臭がすることも少なくありません。また、セルフネグレクト状態の方は、疾患をもっていながら治療を中断する、服薬をしないなど、必要な行為をしないということもあります。そもそも受診をしなかったり、福祉や介護保険などの必要なサービスを拒否したり、申請しない状態も含まれるとされています。

・住環境の悪化

部屋を片付けない、掃除をしない、ゴミを捨てないことで、いわゆるゴミ屋敷状態になり、住環境が極端に不衛生になるということがみられます。また、家の修理などもせずに放っておくことで、生命の危険が伴う場合もあります。害虫が発生したり、小動物が住み着くなどし、個人の家にとどまらず、周囲の家に影響を及ぼしている場合もあります。

セルフネグレクトの要因

セルフネグレクトの要因は、現段階でも明確になっていない部分が多いと言われています。きっかけが明確な場合もあれば、もともとの性格や、身体を動かしづらいなどの些細なきっかけなどが絡み合っている場合もあります。
平成22年に内閣府が行った調査によると、きっかけや理由として最も多かったのは、「認知症・物忘れ・精神疾患等の問題」でした。そして「親しい人との死別の経験」「家族・親族・地域・近隣等からの孤立、関係悪化など」と続きます。

出典:平成 22 年度内閣府経済社会総合研究所委託事業 セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査―幸福度の視点から 報告書

これらの一般的な要因について一つひとつ見ていきましょう。

認知症・物忘れ・精神疾患等の問題

調査結果からも推測できるように、認知症、統合失調症や妄想性障害、依存症、うつ病、不安症や恐怖症、強迫性障害、PTSDなど、何らかの精神、心理的な疾患や障害がある場合に、セルフネグレクトに陥ることがあると言われています。疾患そのものが要因というわけではなく、たとえばうつ病による気力低下から自己ケアができなくなったり、不安や恐怖から物を溜め込んだり、周囲との関わりを断ってしまうことで起こると考えられます。

親しい人との死別の経験

配偶者や親しい家族の死など、ショックな出来事により、生きる意欲が低下し、セルフネグレクトに陥る例も少なくありません。これまでの研究からも、「配偶者の死」が最もストレス度が高いと報告されており、特に男性は妻を亡くすことで寿命が短くなることも指摘されています。また、特に男性の場合は、生活を維持するために必要な家事能力の不足も影響していると考えられます。

家族・親族・地域・近隣等からの孤立、関係悪化

孤立や人間関係のトラブル、悪化も、セルフネグレクトに陥る原因になりえます。たとえば、若者の引きこもりやSNEP(20 ~ 59 歳の無業で、知人や友人との交流がなく、未婚の人を指す)も近年問題になっています。このような人々は仕事がなく、両親の存在により生活を維持できているものの、両親亡きあとは、生活能力の乏しさからセルフネグレクトに陥る可能性があるのです。また、周囲との関係が悪化すると、人に頼ったり助けを求めたりすることができず、さらに状況が悪化することもあります。

その他にも、経済的な問題や、プライドが高いなどの性格もセルフネグレクトの要因となりえます。多くの場合、要因は一つだけではなく、複合的に絡み合って起こると考えられます。

セルフネグレクト/セルフネグレクト予備軍の人の割合は?

内閣府の委託調査によると、平成23年3月の段階で、セルフネグレクト状態の高齢者は全国に9,381~12,190人(平均値 10,785人)いることが推計されています。
ただし、これは10年以上前の調査で、高齢者のみの推計になりますので、今現在、実際はこの推計よりも多くの方がセルフネグレクト状態にあると推測できます。

当社が行っているMHPの調査から、セルフネグレクトになる可能性のある方の割合をみてみました。

要因の一つとして、「認知症・もの忘れ・精神疾患等の問題」があります。たとえば、主疾患がうつ病の方で、今日の健康状態について「自分で体を洗ったり着替えをすることができない」と回答した方は、0.8%で、全体と比較すると低い割合になっていますが、「少し問題がある」「中程度の問題がある」状態の方は、全体と比較すると大きく上回る結果になりました<図1>。「自分で体を洗ったり着替えをすることができない」へと状態が変化していくと、セルフネグレクトになる可能性が高まっていくかもしれません。

<図1>

また、その他の主な要因として、「親しい人との死別の経験」「家族・親族・地域・近隣等からの孤立、関係悪化」があります。さらに、高齢者に多い傾向があります。MHPにおいて、60代以上の方のうち、「配偶者と死別し、一人暮らしをしている」の方の割合を見てみたところ、2.7%でした<図2>。
この数字だけみても、かなり多くの方がセルフネグレクト状態になりうる環境にいることがわかります。

<図2>

セルフネグレクトを防ぐために周囲ができること

セルフネグレクトは、自分自身の健康や安全に対する無頓着や無関心が原因で起こるため、本人はその状態に陥っていることになかなか気づくことができません。周囲や身近な人がセルフネグレクト状態になっていたら、早めに対処してあげることが必要です。

もし、周囲の人に異変を感じたら、早めにしかるべき場所に通報、相談するようにしましょう。どこに連絡するかは、異変のレベルによって異なります。
生命にかかわる差し迫った危険がある場合は、消防・警察に通報しますが、健康面に悪影響がでているレベルは、行政の高齢福祉課や地域包括センターに相談するようにしてください。

東京都福祉保健局では、見守りのサインとして以下のことを挙げています。

  • 具合が悪そうに見える、急に痩せてきた気がする。
  • 町内会、サロン、サークルなどの地域の集まりや行事に 来なくなった。
  • 家に閉じこもってほとんど外に出てこない。長い間、顔 を見かけない。
  • 認知症や介護が必要な家族を抱え、介護者が疲れている様子がある。
  • 今まで挨拶していたのにしなくなった。話がかみ合わなくなった。
  • 髪や服装が乱れている、季節に合わない服を着ている。
  • 庭が荒れている。家から異臭がする。
  • 金銭管理がうまくいっていない、滞納がある。

まとめ

セルフネグレクトは、「自己放任」「自己放棄」などと訳され、なんらかの理由によって、生きていくために必要な衛生や健康、安全を維持するためのケアを怠り、損なってしまうことを指します。セルフネグレクトになってしまう要因は様々ですが、主に、認知症・うつ病などの精神疾患、親しい人との死別の経験、孤立などがきっかけとなることが多いようです。平成23年に行われた内閣府の調査によると、セルフネグレクト状態の高齢者の方は約1万人いるとされていますが、当社が所有しているMHPでは、セルフネグレクトになりうる可能性のある方は想定以上に多くいることがわかりました。
セルフネグレクト状態に陥っていることは、本人はなかなか気づけないものです。東京都福祉保健局が提供している見守りのサインなどを参考に、もしも周囲にそのような状態の方がいたら、早めに通報、相談するようにしましょう。

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