医療領域の定量調査における設問文・選択肢作成のコツと注意点
2024/12/25株式会社メディリードは、当社のオンコロジーエキスパートアドバイザーである北郷秀樹氏から日々アドバイスをいただく中で、医療、特にオンコロジー領域における調査において、意識しなければならない課題感を日々アップデートしています。今回は、マーケティングリサーチの定量調査についてお届けいたします。
定量調査において、設問文や選択肢の設計は、調査結果の信頼性と有用性を左右する重要な要素です。適切に設計された設問文は、回答者が正確かつ負担なく答えやすいだけでなく、調査の目的に即した質の高いデータを得ることにつながります。一方で、曖昧な表現や不適切な選択肢が含まれると、回答が偏るなどのリスクがあります。本記事では、医療用域の定量調査における設問文作成の基本的なポイントから、選択肢の設定方法、さらには調査精度を高めるための実践的なコツまでを、具体例を交えてわかりやすく解説していきます。
目次
まず、設問文を作成する際のポイントは、以下の通りです。
回答しやすい設問を作成するためには、明解かつ簡潔にすることが重要です。以下の3つのポイントに注意しましょう。
1.専門用語を具体化かつ明確に指定する
回答者にとって設問が曖昧ではなく、一貫して解釈できる内容であることが重要です。具体的な条件を示すことで誤解を防ぎ、正確なデータ収集につなげます。
- ×悪い例:「EGFR阻害剤を全てお知らせください」
→ どの段階の治療か明確でなく、解釈が分かれる可能性があります。
- 〇良い例:「一次治療で使用中のEGFR阻害薬を全てお知らせください」
→ 対象範囲を限定し、明確な回答を得られる設問に改善されています。
2.設問の結びを統一し、適切な表現を選ぶ
設問の結びの言葉を統一することで、回答者の負担を軽減し、回答の一貫性を保つことができます。また、設問の内容に応じた適切な表現を選択することも重要です。
- 数値データを尋ねる場合:「お知らせください」
- 意見や考えを尋ねる場合:「お答えください」「教えてください」
例)
数値データ:「現在の外来患者の平均待ち時間をお知らせください。」
意見:「現在の治療方針についてのご意見をお答えください。」
3.簡潔な文章で直感的に理解できる設問を作る
設問を短く分かりやすくすることで、回答者の負担を軽減し、スムーズな回答を促します。冗長な表現は避け、必要な情報のみを伝えましょう。
- ×悪い例:「先生は日常の診療において外来患者をどれくらいの頻度で診ていますか。もっとも近いものを選んでください。」
→ 無駄に長い表現が回答者にストレスを与える可能性があります。
- 〇良い例:「先生の外来診療の頻度を教えてください」
→ 簡潔にすることで、スムーズに回答が得られる設問になっています。
以上を心掛けることで、スムーズに回答できる設問を作成できます。
設問は中立的かつ答えやすい内容であることが重要です。誘導的な質問や感情に触れる表現を避けることで、回答の偏りを防ぎ、信頼性の高いデータを収集できます。
•誘導的な質問の例
– ×悪い例:「副作用の少ない製品Xを処方してみたいと思いますか」
→ 特定の価値判断を示唆しており、回答者が自由に意見を述べにくくなります。
– 〇良い例:「先生は製品Xを処方してみたいと思いますか」
→ 不要な修飾語を排除し、中立的な表現にしています。
•感情に触れる表現の例
– ×悪い例:「先生は臨床経験の少ない中、患者さんの悩みにどのように対応されますか」
→ 感情的なニュアンスが含まれ、回答者に不快感を与える可能性があります。
– 〇良い例:「先生は患者さんの悩みにどのように対応されますか」
→ 感情的な言葉を避け、回答者が不快に感じない客観的な表現にしています。
一つの設問に複数の論点が含まれる「ダブルバーレル質問」は、回答が曖昧になる原因となるため、設問は論点を一つに絞り、分けることが推奨されます。
•ダブルバーレル質問の例
– ×悪い例:「今までにない新しい作用機序で有意な生存期間の延長効果をどの程度重視されますか」
→ 二つの異なる論点(新しい作用機序、生存期間の延長効果)が含まれており、どちらを重視しているのかが曖昧です。
– 〇良い例:「先生は新しい作用機序についてどの程度重視されますか」
「先生は生存期間の延長効果をどの程度重視されますか」
→ 論点を分けることで、回答者が回答しやすくなります。
質問を設計する際は、大きな質問から具体的で細かい質問へと順序立てて展開することが重要です。段階的に論理フローを構築することで、回答者が答えやすくなり、調査データの一貫性を高めることができます。
•処方に関する質問の展開例
1. 大枠の質問:「現在、製品Xを処方していますか?」(処方している/していない)
2. 中間の質問(処方している場合):「一次治療でどのような薬剤を処方していますか?」
3. 具体的な質問:「一次治療における年齢別またはリスク分類ごとの使用割合を教えてください。」
このように、論理フローを意識して設計することで、スムーズかつ効果的な調査が可能になります。
質問数や回答時間の適切さには明確な基準はありませんが、回答者の集中力を考慮して設計することが重要です。ポイントは以下の通りです。
1.回答者の集中力を考慮する
集中力は回答開始から数分後に高まり、最も集中できるのは10~20分程度とされています。これを超えると集中力が低下し、難しい質問への回答が難しくなる可能性があります。
2.質問のバランスを工夫する
難しい質問は回答者の集中力が高い前半に配置します。集中力が下がりやすい中盤にはリフレッシュを促すような質問を設けると良いでしょう。たとえば、フリーアンサー形式や簡単な質問を配置することで集中力を回復させる効果があります。
3.クローズドクエスチョンとフリーアンサーの使い分け
・クローズドクエスチョン(選択肢形式の質問)を中心にすることで、回答負担を軽減しつつ集計を効率化します。
・フリーアンサー(自由回答形式)を適宜取り入れ、回答の多様性や詳細な意見を収集します。適度に交えることで、回答者に負担をかけずに有益な情報を得られます。
回答者の集中力や心理的負担を意識することで、無理なく質問に答えやすくなり、質の高いデータ収集が期待できます。設問設計時には対象者の視点に立ち、全体のフローや質問の配置を慎重に考えることが求められます。
定量調査では、選択形式の質問が基本です。適切な回答形式を選ぶことで、効率的かつ正確にデータを収集できます。主に以下の4種類があり、それぞれの特性を理解して使い分けることが重要です。
•シングルアンサー(SA)
単一の選択肢を選ぶ形式です。回答が明確で、集計が簡単です。Yes/Noで答えられる質問や、多数の選択肢から最優先事項を尋ねる場合に適しています。
例:「最も重要だと思うものを一つだけ選んでください」
•マルチアンサー(MA)
複数の選択肢を選べる形式です。全体の傾向や意外な発見が得られる点が魅力ですが、選択肢が多すぎると回答者の負担が増すため、適切な数に絞ることが重要です。
例:「重要だと思うものをすべて選んでください」
•マトリクス(MT)
複数の関連する質問を一度に整理し、効率的に回答できる形式の一つです。回答者はそれぞれの質問に対して適切な評価を選択することが求められます。通常、評価軸にはリッカート尺度や数値評価などが使用されます。
注意点としては、選択肢の数が多すぎると回答者が迷うことがあり、また質問項目があまりにも異なる内容を含んでいると混乱を招く可能性があります。また、マトリクス形式を多用しすぎると、回答者が疲れてしまうことがあります。適切な数の質問項目に留めるように注意しましょう。
選択肢の作成の際のコツと注意点は、以下の通りです。
•選択肢の数を適切に絞る
選択肢が多すぎると回答者が迷いやすくなり、回答を放棄するリスクが高まります。一般的には5~7個程度が適切です。また、「どちらともいえない」や「該当なし」などの中立的な選択肢を加えることで、回答者が無理に選択をしなくても済むよう配慮します。
•一貫性のある表現を使う
選択肢内の文体や表現が統一されていることが重要です。「効果がとても高い」「普通」「効果なし」のような選択肢では表現のバランスが不統一です。「非常に高い」「やや高い」「効果がない」のように一貫性があり比較しやすい表現を使用します。
•漏れなくダブりなく(MECE)
回答者がすべての可能性に対応できるよう、重複がなく明確に分類できるように設計する必要があります。MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:漏れなくダブりなく)を意識することが重要です。「20~30代」「30~40代」のような選択肢では、30歳がどちらに該当するのか分かりにくくなります。「20~29歳」「30~39歳」のように設計することで、この問題を回避できます。
•バイアスを避ける
選択肢を作成する際には、回答者のバイアス(偏り)が結果に影響を及ぼさないよう工夫することが求められます。バイアスとは、記憶や印象に基づく回答が実際のデータと異なる状況を指します。たとえば、医師に「一次治療で最も使用している薬剤」を尋ねた場合、カルテを確認せずに答えると、実際に患者の60%に処方している薬剤Aを「70%くらい」と過大評価してしまうことがあります。このような誤差がバイアスであり、適切なデータ分析には補正が必要です。
バイアスを最小限に抑えるためには、選択肢の設計が重要です。特定の回答に誘導しないよう、自社製品Aだけでなく競合製品BやCの特徴、関連要素(会社のイメージや開発状況など)も含めて選択肢を設定することで、公平性を確保できます。これにより、回答者が特定の製品に偏ることなく、全体を比較しながら回答できる環境を整えられます。
さらに、相対評価を活用することも効果的です。「他の製品に比べて非常に優れている」「優れている」「どちらでもない」「劣っている」「非常に劣っている」といった選択肢を提示することで、回答者が具体的かつ公平な判断を下しやすくなります。
•フリーアンサーの活用
フリーアンサー(自由回答)は、選択肢に含まれない意見も収集することができ、より深いインサイトを得るため有用です。しかし、調査目的から外れた不要な情報が集まることもあるため、導入には慎重になるべきです。自由回答を導入するか迷った際には、パイロットテストを活用することをおすすめします。
少人数でのパイロットテストを通じて、選択肢の妥当性や自由回答の必要性を確認することで、設問の構成や内容に関する課題を事前に把握できます。たとえば、選択肢が回答者の意見を十分に反映しているか、他の意見を収集する余地があるかといったポイントを検討する材料となります。パイロットテストで得られたフィードバックをもとに決定することで、より効果的かつ回答者に配慮した調査設計につながります。
評価スケールについては、調査の目的に応じて以下の点を考慮します。
1.5段階評価と7段階評価の違い
一般的には5段階評価や7段階評価が使用されています。5段階評価では「トップボックス(最上位)」、7段階評価では「トップ2ボックス(上位2つの評価)」を指標とすることが一般的です。
日本では極端な回答を避ける傾向があり、「よく知っている」や「まあ知っている」などの上位評価を2つ足したものが海外の「トップ1」に近い意味合いを持つことがあります。
2.中立的な選択肢の有無
スケール評価において「どちらでもない」を含めるかどうかは、依頼者とリサーチ会社間で議論の対象となります。この選択肢を設けることで、回答者が特定の意見を持たない場合でも正確に回答できる利点があります。一方で省略すると、回答者はどちらか一方に近い選択肢を選ばざるを得なくなり、データの偏りが生じる可能性があります。
また、「どちらでもない」を含めることで、特定の意見を選んだ回答者の意図や強い思いを測定しやすくなるという分析上のメリットもあります。しかし、選択肢の意味合い(例:「関心がない」と「全く関心がない」)が曖昧になりがちで、解釈が難しくなる点が課題です。
3.相対評価の活用
複数の製品を比較する場合、「他の製品と比べて優れている」といった相対的な評価項目を設けることがあります。これにより、製品間の特徴や相対的な優劣を明確にできます。
4.視覚的に示す工夫
言葉で表現しにくい回答を視覚的に捉える手法があります。その一例が「フェイスレイティングスケール」や「ビジュアルアナログスケール(VAS)」と呼ばれる方法です。これらは、痛みや倦怠感などを10段階スケールや表情アイコンで表現し、回答者の気持ちを視覚的に把握する手法で、回答者が言葉で説明しにくい感覚を共有する際に有効です。
評価スケールの選定や項目設計は、求めるアウトカム(目指す結果)に基づいて調整されるため、依頼者とリサーチ会社間で十分な合意形成が重要となります。
定量調査における設問文や選択肢の設計は、調査の信頼性と有用性を大きく左右します。本記事で解説したポイントを押さえながら設計を進めることで、より正確で効果的なデータ収集が期待できます。
Medilead Oncology Expert Advisor 外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任
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