医薬品マーケティング担当者が知っておくべき、定量調査結果の活用法
2025/02/26株式会社メディリードは、当社のオンコロジーエキスパートアドバイザーである北郷秀樹氏から日々アドバイスをいただく中で、医療、特にオンコロジー領域における調査において、意識しなければならない課題感を日々アップデートしています。今回は、定量調査の活用法についてお届けいたします。
医薬品業界は、わずか半年ごとに新薬や臨床研究の成果によって治療法が大きく変わる、まさに変革の最前線です。この急速な変化に対応し、最適な戦略を立てるためには、統計データに基づく分析が欠かせません。市場のニーズを的確に捉え、競争環境を分析し、プロモーション施策の効果を測定する上で、定量調査は信頼できる指標を提供し、意思決定の精度を飛躍的に向上させます。
目次
定量調査は、特に以下のような目的のために活用されます。
・市場ニーズの把握:ターゲット医師や患者の需要を数値化し、新薬の市場導入やポジショニングを最適化
・競争環境の分析:競合製品のシェア推移や処方傾向を定量的に評価し、マーケット内での自社製品の立ち位置を明確化
・プロモーション施策の評価:マーケティング活動の効果を測定し、ROI(投資対効果)を高めるための改善策を導出
これらの活用により、医薬品マーケティングにおける戦略の精度を向上させ、より効果的な市場アプローチが可能になります。
①コアメッセージの策定
製品のプロファイルを分析し、医師が処方を検討する際の最も重要な要因を特定します。たとえば、「この薬を処方しよう」と思わせるデータが何かを統計的に分析し、予算の範囲内で優先的に訴求すべきポイント(トップ2・トップ3)を決定します。
②市場性の評価と開発継続の判断
フェーズ2終了時点や、それ以前の段階で、対象市場に十分なニーズがあるかを把握するために、定量調査の結果が重要な判断材料となります。
市場の受容性を数値化することで、医師の処方意向や競合製品との比較が明確になり、より客観的な判断が可能になります。このデータをもとに、日本市場への製品投入の可否を検討し、十分なニーズが確認できなければ、開発中止を視野に入れることもあります。
また、各マイルストーンでマーケティング戦略の最適化に役立つ指標を提供し、意思決定の精度を高める重要な役割を果たします。
医薬品マーケティングにおいて、市場シェアの変動を把握し、適切な成長戦略を策定することは不可欠です。定量調査を活用することで、「転換期」「引き際」「成長加速」の3つの重要な局面を見極め、戦略の方向性を決定できます。
① 転換期を見極める
市場環境の変化により、製品の処方シェアが下降傾向にある場合、適切なタイミングでのテコ入れが必要です。例えば、競合製品の新発売や学会発表などの影響で、処方シェアが3ヶ月後に5%減少し、6ヶ月後には10%減少するケースがあります。こうしたシェア低下が続くと、市場の回復が難しくなるため、定量調査によって変化を早期に検知し、適切な対策を講じることが重要です。
② 引き際を判断する
製品のライフサイクルを考慮し、市場での成長が限界に達しているかどうかを判断することも必要です。たとえば、医師に対して「今後6ヶ月間の処方割合は増加するか?」という質問を行い、50%以上が「増える」と回答した場合は成長の余地があると判断できます。一方で、50%以下であれば、今後の処方増加が見込めず、リソースの再配分や撤退の検討が必要になります。こうしたデータをもとに、新たな市場開拓やプロモーション戦略の見直しを行うことが求められます。
③ 成長加速のタイミングを見極める
一方で、想定よりも市場の反応が良く、製品の成長が加速しているケースでは、さらなる投資の判断が必要です。たとえば、発売3ヶ月後に目標シェア20%を想定していたが、実際には30%を超えた場合、競合製品と比較して処方件数が高く、さらなるシェア拡大の可能性があると考えられます。こうした場合、追加のマーケティング施策や営業リソースの投入を検討し、成長の勢いを最大限活かすことが重要です。
医薬品マーケティングでは、医師の治療選択に影響を与える考え方や姿勢を把握することが、市場戦略の精度を高める鍵となります。
① 医師の治療選択基準を統計的に分析
医師が一次治療を選択する際に、QOLを優先するのか、長期的な効果を優先するのかをデータに基づいて分類します。この分類をもとに、各セグメントに対して最適な情報提供やマーケティングアプローチを設計します。
② 市場拡大の可能性を測定し、ターゲティングの精度を向上
定量調査により、各医師の治療選択の傾向が明らかになった後、それぞれのセグメントに適したマーケティング戦略を立案します。
•すでに適合している医師には、追加の情報提供は最小限に
たとえば、すでに長期継続可能な薬剤を一次治療で選択している医師には、しつこい情報提供は不要であり、リソースを他に回すべきです。
•市場拡大が見込める医師には、エビデンスに基づくアプローチを強化
QOLを重視する医師に対しては、長期的な効果が期待できる薬剤であることを示すエビデンスを提供し、市場拡大を図ることが可能です。
③ 市場ポテンシャルの評価とターゲット医師の明確化
「どこまで考えを変えることができるのか」「市場拡大のためにどれだけのターゲットドクターや患者を確保すべきか」といった意思決定のための判断材料を得ることができます。また、処方の伸び悩むセグメントを特定し、適切なマーケティング施策を講じることで、市場シェアの確保や拡大につなげることが可能になります。
新しいプロモーション施策やツールを導入する際、その効果を定量的に評価し、次の戦略に活かすことが重要です。
しかし、メーカーは年間を通じて複数の施策を展開しており、どの施策が最も処方の増加に貢献したのかを特定するのは容易ではありません。
そのため、定量調査を活用し、定めた指標を数値で測定することが重要になります。
① KPI(目標指標)の設定
ROI評価の第一歩として、「発売後6か月でシェア20%獲得」などの明確なKPIを設定します。これにより、施策の効果を客観的に測定しやすくなります。
② 施策の影響度を測定
•ターゲット医師の処方割合:施策を実施した医師群とそうでない医師群の処方割合を比較し、影響度を測定
•ターゲット患者数の変化:施策前後での処方対象患者数の増減を分析
•講演会・プロモーション活動の影響度:セミナーや講演会参加者の処方行動に変化があったかを検証
③ 改善プランの策定
分析結果をもとに、次のプロモーション施策をより効果的にするための改善プランを立案します。特に、市場の小さいニッチな領域や希少疾患領域では、定性調査と組み合わせたアプローチが効果的です。
定量調査は、医薬品マーケティングにおける意思決定を支え、市場シェアの拡大やプロモーション施策の最適化に不可欠なツールです。本記事で紹介したように、製品戦略の意思決定、成長戦略の策定、ターゲット医師のセグメント分析、プロモーション施策のROI評価といった多くの場面で活用されています。
しかし、調査データを得ることがゴールではありません。重要なのは、得られたデータをもとに次の戦略をどう設計し、実行に移すかです。調査結果を正しく解釈し、戦略に落とし込むことで、より精度の高いマーケティングが可能になります。
また、社内外の関係者とデータを共有し、営業、メディカルアフェアーズ、開発部門と連携することで、全社的な視点からマーケティング施策を強化できます。定量調査を単なる数値の羅列として終わらせるのではなく、次の施策につなげるための「戦略の起点」として活用することが、競争の激しい市場で成功するための鍵となるでしょう。
Medilead Oncology Expert Advisor 外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任
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