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2024.04.09

学びシリーズ

ゲノム医療推進法とは?ゲノム医療についてもわかりやすく解説

株式会社メディリードは、当社のオンコロジーエキスパートアドバイザーである北郷秀樹氏から日々アドバイスをいただく中で、医療、特にオンコロジー領域における調査において、意識しなければならない課題感を日々アップデートしています。北郷氏のアドバイスから、当社として特に意識していきたいトピックスや学び等をコラムで発信していきます。今回のテーマは、「ゲノム医療」および2023年に成立した「ゲノム医療推進法」についてです。

遺伝子情報をもとに、個人に最適な診断や治療を行うことを目指すゲノム医療が国内でも広まりつつあります。今回は、2023年に成立したゲノム医療推進法を中心に、ゲノム医療が私たちにどのような影響をもたらすかを解説します。

ゲノム医療とは

ゲノム医療は、個々のゲノム情報をもとにした医療です。ゲノムとは、生物が持つ遺伝情報の総体で、DNAの配列で構成されています。遺伝子の中には、変化(遺伝子変異)を起こすものがあり、この変異は人によって異なります。遺伝子変異は、遺伝病やがんなどの疾患を引き起こす原因となることもあります。そのためゲノム医療では、個人の遺伝子変異を広範囲に調査し、その情報をもとに、個人に最適な診断や治療を行うことを目指します。

 

具体的なプロセスとしては、特に標準治療が終了した後、または標準治療の選択肢がない患者さんに対して、遺伝子パネル検査を実施します。この検査を通じて、患者さんのゲノム情報を詳細に調べ、専門家で構成されるエキスパートパネルがその情報を分析します。数ヶ月後、患者さん特有の遺伝子の異常や変異を特定し、その結果に基づき、最も適した治療薬を推奨することが可能になります。

 

このプロセスは、患者さんごとに異なる遺伝子の変異に対応できるようにするためのもので、特定の遺伝子変異に基づいた最適な治療法を医師が提案できるシステムです。たとえば「ファンデーション検査」という手法を用いることで、一度の検査でこれらの情報を得られ、エキスパートパネルの専門家たちが患者さんに最適な遺伝子変異に対応する治療薬を選び出します。その結果は患者さんにフィードバックされ、推奨された治療薬を受けることが提案されます。

 

このように、ゲノム医療は患者一人ひとりの遺伝子情報に基づいたパーソナライズド・メディシン(個別化医療)を実現することを目指しており、患者さんにとって最も適した治療選択を提供することができるようになっています。

 

ゲノム医療のもう一つのメリットとしては、リキッドバイオプシーを用いて血液から患者さんの遺伝子情報を分析し、情報基盤を構築することが挙げられます。これにより、細胞診ではなく静脈から採取した血液で、患者さんの遺伝子の特性を事前に把握することができます。得られた遺伝子情報は、研究や新薬開発に貴重なデータとして活用されます。

 

がん領域での期待できる成果


特にゲノム医療における効果が期待される分野は、がん領域です。たとえば、血液腫瘍、脳腫瘍、呼吸器腫瘍、消化器腫瘍など、既存のパネルや全エクソン解析(ゲノム中のタンパク質をコードするエクソン全体を対象とした遺伝子解析技術)では検出が困難な構造変異を多く含むがん種があります。さらに、小児・AYAがん、遺伝性がん、婦人科がん、トリプルネガティブ乳がんなど、ゲノムプロファイリングによる層別化が治療に結びつく可能性のあるがん種にも効果が期待されます。このような分野での個別化医療の応用が推進されることにより、より早期に新しい薬剤を患者さんに届けることが可能になるでしょう。

 

ゲノム医療における課題

このようにゲノム医療は、1人ひとりに最適化された個別化医療を提供できるという大きなメリットがあります。しかし同時に、さまざまな課題も存在しています。

 

健康へのリスクを知ることに抵抗感を示す人も

たとえば、手術前の細胞診や手術時に細胞を採取する方法があります。これらの細胞を用いて異常があるかどうかを判断する試験は、約50万円の費用がかかります。しかし、この検査で陽性反応が出ない場合、病院は高い負担を背負うことになります。そのため、最近ではリキッドバイオプシーが注目されています。これは、血液から遺伝子異常を探る方法で、費用は約20万円です。リキッドバイオプシーでは、生殖系と体細胞系の遺伝子変異の両方を検出できますが、体細胞から直接採取したがん細胞の遺伝子異常と比べると、精度が若干低くなる可能性があります。しかし、血液から遺伝子変異を検出できるため、費用を抑えつつ、早期に特定することが可能です。ただしこの方法では、個人が持つ遺伝子変異の範囲を知ることができ、それが遺伝する可能性があるため、家族にも同じ遺伝の傾向があるかもしれないというリスクが明らかになります。つまり、遺伝子検査によって血縁者に不安をもたらす可能性があるのです。このような場合、医師だけでなく医療機関も、患者さんに対して丁寧な説明やカウンセリングを提供できる体制が必要です。特にゲノム医療を提供する施設では、医師以外のスタッフも、患者さんがゲノム医療に関して理解を深めるための取り組みを検討する必要があります。現在、そのような方向で少しずつ進展しています。

 

遺伝子パネル検査を受けた人のうち、実際に治療を受けられるのは全体の1割ほど

遺伝子パネル検査を受けて特定の遺伝子変異が見つかり、対応する薬剤が存在するとしても、実際にその薬剤を使用できる患者さんは約10%程度です。この状況は大きな課題となっています。
研究開発は進んでいるので、これから使える薬が増えれば、それぞれに適した治療を受けられる患者さんは増えてくると期待しています。そのためには、製薬メーカーによる新薬の開発や既存薬の適用範囲の拡大が望まれます。
この取り組みにより、免疫チェックポイント阻害剤などのゲノムに基づく薬剤の使用の幅が増えていくと予想されます。特に周術期の治療としての術後補助療法や、術前補助療法への適応が期待されます。しかし、がんが再発した場合、2次治療や3次治療で使用する薬剤についてどのような選択が可能になるのか、という疑問は残ります。

ゲノム医療推進法とは

このように国内でゲノム医療が広がりつつあり、多くの課題が存在する中、2023年6月に、「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための 施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(通称:ゲノム医療推進法)が成立しました。制定の趣旨は以下の通りです。

 

 良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするためのゲノム医療施策を総合的かつ計画的に推進するため、ゲノム医療施策に関する基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに基本計画の策定その他、ゲノム医療施策の基本となる事項を定める.


ゲノム医療推進法の基本理念と具体的な取り組み

厚生労働省の資料によると、ゲノム医療推進法の基本理念の一つは、「幅広い医療分野における世界最高水準のゲノム医療を実現し、その恵沢を広く国民が享受できるようにすること」です。さらに、「生命倫理への適切な配慮がなされるようにすること」、「ゲノム情報の保護が十分に図られるようにするとともに、当該ゲノム情報による不当な差別が行われることのないようにすること」も理念に含まれています。誤解や偏見に基づく行為、例えば家族内での差別や雇用・保険への不当な利用を防ぐことも重要です。日本ではまだ具体的な罰則が設けられていませんが、法律で管理することも議論されていくと思います。

 

ゲノム医療推進法の基本理念には、「恵沢を広く国民が享受できるようにする」という考えがありますが、これは具体的に以下のような取り組みを意味しています。


まず、「最先端ゲノム解析の保険導入」が挙げられます。これは、遺伝子パネル検査の早期承認と保険適用を目指すもので、患者さんが治療を受けやすくなることを意図しています。
 
次に、「一人ひとりに最適な個別化医療の推進」です。遺伝子情報を基にした適切な医薬品の提供を可能にし、現在限られた施設でのみ行えるこの処置をより多くの施設で実施できるようにすることが目標です。さらに、開発中の製品の適用拡大や早期承認を進め、患者さんにより適切な治療を速やかに提供することを目指しています。
 
そして三つ目は「超早期診断技術や革新的新薬の開発」の支援です。リキッドバイオプシーを含む新たな診断法や免疫治療の開発に政府が支援を行い、ゲノム医療の進展を促します。
これらの動きにより、製薬メーカーは免疫系やゲノム系の薬剤開発に向けた投資を強化しています。適用拡大や新薬開発の可能性が広がっている現状では、これからの取り組み方が大きな課題となっています。

まとめ

ゲノム医療は、個々の遺伝子情報に基づいた個別化医療の提供を目指し、がん治療をはじめとする多くの医療分野で革新的な変化をもたらしています。リキッドバイオプシーを用いた遺伝子情報の収集や、遺伝子パネル検査を通じて特定される遺伝子変異に基づく治療の選択肢の提供は、患者さんにとって最適な治療法の実現に向けた大きな一歩です。しかし、これらの技術と治療法の普及には、ゲノム情報の保護を含む倫理的、法的課題の克服が必須です。2023年に成立したゲノム医療推進法は、この新しい医療の形を国民が安心して受けられるようにするための基盤を作ることを目指しています。

北郷 秀樹(Hideki Hongo)  

Medilead Oncology Expert Advisor

外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任
ビジネススクールでマーケティングと経営学を学び、がんの知識を病院研修で習得

得意分野

Oncology launch strategic marketing / Oncology market research planning/application /design solution thinking

Reference

JSCO日本癌治療学会会員、JASCC日本がんサポーティブケア学会会員

語学

英語、スペイン語 (少々)

私生活

犬大好き、趣味はノルディックスキー

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