(2023/10/26 初版公開、2026/1/27 更新)
近年よく耳にするようになった摂食障害は、食事量や食べ方など、食行動を中心に様々な問題があらわれる精神疾患です。ほかの精神疾患と比べて死亡率が高く、深刻な病気の一つとされています。この記事では、摂食障害についての解説に加え、当社が所有しているMMP(Medilead MarketPlace)のデータから読み取れる現状について解説いたします。
目次
摂食障害は、前述したとおり食行動に関する重篤な障害です。大きく分けて、拒食症神経性やせ症(拒食症)、神経性過食症(過食症)、過食性障害に分類されます。単独で発症するだけでなく、抑うつ障害や不安症などの精神疾患を併発しているケースも少なくありません。
それぞれの疾患について解説します。
神経性やせ症(拒食症)は、体重が増えることに対する強い恐れなどから、食事を過度に制限し、極度の低体重に至る精神疾患です。診断にあたっては著しい低体重が重要な目安となりますが、体重やBMIだけで判断されるものではなく、心理的・行動的な側面を含めて総合的に評価されます。
また、神経性やせ症(拒食症)では、食事制限をした反動として過食が生じたり、嘔吐や下剤の大量使用などの排出行為がみられたりする場合もあります。
なお、食欲低下や身体疾患などにより結果的に低体重となる場合もありますが、神経性やせ症(拒食症)は、体重増加への強い恐れや意図的な食事制限を特徴とする精神疾患であり、単なる食欲不振とは区別されます。
主な症状としては、脈拍数の減少、低体温、低血圧、骨粗しょう症、貧血、肝機能障害、低血糖のほか、運動障害や意識障害などもみられます。女性の場合は無月経がみられることもあります。死亡率もほかの疾患と比べて高いとされており、早期の対応が重要です。
神経性過食症(過食症)は、過食衝動をコントロールできず、短期間に大量の食べ物を詰め込むように摂取してしまう精神疾患です。体重増加への強い不安を抱えながらも、感情的な苦痛や衝動を一時的に和らげる手段として過食行動が生じることがあります。 このような過食行動は「むちゃ食い」とも呼ばれることもあります。
過食に加え、体重増加を防ぐために、嘔吐や下剤の乱用といった排出行為が見られることも特徴です。なお、神経性やせ症(拒食症)においても過食嘔吐がみられる場合があり、両者の区別が難しいケースもあります。
一般的には、標準の健康状態より低い体重を維持していれば「神経性やせ症」、嘔吐や下剤乱用などの行動があっても標準体重あるいは過体重の状態にある場合は「神経性過食症」と診断されることが多いとされています。
また、神経性やせ症(拒食症)では病気であることを認めず治療を拒否するケースが多い一方、神経性過食症(過食症)では、過食行動に対する罪悪感や自己嫌悪感を抱き、治療を希望するケースが比較的多いとされています。
過食嘔吐を繰り返すことで、低カリウム血症や慢性腎不全、肝不全、急性腎不全などの合併症を引き起こす場合があります。重症の場合には、低カリウム血症による不整脈から、突然死に至ることもあります。
過食性障害とは、明らかな過食行動を繰り返す病気です。短期間に大量の食事を摂取し、食後に強い自己嫌悪や罪悪感をもつ点は神経性過食症(過食症)と共通しています。
一方で、神経性過食症(過食症)では、食後に嘔吐や下剤の乱用、絶食、過度の運動などの排出行為や埋め合わせ行為がみられるのに対し、過食性障害ではこうした行動がみられないことが大きな特徴です。
過食性障害は、過体重、または肥満傾向の人に多くみられる傾向がありますが、体重だけで診断されるものではありません。
また、抑うつ障害や不安症のほか、双極性障害を併発しているケースもあります。
|
項目 |
神経性やせ症(拒食症) |
神経性過食症(過食症) |
過食性障害 |
|---|---|---|---|
|
主な特徴 |
食事を極端に制限し、著しい低体重に至る |
過食と排出行為を繰り返す |
過食を繰り返すが排出行為はない |
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過食行動 |
みられることがある |
みられる |
みられる |
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排出行為 |
みられることがある |
みられる |
みられない |
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体重の傾向 |
著しい低体重 |
標準体重〜過体重 |
過体重・肥満傾向が多い |
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診断のポイント |
低体重+体重増加への強い恐れ |
過食と排出行為の反復 |
過食の反復+排出行為がない |
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併発しやすい疾患 |
抑うつ障害、不安症など |
抑うつ障害、不安症など |
双極性障害、抑うつ障害、不安症など |
摂食障害になる要因は一つではなく、心理的要因、文化・社会的要因、性格的要因、家庭環境など、様々な要因が複雑に関係していると考えられます。
神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)は、体重や体型に対する強いとらわれが共通してみられることが多いものの、発症に至る背景は人それぞれ異なります。多くの患者さんは、自己評価の低下、傷ついた経験、不安、疎外感や孤独感、周囲の期待に応えられない罪悪感など、さまざまな心理的負担を抱えています。
特に神経性やせ症(拒食症)では、ストレスへの対処がうまくいかない傾向や、家族関係を含む対人関係の難しさが指摘されることもあります。その結果として、体重をコントロールする行動が、自身の感情を表現する手段や、周囲との関係性の中で意味を持つ場合もあります。また、まじめで努力家な性格特性から、体重減少という目標に向かって過度に努力し、目に見える成果を得ることで、さらに制限行動が強まるケースもみられます。
神経性過食症(過食症)や過食性障害では、職場や学校、家庭内などでの過度なストレスを背景に、その解消方法として過食行動が生じる場合や、ダイエットの失敗により過食にいたるケースなどがよくみられます。また、抑うつ症状などの精神疾患が背景となって発症することもあります。
現在の日本において、摂食障害とされている人の割合、年代などの現状はどうなっているのでしょうか。MMPから読み取れることをまとめてみました。
<図1>
MMPでは、気になる症状、1年以内に入通院した症状を聴取しています。2024年の調査によると、摂食障害と回答した人のうち、拒食症(神経性やせ症)・過食症(神経性過食症)・過食性障害のそれぞれの内訳は、<図1>の通りとなりました。どちらも拒食症が一番多く、過食症、過食性障害と続いています。また、該当数に対し回答数は約2倍近くとなっており、多くの方が、拒食症と過食症など2つ以上の疾患を併発していることもうかがえます。
また、「気になる症状」として挙げられた人数に比べ、「1年以内に入通院した症状」として挙げられた人数は少なく、症状を自覚していても、医療機関の受診には至っていないケースが一定数存在する可能性が示唆されます。
摂食障害は一般的に若い女性に多いとされていますが、実際はいかがでしょうか。MMPの調査から、性別・年代別に発症率をみてみました。全体の回答数336,987人のうち、気になる症状として「拒食症」「過食症」を挙げている方の割合を示したのが下のグラフです。
<図2>
全体として、いずれの年代・性別においても割合は1%未満にとどまっており、数値としては低い水準であることがわかります。その中でも、拒食症・過食症ともに女性で高い傾向がみられ、特に10代女性において最も高い割合を示しました。
拒食症については、年代が進むにつれて全体として低下する傾向がみられます。
過食症については、20代でやや割合が減るものの、30代以降の一部の年代では、拒食症よりも高い割合となっています。
一方、男性では女性に比べて全体的に割合は低いものの、拒食症は20代で最も高く、その後の年代では大きく低下しています。過食症については、30代以降の一部の年代で拒食症を上回る割合がみられ、男性においても過食症が一定数存在することが示唆されます。
このように、拒食症・過食症はいずれも割合自体は低いものの、性別や年代によって偏りがみられる疾患であることが、データからうかがえます。
<図3>
摂食障害では、ほかの精神疾患や精神症状を併発しているケースが少なくありません。 <図3>は、摂食障害で1年以内に入通院した人のうち、各疾患・症状についても1年以内に入通院していると回答した割合を示したものです。
その結果、最も多くみられたのは不安で、全体の約6割を占めています。続いて、うつ病、不安症が多く、摂食障害と気分障害や不安関連の問題が密接に関係していることがうかがえます。
そのほかにも、神経症・不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、双極性障害(躁うつ病)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などが一定の割合でみられました。
また、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)、パーソナリティ障害といった発達特性・人格特性に関連する診断を併発しているケースも確認されています。
このように、摂食障害で治療を受けている人の多くが、同時期に他の精神疾患や精神症状についても医療機関を受診していることが明らかになりました。
摂食障害は単独で生じる疾患というよりも、不安や抑うつをはじめとした複数の精神的問題と重なり合いながら現れる疾患であることが、データからも示唆されます。
これまでみてきたとおり、摂食障害は心理的な要因が大きく関係しているため、精神療法や認知行動療法、必要に応じて薬物療法が用いられます。
特に拒食症の場合は、生命に危険が及ぶこともあるので、低体重の有無を確認しつつ、精神療法と薬物療法に加え、場合によっては栄養補給剤も用いて治療します。
当社が保有する疾患情報パネルであるMMPによると、摂食障害で入院・通院された方78人のうち、処方薬を服用・使用している方は約48.7%でした。半数以上は薬物を用いずに、認知行動療法などが中心に治療をおこなっていることがうかがえます。
<図4>
摂食障害は、食事量や食べ方など、食行動を中心にさまざまな問題があらわれる精神疾患です。大きく分けて神経性やせ症(拒食症)、神経性過食症(過食症)、過食性障害に分類され、心理的要因、文化・社会的要因、性格的要因、家庭環境など、様々な要因が複雑絡み合って引き起こされると考えられます。当社の保有するMMPからも、10代から40代の女性に多い傾向が見られました。
一方で、症状が気になっていても医療機関を受診していない人が一定数存在することや、摂食障害で治療を受けている人の多くが、不安や抑うつなど他の精神的な問題についても同時期に受診していることが示されています。
摂食障害は、本人が自覚しにくい場合や、周囲から気づかれにくい場合も少なくありません。しかし、放置すると心身への影響が大きくなる可能性があるため、食事や体重、食行動について気になる変化がある場合には、早めに医療機関や専門機関に相談することが大切です。
周囲の理解と適切な支援、そして早期の受診が、回復への重要な一歩となります。