データから見えてくる、てんかん患者の現状と課題
2024/09/17株式会社メディリードでは、当社が保有している国内最大規模の疾患に関するヘルスケアデータベースを活用し、コラム記事としてお届けしています。
てんかんは長期的な治療と管理が必要な病気であり、発作のリスクや日常生活の制約が患者にとって大きな負担となっています。しかし、その具体的な状況や課題については、まだ十分に理解されていない部分も多いのが現状です。そこで、当社が保有する最新のデータをもとに、てんかん患者の生活状況、医療費、職業、生活習慣など、日常生活におけるさまざまな側面を詳しく見ていきます。てんかん患者がどのような困難を経験しているのか、また、どのような支援が必要とされているのかを明らかにしていきたいと思います。
目次
てんかんとは、脳の神経細胞の異常な興奮により、繰り返し起こる発作を特徴とする神経疾患です。てんかん発作は、脳内の電気信号の異常な放電によって引き起こされ、脳の一部で異常が起こる「焦点発作」と、脳全体で異常が起こる「全般発作」の2種類があり、軽い意識の変化から全身のけいれんまで、さまざまな症状があります。
厚生労働省のホームページには、次のようにあります。
「てんかん発作」ではそれぞれの神経系に対応し、体の一部が固くなる(運動神経)、手足がしびれたり耳鳴りがしたりする(感覚神経)、動悸や吐き気を生じる(自律神経)、意識を失う、言葉が出にくくなる(高次脳機能)などのさまざまな症状を生じます。
同じく厚生労働省のホームページによると、てんかんのある方は1000人に5~8人(日本全体で60万~100万人)と言われています。
てんかんの原因には、遺伝的要因や脳の損傷、先天的な異常、感染症などがあります。診断には脳波検査やMRIなどの検査が使われ、治療は主に抗てんかん薬による薬物療法が中心です。薬でコントロールできない場合は、手術や神経刺激療法も検討されます。
2023年に構築したメディリードマーケットプレイス(ヘルスケアデータベース)で、「てんかん」が主疾患であると回答した人の属性は以下の通りです。
〈図1〉
他の疾患を含めた回答者全体の年代別割合と、てんかんを主疾患と回答した人の年代別割合を比較したものです。てんかん患者の年代別割合は40代以下に比較的多いことがわかりました。
〈図2〉
今回の回答者の属性は、ほぼ男女半数ずつでした。
今回の回答者の家族の状況については以下のとおりでした。
〈図3〉
〈図4〉
〈図5〉
〈図5〉は、てんかん患者の職業別の割合を、全体と比較したものです。
データから、てんかん患者は無職やパート・アルバイトの割合が全体より高く、一般的な会社勤務や自営業、専門職に従事する割合が低いことがわかります。また、無職の割合も全体の2倍以上となっています。このことから、てんかんが職業選択や就業の継続に制約を与え、柔軟な働き方を必要とする状況が多いことがうかがえます。
てんかんの診断には、患者の発作の記録や脳波検査(EEG)、MRIなどの画像検査が用いられます。てんかんは、一度診断されると長期間の服薬が必要になることが多いため、初期診断で正確に見極めることが重要です。特に、発作がてんかん発作であるか、他の病気による発作でないかを判断する必要があります。発作の種類(焦点発作または全般発作)や、発作の詳細な状況を把握するために、患者本人や目撃者からの情報が重要です。最近では、スマートフォンで発作の様子を撮影することも診断の助けになります。
てんかんの治療は主に薬物療法が中心で、抗てんかん薬が使用されます。薬物療法で発作をコントロールできない場合は、外科的手術や神経刺激療法が検討されることもあります。
〈図6〉
〈図6〉は、てんかん患者に、これまで経験したすべての治療を尋ねた結果です。
96.0%の患者が飲み薬を処方されており、てんかん治療において抗てんかん薬の使用が一般的であることを反映しています。経口薬以外では、注射が4.0%、点滴が10.1%となっており、いずれにしても薬物療法が中心となっていることがわかります。
薬以外の治療(カウンセリング、リハビリテーション、透析や手術、放射線療法など)を受けた割合は7.1%にとどまっています。
〈図7〉
〈図7〉は、てんかん患者に「新しいお薬や治療法が開発されたことを想定してください。その治療で現在の症状が改善する場合、あなたはその治療を受けたいと思いますか。」と尋ねた結果です。約7割が「受けたい」と回答する結果となりました。新しい治療法によって症状が改善することを強く望んでいると言えます。一方で、多くの患者が現在の治療に何らかの不満や限界を感じている可能性も考えられます。
前述したとおり、てんかんの治療には主に薬物療法が使われます。
服薬の状況についても尋ねました。
服薬アドヒアランスは、患者が医師や薬剤師の指示に従って、処方された薬を正しく服用することを指します。
〈図8〉
〈図8〉は、「薬の使用は、食事、歯磨きのように自分の生活習慣の一部になっているか」を尋ね、てんかん患者と全体を比較したものです。「いつもなっている」と回答したてんかん患者の割合が61.1%で、全体の41.1%と比較して大幅に高いです。これは、てんかん患者が薬の服用を生活習慣としてしっかりと定着させていることを示しています。
〈図9〉
また、〈図9〉は、指示に反して薬を自分だけの判断でやめたことがあるかどうかをお聞きし、全体とてんかん患者で比較したものです。
てんかん患者の「まったくやめなかった」の割合が全体と比較して高くなっています。
これらのデータから、てんかん患者は薬を定期的に服用する重要性を強く認識している可能性が高いと言えます。
〈図10〉
〈図10〉はてんかん患者におくすり手帳を利用しているかどうかを尋ね、他の疾患を含めた全体と比較したものです。
「必ず利用している」と回答した人は、全体37.3%に対し、てんかん患者は82.9%という結果となりました。「大体利用している」(11.0%)も合わせると、9割以上がおくすり手帳を積極的に利用していることがわかりました。
てんかん治療は主に抗てんかん薬による薬物療法が中心であり、複数の薬を服用する場合や、薬の種類や投与量の調整が頻繁に必要になることがあります。てんかん患者は、発作の予防や薬の副作用を管理するために、正確な服薬記録が重要であることを理解していることがうかがえます。
以下は、てんかん患者に、気になる症状(複数回答可)を尋ねた結果です。
気になる症状 |
人数 |
---|---|
不安 |
82 |
いらいら |
78 |
めまい |
77 |
うつ病 |
71 |
不眠症 |
63 |
意欲の低下 |
63 |
片(偏)頭痛 |
62 |
ふさぎこみ |
62 |
物忘れ(記憶障害) |
59 |
判断力の低下 |
59 |
日中の眠気 |
57 |
脂質異常症 |
55 |
睡眠障害 |
54 |
高血圧症 |
50 |
倦怠感 |
48 |
その他の型・型不明の糖尿 |
48 |
新型コロナウイルス感染症 |
47 |
腰痛 |
43 |
歯周病 |
42 |
アトピー性皮膚炎 |
>40 |
不安症 |
39 |
神経症・不安障害 |
37 |
失神 |
37 |
胃炎 |
36 |
「不安」「いらいら」「うつ病」「意欲の低下」「ふさぎこみ」など、精神的なものが多く見られました。
〈図11〉
〈図11〉は、この1年間で入通院した病気や症状について尋ねた結果です。
てんかん患者では、うつ病が一番多いという結果となりました。この結果からも、てんかんがメンタルヘルスにも影響を及ぼしているかもしれない現状がうかがえます。
また、項目に挙げているすべての疾患においててんかん患者の方が割合が高く、「当てはまるものはない」と回答した人も全体では6割近くに対し、てんかん患者では10%と非常に低い割合です。これは、てんかん患者の多くが何らかの他の病気や症状を経験していることを示しており、他の疾患を併発する可能性が高いことがわかります。
てんかんは、長期の経過観察が必要であり、発作のリスクを抑えるため、飲酒、喫煙などの生活習慣に気を付ける必要があります。実際の生活習慣はいかがでしょうか。
〈図12〉
〈図12〉は、1日の平均的な飲酒量を尋ね、てんかん患者と全体を比べたものです。てんかん患者の飲酒の傾向として特徴的なのは、「飲んでいたがやめた(過去飲酒)」と回答した割合(8.2%)で、全体の3.8%と比較して2倍以上となっています。これは、てんかん患者が診断後や治療開始後に飲酒をやめたケースが多いことを示している可能性もあります。
一方で、2合、3合以上飲む人も全体と同じくらいの割合でいることがわかります。
〈図13〉
〈図13〉は、1日の平均的な喫煙本数を尋ね、全体と比較したものです。
0本と回答した割合は、全体75.3%に対し、てんかん患者は71.5%で、喫煙率はてんかん患者の方がやや高いという結果となりました。11-20本と回答した人の割合はてんかん患者の方が高いですが、21-30本と回答した人は全体のほうが高い割合となっています。てんかん患者は、重度の喫煙者よりも中度の喫煙者の割合が高いことがわかります。
〈図14〉
〈図14〉は、1日あたり30分以上の運動をどのくらいしたかを尋ね、全体と比較したものです。全体とほぼ変わらない結果となりました。1割の人が毎日運動をしており、てんかん患者が運動において特別に制限されているわけではないことが示されています。
てんかん患者にとっても、健康維持や精神的な健康のために適度な運動が推奨されますが、発作を誘発する可能性があるため、適切な環境での運動や安全対策が重要です。
てんかんの治療は長期に渡るため、経済的な負担が大きいことも予想されます。医療費に関する現状についてもお聞きしました。
〈図15〉
てんかん患者の1か月あたりの医療費の平均値は6,610円で、全体の平均値である5,048円よりも高いことがわかります。これは、てんかん患者が他の病状に比べてより高い医療費を必要としている可能性があることを示唆しています。
また、標準偏差に注目すると、てんかん患者の医療費の標準偏差は11,434.56円で、全体の標準偏差である40,601.07円と比べて小さい値となっています。標準偏差が小さいということは、てんかん患者の医療費が平均値の周りに比較的一定している、つまり医療費のばらつきが少ないことを示しています。一方で、全体の標準偏差は大きく、医療費にばらつきがあることがうかがえます。
これらのデータから、てんかん患者の医療費は全体と比べてやや高いものの、費用の変動は少なく一定していることがわかります。
〈図16〉
〈図16〉は、この1年間で「高額療養費」制度を利用したかどうか、また利用した場合の直近の負担上限額について、てんかん患者と全体を比較したものです。
高額療養費制度とは、医療費が一定額を超えた場合に、その超過分を健康保険がカバーし、個人の自己負担額を軽減する制度です。高額療養費制度の上限額は、年齢、所得、加入している保険の種類などによって異なります。
全体では高額療養費制度を知らない人は8.8%です。一方、てんかん患者で制度を知らない人は16.4%にあたります。てんかん患者のほうが制度の認知度が低いことがわかります。
全体で高額療養費制度を知っているが使っていない人は63.9%で、てんかん患者では53.7%です。てんかん患者は全体に比べて、高額療養費制度を使用している割合が高いと言えます。
てんかん患者の13.5%が上限額5万円以10万円未満で制度を利用しており、全体の12.6%よりもわずかに高い割合となっています。
また、てんかん患者では上限額10万円以上20万円未満で制度を利用している人が5.3%いるのに対し、全体では3.0%です。上限額20万円以上の利用率も、てんかん患者(3.6%)の方が全体(0.9%)よりも高いです。これらのことから、てんかん患者の方が高額な医療費を必要とするケースが多いと考えられます。
〈図17〉
〈図17〉は、てんかん患者に、病気や症状・お薬の情報を調べるメディアと、その中で信頼しているもの、最も信頼しているもの尋ねた結果です。
てんかん患者が情報を調べる際に最も使用しているメディアは、「テレビ」で50%近くが利用していると回答しています。続いて、「医療機関のホームページ」「その他インターネットのホームページ」と続いています。
他にも「YouTube」や「製薬会社のホームページ」「健康情報のまとめサイト」も多く利用されています。
信頼されているメディアとしても「医療機関のホームページ」「製薬会社のホームページ」が挙げられています。情報の専門性、信頼性を重視していることがうかがえます。もっとも信頼しているメディアとしては、「医療機関のホームページ」と回答した人の割合が最も高いという結果となりました。
「テレビ」は多く利用されている一方で、信頼しているメディアとしてはそれほど高い割合を占めていません。
ソーシャルメディアなどを利用する人も一定数存在し、情報源の多様化が進んでいることを示唆しています。様々な情報源を利用して、信頼できる情報を自分で取捨選択していることが考えられます。
てんかんは、診断後に長期的な治療と管理が必要な病気であり、患者は日常生活の中で様々な困難を経験しています。特に注目すべき点は、てんかん患者は同時に他の疾患を併発しやすく、特に精神的な症状が目立つことです。いつ発作が起こるかわからない不安や長期的な治療、生活上の制約がストレスとなり、精神的な症状につながっている可能性もあります。
そのため、てんかん患者に対する支援は、単に発作を抑えるための治療だけでなく、精神的なケアや生活支援も含めた包括的なアプローチが求められます。
「てんかん」についてのレポートは、以下の記事よりダウンロードいただけます。
■メディリードの ヘルスケアデータベースについて
メディリードのヘルスケアデータベースは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。
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<例> 「医療関連調査会社のメディリードの同社が保有する疾患に関するデータベースを用いたコラムによると・・・」
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