【乾癬患者さん調査 第2回】 乾癬患者さんから見た、医師とのコミュニケーションにおける「期待」と「実施」のギャップ‐ NPO法人 東京乾癬の会(P-PAT)との共同調査

2025/12/04
メディリード株式会社 / マーケティング&コミュニケーション部

乾癬は、皮膚に赤い発疹や白いフケ状の剥がれが見られる慢性皮膚疾患です。私たちは NPO法人 東京乾癬の会(P-PAT)のご協力のもと、医師と患者さんのコミュニケーションに生じる“認識のずれ”を明らかにすることを目的に、患者さん198名を対象とした自主調査を実施しました。

本シリーズでは、調査結果をもとに、患者さんの治療評価の背景にある要因や、医療者とのコミュニケーションに対する期待・実態を全3回で読み解いていきます。第2回の今回は、乾癬治療における患者さんのコミュニケーション上の「期待」と、医師(および看護師・薬剤師)がどの程度「実施されている」と患者さんに認識されているかを比較し、両者のギャップを可視化します。さらに、どのようなコミュニケーションが患者さんの「積極的評価」につながるのかについても考察します。

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調査概要

調査手法: インターネット調査
調査地域: 全国
調査対象:
  • 乾癬と診断されており、1年以内に通院している人
  • 現在処方薬服用・投薬あり、もしくは光線療法、アダカラムを受けている人
調査期間: 2025年1月7日(火)~2025年2月7日(金)
有効回答数: 198

※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります

回答者属性

本調査回答者の属性は以下の通りです。


図1 回答者属性

<図1>

 


図2 対象者属性

<図2>

 

第2回レポートサマリー


図3 第2回サマリー

<図3>

 

調査結果詳細

第1回では、乾癬患者さんの罹患や受診状況を概観しました。また、患者さんの乾癬治療への「満足度」に加えて、より直感的な「治療の評価」という観点からも分析を行いました。
第2回の今回は、「乾癬治療における患者さんの期待と実際の医師の実施状況」および両者の間に見られるギャップについて取り上げます。

今回の調査の切り口と「コミュニケーション」のスコープ

第1回でもご紹介したとおり、今回の調査の問いと分析の切り口は以下のようになっています。<図4>


図4 問いと分析の切り口

<図4>

 

加えて、今回の調査の「コミュニケーション」のスコープ(対象範囲)についてご説明します。

今回の調査での「コミュニケーション」の切り口は、「薬剤処方時の薬剤に関する基本的な説明(薬剤の機能や服用方法など)を超えたもの」と定義しました。
大きなくくりは<図5>に示した6つです。


図5 分析の切り口

<図5>

 

また、今回の調査では、「コミュニケーション内容」をなるべく具体的に表現した選択肢を用意しました。
「この悩み解決のために医師にはこう動いてほしい」という患者さんの気持ちをすくいあげ、直感的に回答しやすくするための工夫です。
たとえば、<図6>のようにより解像度を上げた選択肢にしています。


図6 本調査におけるコミュニケーションの選択肢

<図6>

 

このようにかみ砕いてより具体的に聞くことにより、より深いインサイト探索が可能になっています。

ではこれを踏まえて、調査結果をより詳細に見ていきましょう。

医師・看護師/薬剤師に対するコミュニケーション上の期待と充足ギャップ

まずは、患者さんがコミュニケーション上で医師(および看護師・薬剤師)に期待することと、実際に行っていると思うことについて見てみます。

患者さん全体ベースでの結果

<図7>は患者さん全体ベースでの結果を示したものです。
質問文は以下の通りです。

【期待】「あなたは現在受けている乾癬治療における主治医とのコミュニケーションに関して、どうあってほしいと思っていますか。「こうであったらよいのに」ということも含めて教えてください。」

【実施】「あなたが現在受けている乾癬治療における主治医とのコミュニケーションに関して、下記の事柄はどのくらいあてはまりますか。あなたのお気持ちに近いものをお選びください。」

いずれも、「非常に当てはまる」~「全く当てはまらない」の6段階で尋ねました。 図表で示している結果は「非常に当てはまる」の選択率です。


図7 医師・看護師/薬剤師に対する期待と実施のギャップ(全体ベース)

<図7>

 

ピンクの折れ線が「患者さんが期待している」こと、青の折れ線が「医師(および看護師・薬剤師)が実施している(と患者さんが捉えている)」ことについて、いずれも「非常に当てはまる」と回答した割合(%)を示しています。

各カテゴリー内では、「期待している」割合が高い順に項目を並べています。
さらに、カテゴリー自体も、「期待している」割合が最も高い項目(=そのカテゴリーのトップ項目)の値が大きい順に配置しています。

「非常に当てはまる」が選択されているということは、患者さんが比較的強く認識していることと考えられ、患者さんのインサイトをより明確に捉えるのに適しています。

この図からわかるのは、全体的にピンクの折れ線(=期待)の方が青の折れ線(=実施)より高い数値を示している点です。つまり、医師はコミュニケーションにおいて、患者さんの期待に十分には応えられていないことが示唆されています。

<図8>は同じ内容ですが、縦軸に「実施」度合い、横軸に「期待」度合いを置き、各項目を点で示した(プロットした)図です。


図8 医師・看護師/薬剤師に対する期待と実施のギャップ(全体ベース)

<図8>

 

チャート上の斜め線「期待度と実施度一致ライン」が、ちょうど患者さんの「期待度」と「実施度」が同一値となるラインです。このラインを下回る(図のグレーの部分に位置する)項目は「期待ほど実施されていない」ことを意味します。したがって、このラインからの距離が大きいほど「期待』と「実施』のギャップが大きいことになります。
また、右側に位置するほどに期待が高く、左側に位置するほど比較的期待が低いことを示しています。

そのうえで見てみると、「期待」が比較的高いが「実施」は低く、ギャップが大きい項目は、以下が挙げられます。

  • 19「新しい薬や治療法などの、新しい情報を紹介してくれる」
  • 12「起きていることに対しての対処(薬の処方)だけではなく、なぜ今の状態が起きているのか、の説明をしてくれる」
  • 15「薬の副作用について説明してくれる(どのような副作用が出る可能性があるか、副作用が出たらどう対処するかなど)」
  • 20「費用負担が軽減できる医療制度などをいろいろ紹介してくれる」
  • 11「薬に関して、こちらの要望を聞くだけではなく、もっと良い薬があるなどの、別の薬の選択肢を提示してくれる」

「期待が高い」ということは、患者さんがすでにその点を自己認識できている部分であるということでもあります。患者さんが自己認識していて、かつ医師に実施してほしいと思っていることは、専門家ならではの情報を積極的に提供してくれること、そして起きていることに対処するだけではなく、納得感ある説明をしてくれることであることだとうかがえます。

一方で、赤の凡例で示した項目、すなわち看護師、薬剤師とのコミュニケーションに関する項目は、図では左下の方にまとまって分布しています。「期待」と「実施」のギャップ自体は大きくないものの、そもそも患者さんからの期待が相対的に低いことがわかります。

積極的評価者ベースでの結果

続いて同じ内容を、積極的評価者の回答に絞って見てみます。<図9>
ここでいう「積極的評価者」とは、第1回で示したように、感染の治療について「とても良いと積極的に評価している」と回答した患者層を指します。


図9 医師・看護師/薬剤師に対する期待と実施のギャップ(積極的評価者ベース)

<図9>

 

(項目の並び順は先ほどの全体ベースと同じ基準で配置されています。)
ほぼすべての項目で、青の折れ線(=実施)がピンクの折れ線(=期待)を上回っています。
つまり、積極的評価者においては、医師(および看護師・薬剤師)が、患者の「期待」を大きく上回る形でコミュニケーションを「実施している」と患者さんに認識されていることがわかります。

<図9>と同じ内容を、「期待」「実施」の度合いでプロットしたものが<図10>です。


図10 医師・看護師/薬剤師に対する期待と実施のギャップ(積極的評価者ベース)

<図10>

 

今回は「実施」が「期待」を上回る項目がほとんどであり、グレーの範囲に入っているものはごくわずかです。
「期待度と実施度一致ライン」から特に距離がある(=実施が期待を大きく上回っている)項目を見ると、ピンクの凡例で示されている「基本的姿勢」に関する項目が多い傾向がうかがえます。

積極的評価につながっているもの:医師・看護師/薬剤師のコミュニケーション実施状況

次に、積極的評価者とそうでない人の結果を比較することで、どんな内容のコミュニケーションがより「積極的評価」につながっているのかを推測していきたいと思います。

<図11>は医師(および看護師・薬剤師)の「実施」率を、積極的評価者(青の折れ線)とそれ以外(緑の折れ線)で比較したものです。


図11 医師・看護師/薬剤師が実施していること(積極的評価者とそれ以外比較)

<図11>

 

青の折れ線は、すべての項目で緑の折れ線より上位に位置しており、積極的評価者はそうでない人と比べ、「医師が(コミュニケーションを)実施している」とより強く認識している傾向が見られます。(なんとなくではなく「非常に」当てはまると思っている割合が高い。)

<図12>は積極的評価者とそれ以外の人の「実施」の数値差を算出し、数値の大きい順に並べたものです。「差」が大きい項目、すなわち左側に位置している項目ほど、「積極的評価」に関連が高いと推測できます。


図12 治療にあたり医師が実施していること(積極的評価者とそれ以外の人との「非常にそう思う」選択率の差)

<図12>

 

この結果をみてみると、差の大きい項目の上位には、以下のような「基本的姿勢」に関する項目が目立ちました。

  • 「忙しそうだが、早く診療を終えたほうが良いのではないかとこちらが遠慮しないで済むように計らってくれる」
  • 「こちらの言うことを否定せず受け止めてくれる」
  • 「医師が(患者のことに)興味をもってこちらの話を聞いてくれる」
  • 「こちらが希望を持てるような説明をしてくれる」

まずは話を聞く姿勢や、患者を受け止める基本的な態度があるか、また話しやすい雰囲気があるかどうかといった点が、「積極的評価」につながりやすい要素であることがうかがえます。

まとめ(示唆)

今回は「乾癬治療における患者さんの期待」と「実際の医師の実施状況」とのギャップについて取り上げました。
調査結果から、コミュニケーション面の充実が積極的評価につながっていることが示唆されました。
また、患者さんの「積極的評価」は、「医師が患者さんにとって話しやすい雰囲気を作っている」、「患者さんの話を積極的に聞いてくれる」などの、基本的コミュニケーションの姿勢が上位に挙がっています。これは、現状では患者さんの治療に対する評価が、こういった基本的なコミュニケーション態度に大きく左右されることを示唆しています。

一方で看護師や薬剤師とのコミュニケーションに関しては、現段階では患者さんの期待が比較的低く、「期待」と「実施」のギャップも小さいことが明らかになりました。この結果から、今後は、看護師や薬剤師とのコミュニケーションが治療の満足度向上に寄与できる余地が大きいとも言えそうです。

次回は、今回挙げた項目のうち、中長期の治療目標や薬の納得感に関する項目、およびQOLに関する項目に焦点を当て、考察してきます。

■メディリードの ヘルスケアデータベースについて
 
メディリードのヘルスケアデータベースは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。

 

 

自主調査レポート データサイエンス
この記事の監修者
メディリード株式会社 / マーケティング&コミュニケーション部
メディリードは、「私たちの幸せな生活とヘルスケアの未来のため」という事業理念のもと、医療領域の調査を通じて患者さんのアウトカム改善を目指しています。ヘルスケアの解像度を高めることで、多くの方々の幸せな未来の生活に貢献したいと考えています。革新的な医療ソリューションを提供し、患者さんのQOL(生活の質)向上を実現していくことを目指しています。