本記事では、MCI(軽度認知障害)疑いの当事者の、もの忘れに関する受診行動や意識に焦点を当てています。
前回(第1回)では、「MCI疑いのある人たちはどんな人なのか」について取り上げ、もの忘れに関しての入通院経験がある人とない人の属性や背景、受診行動における違いについて見てきました。
第2回の今回は、MCI疑いのある人たちの「もの忘れ症状に関する考え(捉え方)」について取り上げます。
| 調査手法 | インターネット調査 |
|---|---|
| 調査地域 | 全国 |
| 調査対象 | もの忘れで悩まされている人のうちMCI疑いのある人(※) かつ、下記の条件を満たす人
スクリーニング設問(国立長寿医療研究センター「認知症チェックリスト」より作成)において呈示したもの忘れ症状を3項目以上選択した人 |
| 調査期間 | 2025年11月5日(水)~2025年11月14日(金) |
| 有効回答数 | 504 |
※調査結果は、端数処理のため構成比が100%にならない場合があります。
本調査回答者の属性は以下のようになっています。
<図1>
<図2>
第1回では、MCI疑いのある人はどのような人たちなのかを見てきました。結果、入通院に至っている人と至っていない人とでは、生活環境や医療との関わり方に明確な違いがあることがわかりました。
今回は、MCI疑いの当事者が自覚しているもの忘れ症状や、その捉え方や不安の感じ方について、入通院経験の有無による違いを中心に見ていきます。
まずは、MCI疑いの人の、もの忘れの状況について見ていきます。
<図3>は呈示したもの忘れ症状について、「あなたに当てはまる状況もしくは身近な人から指摘されたことはありますか?当てはまるものをすべてお選びください。」(複数回答)と尋ねた結果です。これらの症状について3つ以上選択した人を本調査の対象者としています。
※対象者を選出するためのスクリーニング設問で、選択肢は国立長寿医療研究センター「認知症チェックリスト」より作成しました。
グレーの棒は全体の値を示し、青の凡例は入通院経験がある人(以下、入通院経験あり者)、ピンクの凡例は入通院経験がない人(以下、入通院経験なし者)の回答となっています。全体の数値の高い順に左から並べています。
まず、入通院経験あり者(青)はなし者(ピンク)よりも高い項目が多い傾向が見られます。平均回答個数(選択した症状の数)は入通院経験あり者で5.24個、なし者で4.35個と、入通院経験あり者のほうが自覚しているもの忘れ症状が多いことがわかります。
入通院経験あり者となし者の選択率の差を見てみると、特に差が大きい項目(黄色枠で囲んだ項目)には、単なるもの忘れや意欲の低下にとどまらない、性質の異なる複数の認知機能の変化が含まれているように見えます。
例えば、「以前は実施していた日課などをしなくなった」は、実行機能・遂行機能の低下に関わる行動変化、「時間や場所の感覚が不確かになった」「これまで通った場所で道に迷うことがあった」は、時間・場所・空間に関する見当識の低下に関わる変化と捉えられます。
このように、入通院経験あり者では、入通院経験なし者と比べて、実行機能や見当識といった、認知機能の中でも中核的な領域に関連する変化がより表れている傾向があると言えそうです。
<図4>は、先ほどのもの忘れ症状について、「一番最初に気付いた/気になったのはいつ頃ですか。」と尋ねたものです(単一回答)。
全体で、1年以上前に気付いている人が6割以上を占めています。入通院経験なし者においても、「3年以上前から気づいていた」という人が26%存在しています。もの忘れ症状に気づいても受診に至らず、長期間が経過している人が一定数存在していることがわかります。
<図5>は入通院経験あり者の中でも1年内受診者に対して、もの忘れに関する診断の内容ついて尋ねた結果を示しています。
回答者の約8割はMCIや認知症の診断は受けていないという結果でした。もの忘れに関して受診していても、MCIと診断されている人は少ないことがわかります。
MCI疑いのある人は、どのようなきっかけにより、もの忘れに気づくのでしょうか。入通院に至る人とそうでない人とはどのような差があるのでしょうか。
<図6>は「ご自身で『もの忘れがある』と気づいたのは、どのようなきっかけでしたか。」(複数回答)と尋ねたものです。
平均回答個数(選択した項目の数)は、入通院経験あり者が3.36個、なし者は2.67個で、入通院経験あり者の方がきっかけとなる出来事が多いという結果でした。
入通院経験あり者となし者の値を比較すると、「人や物の名前が思い出せないことが増えた」を除き、入通院経験あり者の方が高めの傾向があります。入通院経験あり者で特に高めの項目(差が大きい項目:黄色枠)を見ると、「財布や鍵・携帯電話など身近なものを置き忘れることが増えた」「以前は実施していた日課などがうまくできなくなった」など、日常生活の中で支障につながりやすい事象が含まれている点が目につきます。
また、「家族や友人からもの忘れが多いと言われた」といった周囲からの指摘に加え、「健診や病院で医師にもの忘れがあると言われた」といった医療者からの指摘も、入通院経験あり者で相対的に高くなっています。
回答者が現在自覚しているもの忘れ症状について、もう少し見ていきます。
<図7>は「現在、ご自身にあてはまる状況について教えてください。」(複数回答)と尋ねた結果です。
こちらはスクリーニング設問とは別で、周辺症状と中核症状にあたるものを含めた選択肢を呈示しました。(中核症状は赤字、周辺症状は青字)(※)
※中核症状/周辺症状とは
中核症状:記憶力の低下など、MCI(軽度認知障害)を特徴づける認知機能そのものの低下を指す症状。
周辺症状:認知機能の低下に伴ってみられる、意欲低下や不安、生活上の困りごとなどの二次的な症状。
こちらも全体の結果での値が高い順に左から並べていますが、青字で示している周辺症状が左側に多く見られます。つまり、現在の症状として自覚されている割合が高いのは周辺症状ということになります。また、一番左の「人の名前がすぐに出てこない」を除いて、入通院経験あり者となし者の差は大きくありません。
逆にグラフの右側は赤字で示している中核症状が多めです。
特に「約束や予定を忘れる」「家事や買い物などで手順を間違える」などの具体的な出来事に関しては、入通院経験あり者での自覚度が高め(なし者との差が大きめ)でした(黄色枠)。
では、これらの症状は、実際の困りごととして認識されているのでしょうか。
<図8>は「もの忘れによって、現在困っていることがあれば教えてください。」(複数回答)と尋ねたものです。
全体的に入通院経験者(青)の方が値が高く、もの忘れが具体的な困りごととして現れている傾向がうかがえます。
ここまで、具体的症状など、もの忘れの状況について見てきました。
次に意識面に焦点を当てて見ていきます。もの忘れの状況について、MCI疑いの人たちはどのように捉え、どのような不安を抱えているのでしょうか。
<図9>は、「ご自身のもの忘れについて、どのように考えていますか。」(複数回答)と尋ねた結果です。青字は「もの忘れを気にしている」内容の選択肢です。
全体で一番高いのは「これ以上悪化してほしくない」で、6割程度です。入通院経験あり者となし者でほとんど差は見られません。
一方で、全体で2番目に高かった「年齢による自然なものだと思う」は、入通院経験あり者は5割を下回る一方、なし者は6割を超えています。
また、入通院経験なし者で「医師への相談が必要」と感じている人は3%にとどまっています。ただし、「まだ大きな問題ではなく気にしていない」人は2割程度にとどまっており、約8割は何らかの形で「気にしている」状態にあると考えられます。
<図10>は「ご自身のもの忘れに関して、将来について気になっていることや不安に感じていることはありますか。」(複数回答)と尋ねた結果です。
「もの忘れが今より進んでしまうことが不安」は入通院経験なし者の方があり者よりも高く、選択率は7割近くにのぼっています。受診には至っていないものの、もの忘れが進行することに対しての不安は強いことがわかります。
また、入通院経験あり者となし者で差がある項目に着目すると、入通院経験あり者では自分で生活や身の回りのことができなくなる、行動の自由が制限されるといった、「自分ができなくなることが増える」ことに関する不安が高い傾向にあります。一方で入通院経験なし者では、「家族や周囲に迷惑や負担をかけること」への不安が相対的に高くなっています。
今回の結果から、MCI疑いのある人たちは、もの忘れの症状をどのように自覚し、それをどのように捉えているかという点でも、入通院経験の有無によって違いが見られることが明らかになりました。
入通院経験あり者では、日常生活の中で起こる具体的な出来事を通じてもの忘れを自覚する傾向が見られます。こうした経験は生活上の困りごととして認識されやすく、そのことが受診行動につながる契機となっている可能性があります。
一方、入通院経験なし者でも、「これ以上悪化してほしくない」と考えている割合は入通院経験あり者と大きな差はなく、多くの人が症状を気にしていることがわかりました。しかし同時に、「年齢による自然なもの」と捉える割合が高く、医師への相談が必要と感じている人はわずかでした。つまり、気にはなっているものの、それを医療に相談すべき問題として捉えていない状況がうかがえます。こうした「年齢によるもの」という認識が、受診のブレーキになっている可能性も考えられます。
また、将来への不安の内容にも違いがみられました。入通院経験あり者では、自分で生活ができなくなるなど生活機能の低下への不安が比較的高いのに対し、入通院経験なし者では、家族や周囲に迷惑をかけることへの不安が高い傾向がみられました。
これらの結果から、MCI疑いの段階では、症状そのものの強さよりも、「それを自分の生活の問題として捉えているか」「医療に相談すべきことだと認識しているか」という認識の違いが、受診行動に影響している可能性が示唆されます。
今後は、もの忘れを単なる加齢の問題として片付けるのではなく、日常生活の中での具体的な困りごとと結び付けて理解できるような情報提供や啓発が、早期相談・受診のきっかけづくりとして重要になると考えられます。
次回は、もの忘れに関しての受診行動と意識、及び家族への相談行動と意識について見ていきます。
メディリードのヘルスケアデータベースは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。