炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)を主とする慢性疾患であり、再燃と寛解を繰り返しながら長期にわたる治療が必要となります。しかし実際にIBD患者がどのような生活を送り、どのような症状や課題を抱えているのかについては、十分に知られているとはいえません。
そこで本記事では、426人のIBD患者を対象に実施した調査結果をもとに、患者属性や病状、就労状況、治療継続の実態、医療従事者との関わりなど、IBD患者の実態を多角的に紹介します。
この記事でわかること
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| 調査手法 | インターネット調査 |
|---|---|
| 調査地域 | 全国 |
| 調査対象 | 現在、クローン病、潰瘍性大腸炎いずれかに罹患している人 |
| 調査期間 | 2023年12月7日(木)~2023年12月14日(木) |
| 有効回答数 | 426 |
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります
〈図1〉
本調査では、潰瘍性大腸炎患者が81.5%、クローン病患者が18.5%でした。
国内の大規模疫学調査(※)でも、潰瘍性大腸炎患者数はクローン病患者数の約3倍と報告されており、本調査でも近い傾向がみられました。
〈図2〉
回答者426人のうち、男性は278人(65.3%)、女性は148人(34.7%)でした。
本調査では男性の割合が女性を上回る結果となりました。
国内の大規模疫学調査(※)においても、潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)はともに男性患者が女性患者より多いことが報告されています。特にクローン病では男性患者の割合が高い傾向がみられます。
今回の調査においても男性が約3分の2を占めており、国内で報告されている患者構成と概ね一致する結果となりました。
年齢別にみると、男性では50代(90人)および60代(85人)の回答が多く、女性は30代から50代にかけて比較的幅広く分布していました。全体として、50〜60代を中心とした中高年層の回答が多く集まりました。
〈図3〉
就労状況を見ると、フルタイムで就業している人が46.9%と最も多く、次いで就学・就労していない人が28.2%、パート・アルバイトが16.7%でした。また、自営業は6.8%、その他は1.4%となっています。
フルタイム就業者が全体の約半数を占めており、パート・アルバイトや自営業を含めると、71.8%が何らかの形で就業していました。
本調査では60代以上の回答者が29.8%を占めており、比較的高い年齢層の回答も多く含まれています。そのような構成の中でも就業者が多数を占めており、多くの患者が就労を継続している様子がうかがえます。
IBDは活動期と寛解期を繰り返す病気ですが、現在の病状、症状はどのような人が多いのでしょうか。
〈図4〉
現在の病状について尋ねたところ、「寛解期」が80.5%と最も多く、「急性期/活動期」は11.5%、「わからない」は8.0%でした。
回答者の約8割が寛解期であり、本調査は症状が比較的落ち着いている患者の回答が中心となっています。一方で、約1割は急性期・活動期にあると回答しており、病状によって患者が置かれている状況には違いがあることもうかがえます。
〈図5〉
現在もっとも辛い、または困っている症状について尋ねたところ、「特にない」が32.6%で最も多い結果となりました。
一方で、「排便の切迫感」(20.4%)、「下痢」(13.1%)、「腹痛」(7.5%)など、消化器症状を挙げる回答も多くみられました。
前問では回答者の80.5%が寛解期と回答していましたが、「特にない」と回答した人は32.6%にとどまっています。このことから、病状が落ち着いている患者であっても、何らかの症状や困りごとを抱えている人が少なくないことがうかがえます。
続いて、通院状況を見ていきます。
〈図6〉
通院頻度について尋ねたところ、「2カ月に1回程度」が44.8%と最も多く、次いで「3カ月に1回程度」が30.0%、「3〜4週間に1回程度」が20.9%となりました。
回答者の74.8%が2〜3カ月に1回程度通院しており、定期的に医療機関を受診していることがわかります。一方で、2週間に1回程度の高頻度で通院している人は2.6%にとどまりました。
前問では回答者の80.5%が寛解期と回答しており、症状が比較的落ち着いた状態でも継続的な通院が必要であることがうかがえる結果となりました。
〈図7〉
入院回数について尋ねたところ、「入院したことはない」が49.1%と最も多い結果となりました。一方で、50.9%は何らかの入院経験があると回答しており、平均入院回数は1.73回でした。
入院経験者の内訳を見ると、「1回」が19.2%で最も多く、次いで「2回」が9.9%、「5~9回」が8.0%、「3回」が6.6%となりました。また、「10回以上」と回答した人も4.9%みられました。
約半数が入院を経験している一方で、入院経験のない患者も半数近くを占めており、治療経過や病状によって患者の経験に大きな違いがあることがうかがえる結果となりました。
IBD(炎症性腸疾患)は、再燃と寛解を繰り返す慢性疾患であり、症状が落ち着いている場合でも継続的な治療が重要とされています。
こうした治療の継続状況や患者の治療への取り組みを示す指標が「アドヒアランス」です。では、IBD患者は治療とどのように向き合っているのでしょうか。
〈図8〉
通院頻度のアドヒアランスについては、「守れている」が68.5%、「だいたい守れている」が26.8%で、合わせて95.3%が医師の指示に沿った通院を継続していると回答しました。
また、自己注射や薬の服用については、「守れている」が61.4%、「だいたい守れている」が33.6%で、合わせて95.0%となりました。
いずれの項目においても9割以上が治療を継続できていると回答しており、多くの患者が治療の重要性を理解し、継続的に治療へ取り組んでいることがうかがえます。一方で、「守れている」と回答した割合は通院頻度の方が高く、日常的な服薬や自己注射の継続には一定の負担が伴う可能性も考えられます。
〈図9〉
「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できると思うか」を尋ねたところ、8~10点の高評価層は50.7%でした。一方で、5~7点の中間評価層は39.9%、0~4点の低評価層は9.4%となりました。
前問では、通院頻度および自己注射や薬の服用において、いずれも95%前後の患者が「守れている」「だいたい守れている」と回答していました。しかし、主治医の指示を守ることで長期寛解を達成できると強く考えている患者は約半数にとどまっています。
この結果からは、多くの患者が治療を継続している一方で、その先にある長期寛解の達成については、患者によって認識に幅があることがうかがえます。
IBDでは長期にわたる治療が必要となるため、患者と主治医とのコミュニケーションも重要な要素のひとつです。では、患者は主治医とのコミュニケーションをどのように評価しているのでしょうか。
〈図10〉
主治医とのコミュニケーションが取れているかについて尋ねたところ、8~10点の高評価層は52.3%でした。一方で、5~7点の中間評価層は38.5%、0~4点の低評価層は9.2%となりました。
半数以上の患者が主治医とのコミュニケーションを高く評価している一方で、約4割は中間的な評価にとどまっています。
また、低評価層は1割未満であったことから、多くの患者は主治医とのコミュニケーションに大きな不満を抱いているわけではないものの、その評価には幅があることがうかがえます。
〈図11〉
主治医とのコミュニケーションを項目別に見ると、「病気についての説明」(高評価52.6%)や「治療や薬についての説明」(同51.2%)は、いずれも半数以上が高く評価していました。
一方で、「心配や不安についての相談」の高評価層は40.6%、「仕事・学校・生活についての相談」は39.4%にとどまっています。また、低評価層(0~4点)は病気や治療に関する説明では1割前後だったのに対し、心配や不安についての相談では17.6%、仕事・学校・生活についての相談では18.5%まで上昇しました。
この結果から、病気や治療に関する情報提供については一定の満足度が得られている一方で、患者が抱える不安や日常生活上の課題に関するコミュニケーションには改善の余地があることがうかがえます。
続いて、看護師とのかかわりについて見ていきます。
〈図12〉
看護師から受けたことのあるサポートについて尋ねたところ、「看護師によるサポートは受けていない」と回答した人が60.1%と最も多い結果となりました。
一方で、看護師によるサポートを受けた患者では、「治療や薬についての説明」(23.0%)、「食事や日常生活についての説明」(19.5%)、「病気についての説明」(18.8%)などが挙げられています。
この結果から、回答者の多くは看護師による直接的なサポートを受けていないことがわかりました。
〈図13〉
看護師とのコミュニケーションを項目別に見ると、いずれの項目も高評価(8~10点)は2割前後にとどまりました。一方、低評価(0~4点)はすべての項目で3割前後となっています。
特に、「仕事・学校・生活についての相談」(30.5%)や「心配や不安についての相談」(29.1%)では低評価層の割合が高く、生活面や心理面に関する支援について十分な満足が得られていない患者も少なくないことがうかがえます。
主治医とのコミュニケーションでは、「病気についての説明」や「治療や薬についての説明」で高評価層が5割を超えていたことと比較すると、看護師とのコミュニケーションに対する評価は全体的に低い傾向がみられました。また、前問では看護師によるサポートを受けていない患者が60.1%を占めていました。こうした結果を踏まえると、患者と看護師との関わりやコミュニケーションの機会そのものが主治医ほど多くなく、そのことが評価にも影響している可能性があります。
今回の調査からは、多くのIBD患者が治療を継続しながら就業や日常生活を送っていることがわかりました。一方で、寛解期であっても症状や困りごとを抱えている患者は少なくなく、医療従事者とのコミュニケーションについても患者によって評価に差がみられました。
IBDは再燃と寛解を繰り返す慢性疾患であり、長期にわたる治療が必要です。そのため、患者が治療を継続しやすい環境を整えることは、患者本人だけでなく医療者にとっても重要な課題となっています。
しかし実際には、治療を中断したいと考える患者や、治療から離脱してしまう患者も存在します。では、治療を継続する患者と中断を考える患者では何が異なるのでしょうか。また、患者が前向きに治療を続けていくためには、どのような支援やコミュニケーションが求められるのでしょうか。
私たちは、治療中断意向の有無に着目し、患者属性や病状だけでなく、医師・看護師とのコミュニケーションやShared Decision Making(SDM)との関連についてさらに詳しく分析しました。
詳しくは、以下の記事1.からご覧ください。
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<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いたコラムによると・・・」