メディリードラボ|株式会社メディリード

【MCI自主調査第1回】 軽度認知障害(MCI)疑いの“本人”はどのように捉え、行動しているのか ― 受診・相談に至る人と至らない人の違い ―

軽度認知障害(MCI)の疑いのある人のなかには、もの忘れの症状があっても医療機関への受診や医師への相談に至る人と、そうでない人がいます。では、その違いはどこにあるのでしょうか。
本調査では、MCI疑いのある人504名を対象に、受診して相談に至る人と受診に至らない人の違いについて、生活環境や社会的つながり、医療との関わり方などの観点から分析しました。
本レポートでは、MCI疑いのある“本人”の視点からその実態を理解するため、複数回にわたって調査結果をご紹介していきます。第1回となる今回は、回答者の属性や生活環境、家族背景などの「患者背景」に焦点を当てます。

レポート販売についてはこちら
目次
お問合せはこちら
お問合せはこちら

背景

高齢化の進展に伴い、軽度認知障害(MCI)と考えられる人の数は増加しています。MCIは、健常と認知症の中間に位置づけられ、将来的に認知症へ進行する可能性を有する重要な段階です。
一方で、MCIに対する一般生活者の認知や理解は十分とは言えない状況にあります。本人がもの忘れを年齢による変化として捉え、医療機関の受診・相談に至らないケースも少なくありません。今後、早期の気づきや適切な対応の重要性を踏まえ、啓発を進めていく必要がある疾患領域と考えられます。
これまでのMCIに関する調査は、介護者や家族など周囲の視点を中心としたものが多く、本人の意向やニーズを直接把握した調査はまだ限られています。MCI疑いのある人が、症状や受診・治療についてどのように認識しているのかを理解した上で、当事者視点に立った情報提供や支援内容を検討することが求められています。

そこで私たちは、MCI疑いのある人を対象に、特徴や症状、治療に対する考え方に加え、受診行動や医師への相談意向を把握するための調査を行いました。

本記事では、そのうち特に興味深いと思われるものをご紹介していきます。

調査概要

調査手法 インターネット調査
調査地域 全国
調査対象 もの忘れで悩まされている人のうちMCI疑いのある人(※)
かつ、下記の条件を満たす人
  • 何らかの疾患で定期的に通院中
  • 50代以上
※「MCI疑いのある人」
スクリーニング設問(国立長寿医療研究センター「認知症チェックリスト」より作成)において呈示したもの忘れ症状を3項目以上選択した人
調査期間 2025年11月5日(水)~2025年11月14日(金)
有効回答数 504

※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります。

調査課題

私たちは今回の調査で以下を明らかにすることを試みました。<図1>

<図1>

「MCI疑いの人のなかで、受診して相談に至る人と、受診に至らない人の違いは何か?」を大きな問いとして設定し、以下の観点から検討しました。

MCI疑いの人は

  • どんな特徴があるか?
  • もの忘れ症状や治療に対してどう考えているか?
  • 医師相談のバリアやドライバー要因は何か?
  • どのような情報が相談・治療意向を喚起するか?

本レポートのテーマ

本レポートでは、上記に掲げた調査課題を明らかにするためのアプローチとして、4回にわたってトピックを取り上げていきます。具体的には4回のテーマを以下のように設定しました。<図2>

<図2>

第1回目の今回は、「患者背景」について取り上げます。

回答者属性

本調査回答者の属性は以下の通りです。

<図3>

第1回レポートサマリーと Key Findings

<図4>

調査結果詳細

患者背景:MCI疑いのある人はどのような人たちか?

MCI疑いのある人が受診や治療をどのように考えるかは、その人の置かれている生活環境や周囲との関係性とも深く関わっています。
ここでは、性別・年齢といった基本的な属性に加え、経済状況や家族構成、日常生活を支える人の有無などから、MCI疑いのある人はどのような人たちなのかを見ていきます。

もの忘れに関しての入通院状況(セグメント定義)

本調査ではMCI疑いの人の中で「受診して相談に至る人」と「受診に至らない人の違い」という観点で分析を行っています。
具体的には、もの忘れに関しての現在の通院/医師への相談状況から、「受診して相談に至る人」を「入通院経験あり者」、「受診に至らない人」を「入通院経験なし者」としました。
セグメントの定義と今回の調査においての出現率は<図5>の通りです。

<図5>

今回の調査の対象者は、MCI疑いのある人のうち、以下の条件を満たす人です。
何らかの疾患で定期的に通院中 / 50代以上

上記の条件内では、現在もの忘れに関して入通院している人、かつてしていた人(1年内、1年以上前)を合わせて「入通院経験あり」の人は28.4%でした。一方で、もの忘れに関しての「入通院経験なし」の人は71.6%で、MCI疑いの症状があっても受診・相談に至らない人が4分の3近くを占めているという結果になりました。

属性・経済的背景

では各セグメント(入通院経験あり者、入通院経験なし者)はどのような人たちなのでしょうか。
まずは性別、年齢別での特徴を見てみます。<図6>

<図6>

入通院経験あり者(以降、本文では「入通院あり者」もしくは「あり者」とします)は入通院経験なし者(以降「入通院なし者」もしくは「なし者」とします)と比べ、男性および50代の割合が高くなっています。

次に、世帯年収・保有資産額を見てみます。<図7>

<図7>

入通院あり者の方が現役世代である50代の割合が高かったにもかかわらず、世帯年収はなし者の方が高い傾向にありました。また、入通院あり者は「ほとんど年金や貯蓄で生活」の割合が高くなっていました(なし者8.3%に対してあり者では14%)。
保有資産額についても入通院なし者の方が高く、「5,000万円以上」の割合があり者と比べて高くなっています。
経済状況については、入通院なし者の方が相対的に余裕のある傾向が見られました。

生活環境・家族背景

<図8>

普段の生活のサポート者は「特にいない」が全体で25%を占めました(セグメント間では差はほとんどありませんでした)。
入通院あり者は「ヘルパー、ケアマネジャーがいる」割合が1割を超えており、なし者(1.1%)と比較して高い傾向がありました。

<図9>

同居者についても見てみると、<図8>の「普段の生活のサポート者」の結果とも関連する傾向が見られます。入通院あり者では配偶者・パートナーと同居している割合がやや低く、実父、実母の割合が高くなっています。

続いて、家族や身近な人の認知症者の有無について見ていきます。<図10>

<図10>

全体では半数近くの47.2%が家族や身近な人に認知症の人がいる(いた)と回答しています。
入通院あり者ではなし者に比べて「いる/いた」と回答した割合が高く、認知症の状態を見聞きしていることが、早めの受診につながっている可能性があります。

社会的つながり

MCI疑いの人において、受診・非受診を分ける要因として、家族以外の人との活動や交流はどの程度影響があるのでしょうか。

<図11>は、「あなたが参加されている、家族以外の人との活動や交流について、あてはまるものをお選びください。」と尋ねたものです(複数回答)。

<図11>

「特に家族以外との活動や交流はしていない」が全体で半数を超えており、特に入通院なし者でその割合が高くなっています。

一方で入通院あり者の方が「交流はしていない」の割合が低く、なし者と比べて何らかの形で家族以外の人との活動や交流の機会を持っている場合が多いことがわかります。特に「介護サービスの利用によるお出かけをしている」の割合が高く、入通院経験なし者と比較して約14ポイントの差がありました。

既存の通院・受診行動

次に、MCI疑いの人のもの忘れ以外の通院・受診行動について見てみます。

定期的に通院している病気(もの忘れ以外)について尋ねた結果が<図12>、定期的に通院している診療科(もの忘れ以外)について尋ねた結果が<図13>です。

<図12>

入通院経験あり者は「うつ病・不安障害」の割合が高くなっています。

<図13>

医師とのコミュニケーション状況

入通院あり者、なし者では医師とのコミュニケーションの仕方に違いはあるのでしょうか。

<図14>は「あなたが定期的に通院している医療機関の先生はどのような方ですか?複数の先生にかかられている場合は、もっともよくかかる先生についてお考えください。」と尋ねた結果です(複数回答)。
(本調査では、対象者を「もの忘れ以外で定期的に通院している人」としているので、「定期的に通院している医療機関の先生」とはもの忘れ以外の定期通院で受診している医師を指します。)

<図14>

入通院あり者は、医師とのコミュニケーションにおいて、なし者と比べ、「気兼ねなく相談できる」「気持ちに寄り添ってくれる」「困りごとも話を聞いてくれる」など、ポジティブな印象が高めで、医師に対してポジティブな印象を抱き、よいコミュニケーションが取れている傾向があることがわかります。
一方で、あり者は「話をしても聞いてもらえないと感じる」「あまり関心がないように感じる」も入通院なし者より高くなっていますが、医師とのコミュニケーションに関心が高い人が多いことの裏返しであるかもしれません。

まとめ(示唆)

今回は「MCI疑いのある人はどんな人たちか?」について、MCI疑いの人の背景にある属性や生活環境、家族背景、社会的つながりなどを概観しました。同時に、医師とのコミュニケーションを含めた、医療との関わり方についても見てきました。

今回の調査から、MCI疑いの当事者は一様ではなく、入通院に至っている人と至っていない人とで、生活環境や医療との関わり方に明確な違いがあることがわかりました。

入通院経験ありの人は、日常生活において家族以外の支援や外部サービスを活用し、医師とも「気兼ねなく相談できる」関係を築いている一方、入通院経験なしの人は、サポートや相談の範囲が家族(特に配偶者)に限られがちで、医療との距離がある状況がうかがえます。
MCI疑いの段階での受診の有無は、症状の重さだけでなく、普段の支援環境や医療との接点の持ち方にも左右されていると考えられます。

MCI疑いの症状がありながら入通院に至っていない人の背景には、必ずしも「支援がない」「困っていない」という状況だけでなく、困りごとがあっても相談先が限られている、あるいは医師に相談する発想に至りにくい構造がある可能性が示されました。
特に、生活上のサポートを主に家族に頼っている人や、医師とのコミュニケーションに心理的な距離を感じている人ほど、受診のきっかけをつかみにくい状況にあると考えられます。

今後は、「もの忘れの症状があったら受診・相談する」というメッセージだけでなく、日常生活の中での困りごとや不安を気軽に相談できる接点を増やすこと、そして医療機関側も「相談しやすさ」を意識した関わりを示していくことが、MCI疑いの段階での早期受診につながる重要なポイントになると考えられます。

次回は、患者さん自身がもの忘れ症状や受診、家族への相談に関してどのように考えているのかについて見ていきます。

関連コンテンツ