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定量調査とは?医薬品のマーケティングリサーチにおける基礎と活用場面を解説

2024/12/05
北郷 秀樹 / メディリード オンコロジーエキスパートアドバイザー / メディリード オンコロジーエキスパートアドバイザー

株式会社メディリードは、当社のオンコロジーエキスパートアドバイザーである北郷秀樹氏から日々アドバイスをいただく中で、医療、特にオンコロジー領域における調査において、意識しなければならない課題感を日々アップデートしています。今回は、マーケティングリサーチの定量調査についてお届けいたします。

製薬会社が新薬を市場に投入する際にどれだけの患者が使用するか、またどの程度の処方が見込まれるか、市場性を評価し予測する必要があります。このような状況で重要になるのが、数値データに基づいた「定量調査」です。定量調査では数値データを基に対象の傾向や関係性を明らかにします。本記事では、製薬会社が定量調査を活用する主な場面や成功のポイントについて解説します。

定量調査が必要な5つのシーン

1. 数値化した統計データを取得する場合


一つ目は、数値化された統計データを取得したい場合です。経時的なトレンドや変化を追跡したい場合に特に有効で、処方薬の市場状況を正確に把握するには、定量調査による統計データが欠かせません。特に、以下のような場面で有効です。

・発売前後のデータ追跡
たとえば、製品発売前のベースラインデータを収集した後、発売3か月後の認知度や処方割合、製品メッセージの受け入れ度合いなどの推移を分析します。

・患者データの収集
患者に関するデータ収集も重要です。たとえば、製品Aを使用している患者のライン別の人数や、処方割合、併用薬剤、副作用の発現率、中止・切り替えの割合といったデータを取得します。

これらの情報は、製品の市場状況を把握するだけでなく、収益予測に直接結びつきます。患者層の分布や中止率、切り替えの割合などを継続的にトラッキングするため、定量調査は欠かせない手法といえます。

調査を進める際の重要な注意点として、製薬会社とリサーチ会社間で用語の定義を明確にすることが挙げられます。「処方」や「調査期間」などの定義が両者で異なると、それが結果に影響を与える可能性があるからです。

たとえば、A社では薬の組み合わせを変えた場合を「二次治療」と定義する一方で、B社では「一次治療内での切り替え」とみなすことがあります。また、調査期間に関しても、「3ヶ月間で中止した例を含めるかどうか」や、「その期間内で処方を開始した患者を含めるかどうか」など、対象の範囲に違いが生じる場合があります。こうした点を事前に確認し、定義を明確化した上で調査を進めることが重要です。

さらに、一度決めた定義は一貫して適用する必要があります。調査の目的がトラッキングである場合、調査対象の一貫性を保つことが、結果の信頼性に大きく影響します。例えば、3月、6月、9月のトラッキング調査で、対象となる医師の重複度がどの程度あるのかを製薬会社が重視する場合もあります。重複度が高い方が正確性は増すと考えるケースもありますが、この点については製薬会社とリサーチ会社間で綿密に相談しながら進める必要があります。

これらのポイントを踏まえ、調査の定義と対象範囲をしっかりと決め、信頼性の高いデータ収集と分析を行うことが求められます。

2.広範な対象から一般化された傾向を把握する場合


2つ目のケースとして、市場全体の傾向を把握する場合に、広範な対象者を基に一般化された標本データを分析する定量調査が用いられます。


例:肺がん患者の全国調査
肺がん患者が全国に100万人いるとした場合、その全員を調査することは現実的ではありません。そのため、100名から200名程度の標本を抽出して調査を行い、その結果を母集団全体の傾向として推定します。

標本調査には一定の誤差や標準偏差のずれが生じる可能性がありますが、統計的手法を用いることで代表的な傾向を導き出せます。
製品Aの処方理由を把握したい場合、医師が何を評価してその製品を選んでいるのかを明らかにする必要があります。医師によって評価基準が異なることが一般的ですが、定量調査を用いることで、代表的な傾向やパターンを導き出すことが可能です。

たとえば、以下のような観点で分析を行います:


• 安全性の評価: 副作用の少なさやリスク管理のしやすさ
• 効果の評価: 症状の改善度や他製品との比較
• コストの評価: 保険適用や患者の経済的負担


これらの評価基準を5段階評価や重要度スコアとして収集し、医師間での分布や傾向を分析します。さらに、回帰分析や主成分分析などの統計的手法を活用することで、「安全性を重視する医師ほど製品Aを選ぶ傾向がある」といった関連性を示すことができます。
このように、標本データを通じて導き出された結果を母集団全体の傾向として推定することで、製品のマーケティング戦略や営業施策に活用できる結果を得ることができます。医師個々の違いを尊重しつつ、全体の傾向を把握するために定量調査は不可欠な手法です。

3.シナリオ作成やペルソナ作成のための要素を得る場合


3つ目のケースとして、シナリオやペルソナ作成のための要素を得る場合があります。新薬の市場導入においては、成長予測やターゲットユーザー像を明確にするためのデータが必要です。

理想的には、定性調査でパイロット試験を行い、ある程度の項目を確定した上で定量調査を実施するのがベストな方法ですが、定量調査のみでも量的な推計を行うことが可能です。

例:市場成長曲線の予測
製品の売上予測を立てる際には、発売後の各病院での採用時期の違いなどを考慮する必要があります。臨床試験データを基に、既存品と比較した際に医師がどの要素を重視するのかを分析し、新製品が市場でどのような成長曲線を描くのかを予測することができます。成長曲線には、発売直後は緩やかで後に急成長する「S字カーブ型」や、競合が少ない場合に期待値が高まり発売直後に急伸するパターン、あるいは発売後に試験データが蓄積されることで徐々にシェアが拡大するパターンなどがあります。

また、ROI(Return on Investment: 投資収益率)を測るためにも定量調査は有効です。たとえば、イベント、学会発表、Webセミナー、講演会などが医師の処方行動に与えた影響を測定することで、それぞれのイベントがどの程度処方に寄与したのか、イベントごとのインパクトを具体的に把握することが可能です。

ただし、単一のイベントが製品の売上にどれだけ影響を与えるかを特定するのは難しいため、複数のイベントを連続して実施した場合に、その全体的な効果を測定することが望ましいです。例えば、イベントに参加した医師と参加しなかった医師の処方行動を比較することで、その影響度を分析することができます。このような目的で定量調査が行われることもあります。

4. 複数の変数間の関係を分析する場合


複数の製品や要因を比較し、その関係性を明らかにする際にも定量調査が用いられます。

例:製品Aと製品Bの比較
製品Aと製品Bのように競合する製品について、それぞれの特徴がどのように評価されているのかを相対的に比較することで、具体的な傾向を把握できます。
たとえば、5段階評価を用いて製品Aと製品Bを比較する場合、両製品について「非常に優れている」「少し優れている」「どちらでもない」といった評価項目を設定し、強みや課題を特定します。

評価の平均値が同じだった場合でも、細かく分析すると製品ごとの特徴に大きな違いが見られることがあります。このため、単純に平均値だけで判断するのではなく、評価の分布にも注目することが重要です。

5. 仮説の検証を行う場合


また、新たなマーケティング施策の仮説の効果を検証する際に、定量調査が有効です。

例:SNS広告の効果測定
「製品へのタッチポイントを従来の医学雑誌からSNSに変更すると採用率が上がるのではないか」といった仮説を検証する際、SNSに切り替えたグループと切り替えなかったグループを比較し、その間に有意な差があるかどうかを統計的に分析します。

調査成功のためのポイント

1. 調査の定義を明確化する
対象範囲や用語の定義をリサーチ会社と統一することで、データの信頼性を確保します。

2. 一貫性を保つ
トラッキング調査では、同じ基準や条件を適用することで結果の比較が可能となります。

3. データの質を重視する
標本サイズや調査設計を適切に設定し、信頼性の高いデータを収集します。

まとめ

定量調査とは、製薬会社が市場で成功するために不可欠な調査手法です。数値データを収集・分析することで、対象の傾向や関係性を客観的に明らかにします。

定量調査が効果的に活用される場面として、以下の5つが挙げられます。

1. 数値化した統計データの取得:経時的な変化やトレンドを把握するため。
2. 広範な対象から得られる一般化された傾向の把握:重視ポイントや相対比較を通じて、特定の評価を導くため。
3. シナリオやペルソナ作成の要素収集:臨床試験データや処方意向率の分析を通じて、製品の評価や市場での反応を測定するため。
4. 変数間の関係性分析:2つ以上の要素の関係を明らかにし、相対比較や傾向を分析するため。
5. 仮説の検証:持っている仮説が正しいかどうか、有意差検定を用いて評価するため。

これらの場面を理解し調査結果を正しく活用することで、製薬市場での戦略立案をより確実なものにできます。次回は、設問文の作成のコツや注意点について解説いたします。

北郷 秀樹(Hideki Hongo)  

Medilead Oncology Expert Advisor

外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任
ビジネススクールでマーケティングと経営学を学び、がんの知識を病院研修で習得

得意分野

Oncology launch strategic marketing / Oncology market research planning/application /design solution thinking

Reference

JSCO日本癌治療学会会員、JASCC日本がんサポーティブケア学会会員

語学

英語、スペイン語 (少々)

私生活

犬大好き、趣味はノルディックスキー


トレンド解説
この記事の監修者
北郷 秀樹 / メディリード オンコロジーエキスパートアドバイザー / メディリード オンコロジーエキスパートアドバイザー
外資系製薬企業でオンコロジー領域のブランドマネジャー、製品開発、新製品のマーケティング、グローバルオンコロジーマーケティングリサーチリーダーを歴任 ビジネススクールでマーケティングと経営学を学び、がんの知識を病院研修で習得

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