〈図6〉
今までに、罹患疾患の治療をやめたい気持ちになったことがあるか、を聞いたところ、「現在治療をやめたいと感じている」人は12.2%、「過去に治療をやめたくなったことがある」という人は24.4%でした。3分の1以上がこれまでに治療をやめたいと思った経験がある、ということになります。IBDは長期にわたり治療を継続しなければなりませんが、多くの患者さんが治療継続のモチベーションを保つのに苦労している/した経験があることがわかります。
では、治療継続のモチベーションにつながる要素は何なのでしょうか。治療をやめたくなったことがある人は3分の1以上いますが、やめたくなったことのない人との違いは何なのでしょうか。
治療をやめたくなったことがある人とそうでない人の違いを見ることで、「どんな人が、なぜ治療をやめたいと思ってしまうのか」ということについて、引き続きみていきたいと思います。
属性面での特徴
まずは属性面での特徴をみてみます。
〈図7〉
年齢をみてみると、中断意向あり者(「現在、治療をやめたいと感じている」人と「過去に治療をやめたくなったことがある」人の合計)は中断意向なし者と比較して年齢は若めでした。30代以下では半数近く(44.6%)が中断意向あり者となりました。
「過去に治療をやめたくなった経験」も聞いているので、年齢を重ねると「やめたくなった経験」が増えても良いはずですが、今回の調査ではやめたくなった経験(「過去に治療をやめたくなったことがある」)も年齢が上なほど低い(60代以上は22.8%、対して30代以下では29.2%)、という結果になりました。
これはすなわち、「治療中断意向」には年齢ではなく「世代」的な考え方の違い、つまり「ジェネレーションギャップ」が生じている、ということを示唆しています。若い世代のニーズが反映されていない、もしくは若い世代が求めることが提供されていないため、若い人程治療継続のモチベーションが低くなっている、と考えられます。
〈図8〉
性別では治療中断意向あり者の方がなし者と比べ女性が多めでした(中断意向あり者は42.9%、なし者は30.0%)。
これも世代間ギャップと同じく、治療において女性が求めがちなことが反映されていないため、治療継続のモチベーションが低くなっている可能性があります。
就労状況では、中断意向あり者よりなし者の方が「就学・就労していない」率が高めでした(中断意向あり者は24.4%、なし者は30.4%)。
中断意向なし者は60歳以上の比率が高いということとも関連していますが、中断意向あり者はなし者と比べ、より学業や仕事との両立への悩みが生じやすい状況にあり、それが治療継続モチベーションにも関わっている、と考えられます。学業や仕事といった社会生活との両立については、後の回で詳しく取り上げます。
症状における特徴
IBDの症状や治療まわりについてみてみます。
〈図9〉
〈図10〉
〈図11〉
〈図12〉
中断意向あり者はなし者と比べ、以下のような特徴がありました。
・「急性期/活動期」の割合が高め(中断意向あり者は14.1%、なし者は10.0%)<図9>
・「最もつらい症状」において「特にない」を選択した率が低め(中断意向あり者は20.5%、なし者は39.6%)<図10>
・通院頻度が高め:中断意向なし者に比べ「3-4週間に1回程度」が高め(中断意向あり者24.4%、なし者18.9%)で「3か月に1回程度」が低め(中断意向あり者は26.3%、なし者は32.2%)<図11>
・入院回数が多め(中断意向あり者の平均入院回数は1.84回、なし者は1.67回)<図12>
つまり、中断意向あり者はなし者と比べ、症状が出ている/症状が重めの傾向がある、という結果になりました。
アドヒアランス(医師の指示を守っているか)における特徴
治療に際しての患者さんのアドヒアランス、つまり、通院頻度や服薬についてどのくらい医師の指示を守っているか、についてみてみます。
〈図13〉
中断意向あり者はなし者と比べ、通院頻度、自己注射や薬のアドヒアランスともに低めの傾向がみられました。
通院頻度が「守れている」とTOP BOXの回答をしているのは中断意向あり者では56.4%と半数程度ですが、なし者は75.6%と、20%近い差がありました。自己注射や薬についてのアドヒアランスも、TOP BOX回答で中断意向あり者となし者で10%近くの差がありました。
症状が重めの人の割合が高めにもかかわらず、中断意向あり者の方が治療に際してのアドヒアランスがやや低い、ということは、「症状が重い」からといって「医師の言うことを(忠実に)守る」という行動にはつながりにくいことを示唆しています。それはなぜなのでしょうか。
長期寛解達成への理解
図14は、「主治医の指示を守ることで、長期の寛解を達成できる」についての同意度を示したものです。「強くそう思う」を10点、「全くそう思わない」を0点として、選んでもらいました。
〈図14〉
中断意向あり者は症状が重めとすると、現状は苦しいはずですが、なし者と比べ、全体的に同意度が低くなっています。例えば、中断意向なし者は「10点(強くそう思う)」と答えた人は28.5%でしたが、あり者は17.3%にとどまりました。逆に、中断意向あり者では、4点未満の低い得点を付けた人が17.9%いました(対してなし者では4.4%でした)。
中断意向あり者がなし者に比べ、「主治医の指示を守る」ことに対しての重視度が低めなのか、「長期の寛解が達成できる」ことに関しての理解が浅いのかは定かではありません。しかし、中断意向あり者には以下のような悪循環が起こっている可能性があります。
「主治医の指示を守ることで、(将来的には)長期の寛解が達成できる」ということに同意していない(理解が浅い)
→現段階で辛い症状に直面すると、すぐに良くならないことで治療が嫌になってしまう
→医師の指示に従うモチベーションがさらに下がる
→長期の寛解が達成しづらくなる
→(医師の指示を守ることで長期の寛解が達成できる、と感じられない)
→更に治療継続のモチベーションが下がる
〈図15〉