最新データで見る、アトピー性皮膚炎患者の傾向とは?
2024/08/22株式会社メディリードでは、当社が保有している国内最大規模の疾患に関するヘルスケアデータベースを活用し、コラム記事としてお届けしています。
アトピー性皮膚炎は、慢性的なかゆみと湿疹を特徴とする皮膚疾患であり、患者の日常生活に大きな影響を与えることが知られています。しかし、その影響の程度や患者の治療状況、情報収集の手段などについては、個人差が大きく、一概には語れません。この記事では、最新の調査データをもとに、アトピー性皮膚炎患者の基本的な傾向や治療状況、そして日常生活やメンタル面への影響について詳しく見ていきます。
目次
アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis)は、慢性的な皮膚の炎症性疾患で、かゆみを伴う湿疹が主な症状です。数カ月から数年間、さらには一生涯続くことがあり、症状は再発と緩解を繰り返します。強いかゆみや湿疹が特徴で、特に夜間にかゆみが強まり、皮膚を掻きむしることで症状が悪化することがあります。湿疹は顔や首、肘や膝の内側、手足などに現れ、皮膚が乾燥してひび割れや鱗屑(かさぶた)が生じることもあります。
アトピー性皮膚炎の原因は、遺伝的要因や皮膚のバリア機能の低下、環境要因などが考えられます。家族にアレルギー疾患を持つ人がいる場合、発症リスクが高まります。また、皮膚が乾燥しやすいことで外部の刺激物やアレルゲンに敏感になり、症状が引き起こされることがあります。ハウスダストやダニ、花粉などのアレルゲン、季節の変化なども症状の悪化に影響を与える要因です。悪化要因は1つではなく、様々な要因が重なり合って起こることが多いため、これまでの経過などから総合的に判断し、対策を行うことが大切となります。
アトピー性皮膚炎の患者数は、調査や年齢によって異なりますが、成人で100万人程度、小児でも有症率が10~15%とされているので、100万人以上はいると推定されています。
厚生労働省の報告によると、都市と郊外、性別により有症率に明らかな差は見られないとのことですが、実際にはどうでしょうか。当社が保有するヘルスケアデータベースの情報によると、患者の年齢や性別、重症度などは以下の通りでした。
〈図1〉
年代別に見ると、40代以下で多いことがわかりました。40代をピークにそれ以降の年代では減っていきます。これは、年齢が上がるにつれて症状が緩解していく人もいることと関係しているかもしれません。
〈図2〉
男女別の罹患率では、男性が3.0%に対し、女性は5.4%となり、女性の方がやや高い傾向が見られました。
〈図3〉
アトピー性皮膚炎の症状の程度は様々です。「重症である」と回答した人は、50代で一番多いものの、大きな差は見られませんでした。「中等症である」と回答した人は20代未満で最も多く、全体の約6割近くを占めています。40代からは、中等症の割合は下がり、軽症の割合が増えていきます。これは、50代から患者の割合が減っていくこととも関係しているかもしれません。50代で少し重症率は上がるものの、年齢が上がるにつれて有症率、重症率ともに下がっていく傾向があることがうかがえます。
アトピー性皮膚炎患者に、通院に関することをお聞きした結果がこちらです。
〈図4〉
通院状況についてもっとも近いものを選んでいただいたところ、定期的に通院し、治療を受けている人が約6割という結果となりました。直近1年以内に通院した人を含めると、約9割に及びます。アトピー性皮膚炎であると診断された人を対象にしているため、「通院したことはない」と回答した人はいませんでした。
〈図5〉
通院するきっかけとなったものとして当てはまるものをすべて選んでもらったところ、最も多かったのが「気になる症状が出てきた」で、66.5%でした。これは他の疾患で入院・通院している方を含めた回答者全体と比較し、20%以上多い割合です。アトピー性皮膚炎は皮膚に現れる症状であるため、自分で気づきやすいことと関係しているかもしれません。「健康診断や人間ドックで指摘された」「家族や友人に指摘された」という人も合わせて1割程度いますが、多くの場合は自分で気づいて受診したことがうかがえます。
〈図6〉
通院している医療機関の種類を尋ねた結果が〈図6〉です。約7割が医院・診療所・クリニックに通っているという結果となりました。また、約2割が専門のクリニック・病院に通院していると回答しました。
〈図7〉
診断されるまでにかかった医療機関の数を尋ねた結果が〈図7〉です。
1か所と回答した人が約半数という結果となりました。残りの半数は複数の医療機関を受診しており、5か所以上と回答した人も約16%いました。
アトピー性皮膚炎は患者ごとに症状の重症度や原因が異なるため、個別化された治療を行う必要があり、また多様な治療アプローチを行うことが一般的です。当社のヘルスケアデータベースでは、治療や使用薬剤の状況についても聴取しています。
〈図8〉
これまでの経験したすべての治療を尋ねた結果が〈図8〉です。
「塗り薬を処方された」が最も多く、93.2%の人が経験しています。次に多いのが「飲み薬を処方された」で、75.2%の人が経験しているという結果となりました。該当数に対して回答数は約2倍となり、平均して2つの治療法を経験していることがわかりました。注射での治療は5.6%とまだ少ないですが、バイオ医薬品などの新薬の開発に伴い、今後増えていくことが予想されます。
こちらの結果からも、治療方法の多様性がうかがえます。
使用されている薬剤についても聴取を行いました。
〈図9〉
塗り薬を処方されたことがあるアトピー性皮膚炎患者に、これまでに処方されたことがある塗り薬を尋ね、上位の割合を示したものが〈図9〉です。
最も多く使用されているのはプロトピックで、約3人に1人が処方された経験があります。有効成分であるタクロリムス水和物は免疫抑制作用を持ちます。ステロイドを含まないため、長期使用でも副作用が少なく、特にデリケートな部位に適しています。
プロトピックの次によく使用されているキンダベートは、軽度から中等度の炎症性皮膚疾患に対して効果があります。有効成分であるクロベタゾン酪酸エステルは、抗炎症作用や免疫抑制作用を持ちます。ステロイド系の薬としてよく使用されますが、長期使用には注意が必要です。
コレクチムは、炎症を抑制する新しいタイプの薬剤であり、特に炎症性サイトカインの生成を抑える効果が期待されています。
サリチル酸ワセリンやケラチナミンは、皮膚の保湿や角質の柔軟化を目的として使用され、特に硬くなった皮膚のケアに有効です。どちらも、補助的に使用されていると考えられます。
〈図10〉
飲み薬を処方されたことがある人に、これまでに処方されたものをお聞きし、上位の薬剤とその割合を示したものが〈図10〉です。結果から、アトピー性皮膚炎の治療において、抗ヒスタミン薬とステロイド系薬が広く使用されていることがわかります。
まず、最も多く処方されているのは「アレグラ(フェキソフェナジン塩酸塩)」で、22.8%の人が処方されたことがあると回答しています。アレグラは抗ヒスタミン薬であり、アレルギー性のかゆみを抑える効果があります。
次に多いのが「リンデロン(ベタメタゾン)」で、20.1%の患者が処方されています。リンデロンは強力なステロイド系薬で、皮膚の炎症を抑える効果があり、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールするために頻繁に使用されています。
「ザイザル(レボセチリジン塩酸塩)」も14.9%の患者に処方されています。こちらも抗ヒスタミン薬の一種であり、アトピー性皮膚炎によるかゆみを軽減するために広く用いられています。
さらに「アレジオン(エピナスチン塩酸塩)」と「ビラノア(ビラスチン)」がそれぞれ11.5%、「タリオン(ベポタスチンベシル酸塩)」が9.1%の患者に処方されており、これらも抗ヒスタミン薬で、かゆみやアレルギー反応を抑える効果があります。特にビラノアは、眠気の副作用が少ないことが特徴です。
〈図11〉
〈図11〉は、アトピー性皮膚炎の治療において使用された注射薬について、処方されたことがある薬剤を調査した結果の上位を示しています。昨今、アトピー性皮膚炎の治療には、従来の塗り薬や飲み薬に加えて、注射薬が使用されることが増えてきました。
最も多く使用されているのが「デュピクセント(デュピルマブ)」で、全体の30.4%を占めています。デュピルマブは、アトピー性皮膚炎治療薬としては初の生物学的製剤(バイオ医薬品)です。バイオ医薬品とは、生物由来の成分や生物そのものを使用して製造された治療薬のことです。化学合成された医薬品とは異なり、タンパク質や酵素、抗体など、生体の構成要素を利用して作られています。デュピクセント(デュピルマブ)は、免疫系の特定のタンパク質を標的にして炎症を抑えることができ、重症のアトピー性皮膚炎の症状を効果的に管理することが可能です。
次に多いのが「タチオン(グルタチオン)」で7.5%を占めています。タチオンは、抗酸化作用を持つ薬剤で、体内の活性酸素を減少させることで、皮膚の炎症を和らげる効果があります。
「ケナコルト-A(トリアムシノロンアセトニド)」が6.2%で続いています。これは、ステロイド系の注射薬で、強力な抗炎症作用があり、急性の炎症を抑えるために使用されます。
「ピドキサール(ピリドキサールリン酸エステル水和物)」は3.7%で、ビタミンB6の一種です。皮膚の代謝を促進し、治癒を助ける役割があります。
「ケベラS(グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤)」は、漢方薬由来の成分を含む薬剤で、炎症を和らげる効果があり、皮膚の状態を整えるために使用されます。
このように、アトピー性皮膚炎の治療においては、患者の状態に応じてさまざまな注射薬が使用されていることがわかります。特に、デュピクセントのようなバイオ医薬品は、重症の患者に対して高い効果を発揮するため、治療の選択肢として重要な役割を果たしています。
〈図12〉
1か月あたりの治療費を尋ねた結果が〈図12〉です。
1か月の治療費の平均値は、9729円という結果となりました。全体での平均は6731円なので、それよりも3000円ほど高いという結果となりました。アトピー性皮膚炎は長期に渡って治療が必要であることを考えると、患者の経済的な負担は比較的大きいことがうかがえます。
〈図13〉
直近で受けた治療の満足度でもっとも当てはまるものを尋ねた結果が〈図13〉です。
「どちらともいえない」と回答した人が最も多く、約41%という結果でした。
「とても満足である」「満足である」と回答した人は合わせて約40%であり、全体の50%と比較すると約10%低いという結果となりました。アトピー性皮膚炎は、一般的に長期に渡って治療が必要な疾患であり、緩解までに時間がかかることが、満足度の低さにつながっている可能性も考えられます。
〈図14〉
入通院している医療機関で、オンライン診療(遠隔診療)が使えるとしたら、どのくらい利用したいかを尋ねた結果が〈図14〉です。
「とても利用したい」と回答したのは10.8%で、「利用したい」と合わせると約37.8%の患者がオンライン診療に対して前向きな姿勢を示しています。
一方で、「利用したくない」と「全く利用したくない」と回答した患者は合計で21.5%です。
「どちらともいえない」と答えた患者が最も多く、40.7%に達しています。
約4割の患者がオンライン診療を積極的に利用したいと考えている一方で、同じくらいの割合の患者がオンライン診療に対して明確な意見を持っていないことがわかります。この「どちらともいえない」層が多いことから、オンライン診療についての理解不足や、対面診療に対する強い信頼が背景にある可能性があります。
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみや湿疹を伴う疾患であるため、日常生活への影響が大きいと推察できますが、実際はいかがでしょうか。当社のヘルスケアデータベースでは、仕事など日常生活への影響についても聴取しています。
〈図15〉
〈図15〉は、アトピー性皮膚炎が仕事の生産性にどの程度影響を与えたかを、アトピー性皮膚炎患者と全体の調査対象者を比較したものです。
「仕事に影響を及ぼさなかった」(0)と答えた割合は、全体では55.0%と過半数を占めているのに対し、アトピー性皮膚炎患者では36.8%にとどまっています。これは、アトピー性皮膚炎の患者にとって、疾患が仕事に何らかの影響を与えていると感じる人が多いことを示しています。
中程度の影響を示すスコア(1〜7)の範囲でも、アトピー性皮膚炎の患者が全体よりも高い割合を占めています。スコア9や10などの極端に高い影響を示す回答(「完全に仕事の妨げになった」)の割合は、全体と比較してアトピー性皮膚炎患者の方が低いかほぼ同等ですが、それでも一定の割合で存在していることがわかります。
〈図16〉
〈図16〉は、アトピー性皮膚炎が日常生活にどの程度影響を与えたかを、アトピー性皮膚炎の患者と全体の調査対象者を比較したものです。
「日常の諸活動に影響を及ぼさなかった」(0)と回答した割合は、全体では48.3%とほぼ半数が影響を感じていないのに対し、アトピー性皮膚炎の患者では25.1%にとどまっています。これは、アトピー性皮膚炎が仕事だけでなく、日常生活にも影響を与えていることが多いことを示唆しています。
スコア1〜9の範囲においても、アトピー性皮膚炎患者が全体よりも高い割合を占めています。特にスコア1、2、3の範囲で、アトピー性皮膚炎患者の割合が全体と比較して高くなっています。これは、アトピー性皮膚炎が仕事だけでなく日常生活にも中程度の影響を及ぼしていることを示しており、仕事に及ぼす影響と類似したパターンが見られます。
「完全に日常の諸活動の妨げになった」(10)と回答した割合は、全体と比較すると低いものの、一定以上存在しています。これらの結果から、アトピー性皮膚炎患者の多くが、仕事や日常生活の両方で影響を受けていることがうかがえます。
〈図17〉
もっともひどかったときの、ふだんの活動について尋ねた結果が〈図17〉です。「ふだんの活動を行うのに問題はない」と回答した人は56.1%でした。回答者全体では62.8%なので、それよりは少なく、問題がある人が多いことがうかがえます。一方で、「ふだんの活動を行うのにかなり問題がある」「ふだんの活動を行うことができない」と回答した人は合わせて8.1%で、全体の13.1%と比較すると少ない割合でした。問題があると回答した人の中では、「少し問題がある」と回答した人が最も多く、24.6%でした。
〈図18〉
もっともひどかったときの、痛みや不快感について尋ねた結果が〈図18〉です。
「痛みや不快感はない」と回答した人は約21%で、全体の54%と比較するとかなり低い割合となりました。さきほどの結果を踏まえると、ふだんの活動を行うのに問題はないけれど、痛みや不快感を抱えている人が多いことがうかがえます。「かなりの痛みや不快感がある」「極度の痛みや不快感がある」人は合わせて約25%で、4人に1人の割合となりました。
こちらも全体の16%と比べると高い割合です。かゆみや湿疹を伴うため、他の疾患に比べて痛みや不快感を持つ人が多いことがうかがえます。
〈図19〉
もっともひどかったときの、不安やふさぎこみについての状態について尋ねた結果が〈図19〉です。「不安でもふさぎ込んでもいない」と回答した人は45.0%で、全体の59.4%と比べて低い割合となりました。痛みや不快感が、メンタル面にも影響を与えていることがうかがえます。
〈図20〉
周囲からの理解は得られているのでしょうか。周囲の様子を尋ねた結果が〈図20〉です。
「家族の理解を得られている」と回答した人は77%、「職場や学校の理解を得られている」は26%で、全体と変わらない数字となりました。
アトピー性皮膚炎患者が、ふだんどのような媒体で情報収集しているのかについても聴取しました。
〈図21〉
〈図21〉は、アトピー性皮膚炎患者に情報収集をするために最も利用している媒体と、そのうち信頼できるものを尋ねた結果を比較したものです。
テレビは最も利用されている媒体であり、信頼できる情報源としても高い評価を得ています。インターネットの利用が一般的になった現代においても、テレビは広くアクセス可能であり、伝統的なメディアとして信頼されていることがうかがえます。
医療機関のホームページは、利用率ではそれほど高くないものの、信頼できる情報源としては非常に高く評価されています。また、製薬会社のホームページも、同じく信頼できる情報源として一定の評価を受けていることがわかります。
健康情報のまとめサイトやキュレーションアプリなどは、信頼度において医療機関のホームページやテレビに劣ります。これは、インターネット上の情報が玉石混交であり、情報の真偽を見極めるのが難しいためだと考えられます。
今回の調査データを通じて、アトピー性皮膚炎患者が直面している多様な課題が明らかになりました。治療においては、患者の治療満足度には課題が残されていることがわかりました。また、アトピー性皮膚炎は、仕事や日常生活に深刻な影響を及ぼしており、特にメンタル面での影響が無視できないことが示されました。これらの結果を踏まえ、患者の生活の質を向上させるためには、より個別化された治療アプローチが求められるでしょう。アトピー性皮膚炎の患者が安心して治療に臨める環境作りが、今後さらに重要となってくると考えられます。
「アトピー性皮膚炎」についてのレポートは、以下の記事よりダウンロードいただけます。
■メディリードの ヘルスケアデータベースについて
メディリードのヘルスケアデータベースは、国内最大規模の疾患に関するアンケートデータであり、(1)一般生活者の疾患情報に関する大規模調査、(2)何らかの症状・疾患で入通院中の方の主疾患に関する深掘り調査(追跡調査)から構成されています。回答者への追跡調査は、より深いインサイトの獲得を可能にします。また、電子カルテ情報やレセプトデータなどの大規模データベースには含まれないデータも多く、ヘルスリテラシー向上の意義など、社会的に重要な意味を持つ分析も可能です。2019年より、100を超える症状・疾患を調査に追加し、より幅広い領域でご活用いただけるようになりました。また、同年調査より研究倫理審査委員会(IRB)の審査も通し、疫学的研究の資料としても利用していただきやすくなっております。
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